見出し画像

彼のパスポート

何気なく見た彼のパスポート。
知らない国のスタンプがあった。

その国を知らないのではなく、
彼がそこに行ったことを知らなかっただけ。

そう言えば、

友人と一緒に行く旅行の手配をしてた私、
2人分のチケット予約のために、
友人のパスポートを少しだけチェックする必要があったのだけど。

いつもなら気軽に渡してくれてたそれを、
彼女は意味もなく拒んだ。
何の情報が必要なの?
その部分を教えるから、と。

おめでたい私は、疑いもせずに
ここのページを、、なんて言って、

最近は個人情報を大切にしなくちゃね、
なんて思ってた。
あれは、、、

しばらく経って、私は2人の関係を知る。
彼の部屋にあった何気ないメモ。
走り書きの文字。
彼女の字。
問い詰めると、さらりと認めた彼だった。

私の頭に浮かんだのは、彼女のパスポートにも、
同じ国のスタンプがあったんだね、
という確信。

南の島のバカンス、
そこを一緒に楽しみたいのは、私ではなかったんだ、という落胆だけ。

糟糠の妻、って言葉を聞くと、
必ず思い出す出来事。

私は彼と別れてしまったけれど、
彼女には、私が気付いたことは言っていない。
出来るだけ、そのままの関係でいたかったのに、

彼女の方から離れていった。
彼とのことは何も言わずに。

もう、彼を好きでなくなった私にはどうでもいいことだけど、
彼女から憎まれていませんようにと
それだけは願っている。

彼を好きな時も、
どうしても彼女を憎めなかった。
人に憎悪を向けられない時、

その黒いエネルギーは
自分自身をより蝕むようだ。

信じていた人に裏切られたとは、いまだに思えない。彼は別として、
彼女は、単に人を好きになったのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?