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私の中の悪魔、終
私はだんだんとMへの興味を失くし、Mのことを避けるようになった。
Mは腹いせなのか何なのか、私と同じ部署にいる別の若い女に手を出し、2人で飲みに行くなどしていた。
私はそれをさらに鬱陶しく思い、Mに冷たく接するようになった。
「誰でもいいんなら連絡して来ないで」
と私が告げると、男はうなだれて、
「だって寂しいんだもん」
と言った。
既婚の、50過ぎの男が言う台詞がそれである。
人間なんてそんなもので、恋愛すれば誰でも子どもになるのだと思った。
「とにかくもう会いたくない」
と、私は言い放った。
勝手に自分から誘惑しておいて、なんという捨てゼリフだろうか。
男が不憫に思えたが、家庭も金も地位もあるんだから、特に何も失うものはないでしょうと、どこかで不貞腐れている節もあった。
それからしばらくMは同じフロアに来ることはなく、社内でも会う機会が減っていたが、ある日ふと社内メールに連絡が入った。
「ちょっとだけ、会えないかな?」
一言だけのメッセージ。
私は、「いいですよ」とすぐに打ち返し、会社の非常階段で落ち合うことになった。
Mはもじもじしながらも、私に1通の手紙を差し出した。
「〇〇さんへ」
と手書きで表に書いてあるそれは、何か仰々しかった。
そして、「今までありがとう」
と、Mは言い、すぐに去っていった。
何のことか分からず、手紙をすぐに開けると、Mがその月で退社することが分かった。
私は血の気が引き、もしかしたら私のせいではないかと思ってすぐにメールを出した。
「別の会社に転職することになったんだ」
とだけ、Mは返した。
今よりもお給料は下がるが、小規模の会社で、知り合いの紹介のようだった。
私は自分のやったことの重みを感じ、「すみません」と謝った。
「〇〇さんのせいじゃない」とMは返事をくれたが、詳細は分からなかった。
ただ、きっかけになったのは間違いないだろうと思う。
その手紙は、今でも取ってある。
Mにとって私は、54歳にして初恋の相手であり、真剣に将来を考えた相手であり、一緒に添い遂げたかった女性とのことだった。
それに対し、いまだに何と答えたら良いのか思い悩んでいる。
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