不倫沼⑥ 会えなくなっても
セックスとはただの身体同士の触れ合い。
そう感じたのは、Fと離れ、別に言い寄ってきた職場の男との関係のなかでのことだった。
正直言って、なんにも気持ち良くなかった。
何のためにやっているかも分からない。
ただ、私はやけになっていた。
求められるままに身体を差し出して、自分を痛めつけていたのかもしれない。
その男(以下I)は、私に以前から好意があるようだった。
それは顔を見れば一発で分かる。
Fとはまったく違う、私の一言一言に喜怒哀楽するようなタイプの男で、好きというよりも、私をうっかりと愛してしまったようであった。
私はそれをいいことに、Fを忘れようとして、Iにあらゆることを強要した。
コスプレや野外プレイ、3Pなど、してほしいと言えばその通りしてくれた。
でも、私の心が動くことはなかった。
私は逆の立場になって分かった。
どれだけ身体を重ねても、そこに心が向かうことはない。
それはもう、私の中で最初から決まっているようだった。
デートの途中で、Iは確かめるように聞いた。
「俺のこと好き?」
私は言葉を詰まらせた。
「好きは好きだけど…」
「うん」
少し間を置いてから、私はきっぱりと言った。
「恋愛の好きじゃないんだよね」
Iの顔はあからさまに曇った。
「…そうだよね。知ってた」
私はIに嘘がつけなかった。
そこで嘘をついても、もっと傷つけてしまうのが分かってたから。
Iは私と結婚まで考えていたようだったが、私は、たとえシングルだったとしても、結婚して、自分が幸せになるとはとうてい思えなかった。
ただ、結婚してしまった自分に嫌気が差してしまうような気がして、それだけはやはり避けたいと思った。
それでも私はIに幸せになって欲しくて、Iに別の女の子を紹介した。
Iは見た目も良く、背も高く普通に良い男だったので、その子はすぐに好きになった。
しかし、付き合っているうちに彼女の方が真剣になりすぎてしまい、Iの気持ちは追いつかず、体だけの関係に陥った挙句、辛い別れをした。
私たちはどうしてこうも拗らせるんだろう?
同じ人間なのに、どうしてただ愛し合えないのか。
お互いに愛し合えることなど、本当に奇跡だ。
「好きと愛してるとは違う」
と言ったFのことをまた思い出す。
私は、Fに愛されたかった。私だけを見てほしかった。
でも、それは私の一方通行だったんだ。
私の心の中には、会えなくなっても変わらずFがいた。
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