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パン、茶、宿直

 小さい頃、母と一緒に夜ふかしをして、タモリ俱楽部の『空耳アワー』を観る時間が大好きだった。

 画面いっぱいにセクシーな女性のお尻が映るオープニング映像に多少の気まずさを感じながら、声を殺して笑う。
 間違いを間違いのまま、ユーモアに変えていくというその強気な姿勢に、胸がときめいてたまらなかった。
 ここでは「正解」が邪魔な要素になる。そんな世界があってもいいのだ。


 今日はわたしが宇宙一好きな、空耳アワーの作品を紹介しようと思う。

 これはご存知、マイケル・ジャクソンの『Smooth Criminal』のイントロ部分に空耳の歌詞を当てはめたものだ。
 空耳アワー界では歴史に残る超有名作品。久しぶりにこの動画を観て、今まさに文字を打ちながらニヤニヤしている。それにしても、このコーナーの安っぽい再現映像は本当にずるい。

 この動画の何が一番いいかって、タモリさんと安斎さんがめちゃくちゃ笑っているところ。
 無邪気に笑う人の姿は、見ていてすごく幸せな気持ちになる。ただの「聞き間違い」なのに、どうしてこんなに面白いのか。
 言葉が持っている力はなんて無限大なのだろう。そう思うと、心が震えた。


 反対に、外国人が日本語を空耳してしまった例の中に好きなものがある。これは確か、某サイトのスレッドで見つけた書き込みだったような気がする。

 ある外国人が日本アニメの動画配信サイトに「アニメの途中によく聞く、"Grand sponsor Tokyo day OH Christmas"って何?」という書き込みをしていたらしい。
 よく考えてみたら元の日本語は「ご覧のスポンサーの提供でお送りします」だった、というもの。この書き込みを読んだ時、思わず声に出して音読してしまった。ああ、たしかに、そう聞こえるかも。

 その他にも日本のアニメソングで、大分カオスな英語に聴こえる曲があるらしく、それも少し前にネットで話題になっていた。
 空耳アワーを観ていた頃は、まさか海外版空耳アワーみたいなものが存在するなんて思いもしなかった。だからこそ、その存在を知った時、自分の見ている世界がぐんと広がった気がして嬉しかった。

 言語が存在する限り、どこの国にだってこの遊びをしている人も存在し得るのだ。なんと奥深い、言葉の世界である。

 日本語が好きで、日本に生まれて良かった、と思う瞬間が本当に沢山ある。
 日本語でしか表現できない繊細な感情や情景があって、この国に生まれていなければ、その本当の意味を理解するのはとても難しいことだったと思うから。

 しかし、空耳とか言葉遊びに限っては、自分が日本人であることが少しだけ悔やまれる。
 だって日本に生まれた限り、外国人側から見たへんてこな日本語を一生知ることができない。知るには、あまりにも身近な言葉過ぎるのだ。
 人間は母国語をひとつしか持てない。悲しい運命である。

 だからこそ、自分が偶然手にした日本語という言語の言葉遊びを、思う存分味わって、面白がりたいと思う。
 言葉遊びとは言語を持っている全ての人が、平等に楽しめるものだ。必要なのは言葉と、それからユーモアだけ。
 そこに正解は必要ない。立派な意味付けもいらない。それを面白いと思えること、ただそれだけで良い。




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