サインデザイン分析#4 韓国編

これまで、空港や地下鉄のサインを中心に見てきましたが、今回は観光地のサインを分析。2020年1月に見たものなのでだいぶ時間が経ってしまいましたが、写真を見返すと新たな気づきもあったので、ここで整理しておこうと思います。


訪れたのは景福宮。

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景福宮は、朝鮮王朝の始祖である李成桂(イ・ソンゲ)が1395年に建設した最初の王宮。ソウル随一の観光地だけあり、多くの人が訪れます。
私が訪れた時も、あちこちで外国人向けのツアーが実施されていました。

そんな人気観光地なのだから、もちろんサインも多言語表記。景福宮の敷地内や周辺にあるサインを見ていきましょう。

1 案内サイン

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地下鉄景福宮駅で見つけた案内サイン。

歴史ある景福宮らしい駅になじむ落ち着いたデザイン。ピクトグラムや書体もいいと思うのですが、文字の視認性が気になりました。
プレートの横幅に合わせて無理やり情報を収めているように見えます。特に右側の Gyengbokgung の文字間がかなり狭く、読みにくいです。

写真から既存のサインをトレースしてみると、韓国語も英語もデフォルトより70〜80%ほど文字の横幅を縮小させ、文字間も狭くなっていました。Gyengbokgungは60%も横幅が縮小されていました。
(既存サインに使われている欧文書体はおそらく frutigerで、今回は Myriad を使っているので、比率は少し変わってくると思いますが…)

ggyeongbokgung_sign_アートボード 1

改善案1ではプレートの大きさを変えずに、文字情報と文字間だけを調整してみました。適切な文字間にしようとすると情報が入りきらなかったので、最低限に絞って表記しています。観光地の案内表記は、事前にインターネット等で場所を確認して来ていることも多いので、ある程度情報を絞っても良いと判断しました。

改善2はプレートの大きさを変えてみました。文字間や文字の横幅の調整以外にも、博物館と王宮の2つの情報の塊の余白を意識しました。

文字間と文字の横幅を調整するだけで、かなり読みやすくなりましたね!さらによくするには、プレート自体を大きくし余白をとることが大事だと分かりました。
韓国語表記は文字サイズが大きいので、文字間を詰めてもある程度の視認性は保たれますが、欧文書体は小さいため、長体にしたり文字間を詰めたりするのは良くないと感じます。
ほとんどのサインはその国の公用語以外の言語の文字サイズが小さくなっていると思います。だからこそ文字間や書体選びを意識し、小さい文字でも見えやすくすることが大事だと思いました。

2 解説の文字組み

王宮内には様々な建築や石像、橋などがあり、それぞれに英語、中国語、日本語で表記された解説がありました。

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私はツアーに参加していなかったのですが、解説がその場にあると歴史的な背景を知ることができ、勉強になりました。文字による情報伝達は自分のペースでゆっくり見れるのが良いですね。

おかしな翻訳はなかったのですが、どうしても最後の文字の「る」のベースラインが上がっているのが気になってしまいました。
他にもよく見ると、文字間がバラバラだったり、5行目の「寿」の形に違和感があったりと、気になる部分がちらほら…

IMG_1813 2のコピーのコピー

建築や展示されているものが素晴らしいだけに、こういった細かい部分まで気を使い、情報が正確に伝わることだけでなく、心地よく伝わることも重要だと感じました。読む人は細かく見ていなくても、なんとなく不自然な文字のリズムに気づくと思うのです。

逆に、日本の観光地にある多言語表記にも、母国語とする人から見たら、違和感がある文字組みがたくさんあると思います。欧文組版の知見を深め、少しでも自然なリズムを掴めるようになりたいものです。

3 現代ならではのサイン

王宮内でこんなサインに遭遇。

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ドローンのピクトグラムが可愛くて、思わずパシャリ。

その後、よくよく考えてみると、建設された600年以上前にはここでドローンを飛ばす人がいるなんて、誰も考えなかっただろうなあと不思議な気持ちに…💭
そして、絵の中にDRONEという文字が書かれているのを見て、まだドローンのピクトが世に浸透していないことがうかがえて面白いと思いました。形もやや具象的ですが、ドローンがさらに一般的なものになれば、ピクトの形も簡略化されたものに変わっていくのだろうなと考えます。

当たり前かもしれませんが、時代によってサインの内容が変わったり、新しいピクトが登場したりすることに、改めて気づかされました。
これからもっと技術が発達したり、人々の価値観や行動が変わったりして、私たちが想像もしなかったような、サインの内容やカタチが出てくるんだろうな…

4 表情豊かなハングル

今までは情報を正確に伝達するという視点で見てきましたが、今度は韓国で見た表情豊かなハングルをご紹介。
広告も含めた広い意味でのサインデザインを見ていきます。

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景福宮の中にある国立歴史民俗博物館のポスター。
昆布みたいなタイポグラフィだなとぼんやり見ていると、日本語で昆布の文字が。ちょうど、日韓合同展示が行われていたようです。内容を理解する前に、瞬時に何を表しているのかわかるのがタイポグラフィの魅力ですね。


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こちらは国立歴史民俗博物館の入り口にあったサイン。文字が立体的になっており、かなり存在感があります。高さは大体1.5m程だったでしょうか。
デジタル化が進む中で、アナログならではの迫力や魅力に気付いた瞬間でした。


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所変わって、ソウル私立美術館。
グレーチング(側溝の蓋)に、ひっそりと美術館のロゴマークが入っていました。予期せぬところにサインがあると、見つけた時になんだか嬉しくなりますね。大きく目立つサインには無い、独特の存在感を漂わせていました。
写真を見ると分かる通りかなり錆びていますが、設置当初はシルバーで光沢もあったでしょう。時の経過で見え方が変わるって面白い。
配置する場所や材質も考えてデザインすることで、サインデザインの可能性がぐんと広がるなあと感じました。


5 お店のサイン(おまけ)

サインと呼んでいいのか分かりませんが、お店で見た日本語組版を見ていきます。

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景福宮近くの飲食店のメニュー表。店の外に設置してあったものです。店に入る前にどんなメニューがあるかが分かるのは、観光客には嬉しいですよね。
ここでも日本語組版に違和感が。文字の形が変だったり、ガタついていたりするだけで、そのお店の信頼度が下がってしまうなと感じました。


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明洞にあった鞄屋さんの看板。ベースラインが揃っていなかったり、文字間に違和感があったりします。(店を見なくても、看板を見るだけで、胡散臭さが伝わってきますね...) 文字から受ける印象は本当に大きいです。


というわけで、まとめをすると…

その国のものが外国人にも魅力的に伝わる文字や組版だったらいいのになと思いつつ、海外のちょっと変な日本語組版を見るのが楽しみだったりします。
公共の案内標識や重要な情報なら正確さは欠かせませんが、緊急性や重要性が低いものであれば、あまり気にしなくてもいいと思うのです。

最後の方はかなり緩くなってしまいましたが、サインデザインやタイポグラフィの表現の可能性を探れたかと思います。

コロナ禍でなかなか海外にいけないですが、今度は日本に来た外国人になったつもりで、日本の外国語表記にも着目していきたいです。

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