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酒好きというキャラ立てで渡れた時代 ①

 当方、滅法酒好きなアラフォー女子です。

 ワイン、ウィスキー、ラム――何でも飲みますが、基本、日本酒が好きです。好みの銘柄はあれど、大抵の日本酒はうまいと言って飲みます。要するにあれです、フィーリングと飲み方の問題だと思うのです。あ、でも参考までに今日現在ウチの冷蔵庫に滞在いただいている日本酒をご紹介してよいですか。「みむろ杉」(注1)の純米大吟醸と、「風の森」(注2)の……何だったろう。ラベルの色調は白と銀だったように思うのだけど? おや、偶然どちらも奈良の蔵元ですね。そしてもちろんどちらも素晴らしいお酒です。あ、そろそろ「HATOMASAMUNE」(注3)のリンゴ酵母ヴァージョンも出ている頃だ。忘れずにお迎えに行かないと。これだけのクオリティーの地酒が何れも半升瓶で二千円しないんです。すごいですよね。しかも自宅から徒歩圏内で購入可能なんて、都内住み万歳。そう言いつつ、たまの旅に出ればついでと称して割とメインの行程で酒蔵を訪れ利き酒をし連れ帰りもしてます。ああ、忙しいなぁ。

 と、今でこそこのように、やれ、どこそこのあの酒がうまい、最高、蘊蓄なんていいからとにかく飲め、と目を据わらせたまま息をするように語る中年になり果てましたが(自虐ではなく自賛)、私とてふた昔も前は日本酒の「に」の字も覚束ない、けど酒は飲めないより飲めた方がカッコいいよね、と端正よりは無頼に憧れるおぼこい女子大生だったわけで。はい、ここです。きっかけ。出発点。

 当時、一年の仮面浪人を経て都の西北にある大学に入学し直したばかりの私は、本来自分より後輩だったはずの同期に囲まれ焦っていました。余裕そう、飄々としているなどと評され「そんなことないと思うけど」などと笑み返しながら、大いに揺らぐアイデンティティー。どうしよう。ここでは勉強ができるのは当たり前。飛びぬけた容姿も持ち合わせていない。運動神経? どこで披露するって? 特技はあったっけ。特殊な趣味。境遇。このままじゃ埋没する。そうなったら最期、発掘される見込みもない。

 新歓コンパと呼ばれる飲み会でも、先輩たちから色々と話しかけてもらえるのはやっぱり、初々しくピカピカ真新しい、ストレートで入学してきた子たち。浪人、しかも他の大学で一年やってきた都内出身の一年女子なんてのは至極扱いづらい。気を遣って話しかけても、殊勝な風を装うでもしおらしくもなく、だからといってサバけていたり、とりわけ面白いことを言うわけでもなく。などと自分を精一杯客観的に分析しながら伏し目がちにチビチビと飲むビールのまずかったこと。そこは大学周辺の安居酒屋。ビールの銘柄も、CMを打つような大手のメーカーのではなく、そこのチェーンのオリジナルでした。栓の開いた飲み残しのビールを集めて栓をし直して出している、などというトンデモな噂を信じてしまうくらい、温くて気の抜けた液体は今思い返してもげんなりしちゃうな。

「ビールは嫌いなので。できたら日本酒がいいです」

 それでも、そう言い放つまでに、おそらく四月をほとんど使い果たしたのではなかったでしょうか。「とりあえずみんな、ビールでいいよね」とごくごくいつも通りに確認だけしたつもりだった先輩(こちらと同い年)は一瞬虚を突かれた顔をしたものの、「えええっ。いきなりいっちゃう? すごいね、今年の一年!」と場を盛り上げる方向に素早い切り替え(ありがとグッジョブ)。

 そこからです。私のキャンパスライフがよくわからない方向に転がり出したのは。地酒(当時はこっちの呼称が主だったような)を飲める一女(一年女子)がいる、と聞きつけたOBに引き合わされ、当時は界隈にそこまで多くはなかった全国の地酒を取りそろえたお店に何度も連れていってもらいました。酒豪という設定ありきなので、そもそも下心のある輩は来ない。「酔わせてお持ち帰り」などという不名誉な展開とは無縁。泥酔した先輩が車道に正座して何やら語り始めた首根っこを掴んで、歩道まで引き摺り上げたりといった案件はありましたが。バイト代が入るまでの瞬間貧乏の乗り切り方だとか、サークルの歴代有名カップルのなれそめ話とかも聞かせてもらったけれど、むしろこちらの話を聞かせる時間の方が長かったような。

 その時に得た人脈は今現在、全くもって残っていません。

 さもありなん、あの時の私はテイクだけでギブしていなかった。あの頃関わってくれたみんなには、ただただ感謝。申し訳なかったと思うのです。けれど――日本酒が好きな一年女子、という誰も羨ましがらないニッチな役どころは、大学という足のつかない深さの海で溺れそうになっていた私をどうにか生き延びさせてくれたのでした。そして、それも今はむかし。

 もし学生時代を送るのがこの時代だったら。果たして私は、サバイブできただろうか?

#たすけてくれてありがとう  #昔がたり #自己紹介

注1)奈良は今西酒造さんのお酒。うまいです。都内で購入は難しいけど、こちらの「鬼ごのみ」もうまいです。

注2)同じく奈良の油長酒造さん(創業300年!)のお酒。うまいです。

注3)青森の鳩政宗酒造さんのお酒。うまいです。



 



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