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内閣改造で支持率は上がっていないのでは

 今週末に新たな調査が発表されると評価は変わるかもしれないですが、現時点では、内閣改造に前後して支持率が上昇したとはあまり思われません。その理由を述べます。

 内閣改造の後に実施された緊急世論調査は、これまでに3つ発表されています。読売と日経はほとんど変化がなかったのに対し、共同通信の数字は大きく動きました。

読売新聞世論調査(9月13~14日実施)※NNNと合同で実施
 内閣支持率 35%(増減なし)
 不支持率  50%(増減なし)

日経新聞世論調査(9月13~14日実施)※テレビ東京と合同で実施
 内閣支持率 42%(増減なし)
 不支持率  51%(1ポイント増)

共同通信世論調査(9月13~14日実施)
 内閣支持率 39.8%(6.2ポイント増)
 不支持率  39.7%(10.3ポイント減)

 なぜ共同通信だけ大きく動いたのでしょうか。その一因として考えられるのが質問の変更です。

 内閣に対する支持・不支持を聞くときに、読売は「あなたは、岸田内閣を、支持しますか、支持しませんか」、日経は「あなたは岸田内閣を支持しますか、しませんか」と質問をかけます。しかし共同通信は内閣改造の後は質問がかわるのが通例で、今回だと「岸田文雄首相は内閣を改造しました。あなたは、この岸田内閣を支持しますか、支持しませんか」となっています。

 あえて内閣改造に言及する形で質問された場合、何かが変わるという印象を回答者が受けるため、支持率が高めに出てしまう可能性があります。また、新しい内閣をよく知らない人たちが、不支持を表明しないという現象が起きることも考えられます。今回の共同通信では不支持率が10.3ポイントと大きく減少していますが、それはこうしたことのあらわれと解釈することができます。ですから内閣改造の後は、共同通信は外して見るくらいの方が良いかもしれません。

 次の図は、世論の動向【継続更新】で公開している内閣支持率・不支持率の平均です。これは今回の共同通信も含める形で機械的に計算を行っているため、平均もそれに応じた動きを見せています(原則として、ぼくの判断で特定の調査を外すことはできません)。また今年8月の時点で支持率は下げ止まり、やや上昇に転じていますが、それは内閣改造よりも前のことなので別件です。

 

 ここで見ていただきたいのは、平均の曲線の周囲に表示される細かな点の広がりです。これは各社に固有の長期的な偏りを除外した後の、一つ一つの世論調査の結果です。

 各社の世論調査は、手法や質問のかけ方によって、高めの数字が出やすかったり低めの数字が出やすかったりする固有の偏りをもっています。そこで、ここではそうした偏りを打ち消す補正をかけることによって統一的な傾向を得て、さらに平均をとることで精度と解像度を上げるということをやっています。

 しかしそれはあくまで長期的なものなので、内閣改造後の一時的な質問の変化には対応していません。今回の共同通信の結果を丸で囲んだものを次に示しますが、やはりその点は各社の標準的な結果とは異なる位置にくることがうかがえます。

 以上のようなことから、共同通信をひとまず保留して見ると、読売と日経で横ばいであった結果から、内閣改造で実質的な支持率は上がっていないと評価するのが妥当であるように思います。

 最後に少し補足するなら、これは別に共同通信の調査がおかしいということではありません。内閣改造に言及する形で聞いたときにどういう結果が得られるのかも一つの情報です。それはただ、前回の調査と比べたり、時系列的な動きをとらえるのには向かなくなるということです。

 ぼくは世論調査の分析を始めたときに海外の研究を多く参考にしたのですが、そのなかのある機関が出していた見解に「世論調査を評価する最良の方法は、幅広いイメージをもつことであって、平均を取ることではない。一般的な傾向を見ること。そして矛盾している調査があるのなら、その理由を考えることだ」というものがありました。平均というのも、ただ単に足して割るわけではなく、各社の調査を評価するところから始めて、係数を何重にもかけていく複雑な操作が必要です。そうしたことをやっている機関が「平均を取ることではない」と言っているのが印象に残りました。

 ぼくがツイッターやフェイスブックに個々の調査の支持率を書いているのは、それぞれを見比べることに意味があると考えているからです。それに対する多くの反応は、支持率が高すぎるとか低すぎるとか、世論調査が信用ならないといったものですが、そうした姿勢で何かが見えてくるわけではありません。一呼吸おいて、複数の調査を見比べてみると気づくことがあると思います。かつて「支持率に一喜一憂しない」と書いたのは、もともとはこういった意図でした。

2023.09.15 みはる