ホテルアイリスの思い出

大好きな小川洋子の作品である「ホテルアイリス」
昔付き合っていた男に勧められて読んで以来、私は彼女の作品の虜になった。

当時私たちが足繁く通っていたホテルマキシムで、この本を渡されて
夏の暑い日の昼休み、当時の職場のラフォーレ原宿のテラスで読んでいた。

彼女の小説の言葉は一つ一つに落ち着きと品があって、読んでいると
クーラーの聴いた冷たい部屋にいるような気持ちになる。
本の内容は、ホテルアイリスを経営する家族の娘が、その街で疎まれている謎の中年男性と逢引をするというよくある歳の差男女の話だが
台詞回しやシチュエーションなどがいちいち心をえぐる程に良い。

似たような設定で思い出すのは嶽本野ばらだ。彼の作品も大体少女と年上の男性のインモラル気味なラブストーリーなのだけど、なんとなくその男性キャラクターが全て作者のような印象にさせるので読みながら萎えていたなぁ。

まだ少女のバイブスを持ち合わせていた頃に読んだホテルアイリスは
読んでいるだけで私も背徳的な気持ちにさせてくれて気持ちよかった。
閉塞的な世界でホテルの手伝いをするだけの主人公の少女。
中年男性への友愛とも性愛とも分からない感情から、次第に関係性がおかしくなっていくあの感じはたまらない。
日本なのか外国なのか、現代なのか昔話なのかも分からない設定もまた良い。
ファンタジーとして楽しめる余白がある作品は読んでいて自由だ。

この先はネタバレをするけど、後半の一気に絶望感が増していくシーンで
一番好きなセリフが
「私、あなたを裏切りました」というもの
登場人物たちの関係性がもう本当に抜群で、終盤でこのセリフを言わせる作者は本当に性格が悪そうで大好きになった。
サディスティック過ぎてゾクゾクする。

少女がどうやって男性を裏切ったかというと、いわゆる不貞行為なんだけど
その相手がまたエグいので、興味がある人は是非読んで欲しい。
男女の救いあるバッドエンドが好きな人にお勧めしたい一冊。

急に涼しくなって、ふと思い出したあの本だけど、
今はもう読みたく無いな。



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