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〈つくりてFile〉浜口昭宏

“希望あふれる未来をつくりたい”
そんな熱い思いを胸に、あらゆる分野で挑戦を続ける人々を紹介する「つくりてFile」。

今回は、中華料理「天宝」の3代目・浜口昭宏さんを紹介します。


再開発の槌音が響く渋谷駅。
ファッション、ビジネスの最先端が集結し、景色は目まぐるしく変化を続ける。

スクランブル交差点から、歩くこと6分。
そこに、中華料理「天宝」がある。
親子3代にわたってお店を続けているという、創業54年の老舗だ。

「もう、この辺りでは1番古い店ですね。10年、20年ぶりに来たって話すお客さんもいるんですよ」

昔を懐かしんで来るお客さんが決まって話す台詞がある。

“変わってなくて良かった”

しかし、その懐かしさには“秘密”があるらしい。

「実は試行錯誤しながら変えているんです。“変わらない味のために変える”っていうんでしょうか」

ラーメンの出汁、具材の産地、味付け——。
時代のトレンドを捉えながら、お客さんの求める味を作り上げているのだそう。

そんな中華料理「天宝」の人気メニューを注文した。「宝麺」と「特丼」だ。

創業当時からの定番メニュー「宝麺」と「特丼」

見た目もさることながら、香りが胃袋を刺激する。さっそく一口。

なるほど。

お客が言う、どこか懐かしい味がそこにあった。箸が止まらない。

「実はSNSでたまに口コミを見てるんです。その中に“家で作れそうで作れない味”ってあって」

「できそうで、できない味。それがうちの魅力なのかなって」

そう笑顔で語る浜口さん。実は、以前は雑誌編集者として忙しく働いていたという。
数年働いた後、“祖父から続くお店を自分が守りたい”と腹を決め、父にその意思を伝えたそうだ。

「最初は怒られてばっかりでしたね。何せ素人ですから。一つ一つ体で覚えていきました

職人気質の父。指導は厳しかった。
その父から徹底して教わったことがある。
それは「地域を大事にすること」——。

創業当時、お店一帯は釣り堀だった。
八百屋や魚屋が建ち並び、宮下公園で汗を流した子どもたちは、近くの駄菓子屋に駆け込む。
そんな庶民の暮らしを、「天宝」は見守り、支えてきた。

創業当時の写真。
54年間、渋谷の街を見守り続けてきた。

街並みが変化を続ける。
そこにいる“人”も変化していく。

その変化に合わせ、お店の形態も変えてきた。

アパレルの店舗が増え、女性客が増加した2000年代。カウンター席から、女性が利用しやすいテーブル席に変更した。
不規則な勤務帯のお客が多くなれば、夕方までランチ営業としてお店を開けた。

「地域を大切に」との思いから滲み出る一つ一つの心遣いが、長く愛されている“秘訣”なのだ。

「“地域を大事にしよう”って働くと、不思議とお店も地域に守られていくんですよね」

コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食業界。
「天宝」も例外ではなかったが、渋谷駅の再開発事業で働く人が多く訪れたことで、経営危機を免れたそうだ。

今ではコロナ禍前とほぼ同じ客足まで戻ったという。

「渋谷の天宝として、これからも地域に根を張って、試行錯誤しながら続けていきたいです」

「変わらない味を届けていくために」

店舗前で両親と。
「天宝」はこれからも渋谷の街を見守り続けていく。


【天宝 渋谷店】
住所:東京都渋谷区神南1-10-7 テルス神南1F
TEL:03-3462-0622
営業時間:
*月〜金曜日
 11:00~16:00(ラストオーダー15:40)
 17:00~20:30(ラストオーダー20:00)

*土・日 定休日

※営業時間が変更となる可能性もあります。ご利用の際は事前にお問い合わせください。

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