「ヤングケアラー」って?青山ゆずこさんに聞いてみた。
2022年4月に厚生労働省が発表した調査結果では、小学6年生の約6.5%(約15人に1人)が「世話をする家族がいる」と回答。「クラスに1人以上」と考えると、その多さが見えてくる。
「ヤングケアラー」の課題は何か。そして、私たちにできることは何だろうか――。
25歳で認知症の祖父母と同居し、約7年間の介護を経験した介護ジャーナリスト・青山ゆずこさんに話を聞いた。
——介護をすることになったきっかけは?
「おじいちゃん、おばあちゃんと同居すれば生活費も浮くな〜」って思って、〝軽いノリ〟で引き受けたんです。
そこから祖父母との同居が始まりました。
私の場合は、いわゆる「若者ケアラー」と呼ばれるものですね。
しかし、いざ同居を始めてみると、なんと初日からボヤ騒ぎ。
これ、本当です。(笑)
認知症の祖父母との同居生活は、壮絶すぎる毎日でした。
でも、
「何でじーちゃん、ばーちゃんは、こういう行動をとるんだろう?」
っていう純粋な疑問が浮かんだんです。
それから、相手の立場になって考えるようにしてみると、見えてくるものがありました。
当時、私は週刊誌記者として働いていたので、
「これはなんかネタにできるかもしれない」という思いも生まれました。
——介護の経験をマンガにした書籍『ばーちゃんがゴリラになっちゃった 祖父母そろって認知症』を、2018年に出版されました。
当時、「介護虐待」や「介護心中」といったニュースが、しきりに報道されていました。
〝仲がいい家庭ほど、介護虐待が起こる〟
このことは、私にとってはまさに「自分ごと」。
本当に身近な問題だからこそ、自身の経験を世間に伝えたいなって思ったんです。
週刊誌の記者としてやってきたので、最初は文章で出そうと思っていたんですが、
自分が介護をしているときに体験記とかは読まないなって思いました。
というより、長い文章を読むほどの気力が残らないんです。
じゃあ自分が読者だったら?って考えたんです。
それで、〝コミックエッセイや漫画がトイレに置いてあったら、ふとした時にめくる気になるかも〟と思って執筆したのが、この本です。
もっともっと、介護というものがオープンになるといいなって思うんです。
介護をしている人って、結構、情報を「探せない」。
本を読むだけの余力がなくて、心の余裕というか、読むパワーが残ってないんですよ。
——最近、「ヤングケアラー」という言葉がよく聞かれるようになりました。全国の小中高生への実態調査も行われています。
「ヤングケアラー」という言葉が日本で使われ始めたのは、2015年頃でしょうか。
「子どもの貧困」が注目され始めた頃から、少しずつ「家族のケアを、自分の時間を削りながらやっている子供たちがいる」ということが可視化されていきました。
ここ数年で広まった言葉なので、自分がヤングケアラーだと自覚をしていない子も多いと思います。「子ども食堂」が、当事者の子どもたちの間でまだ認知が浅いのと同じですね。
実態調査を行うこと自体は大切なことですが、
正直なところ、子どもたちの心がまだ追いついていないと感じます。
アンケートで「はい」って書ける子は、そもそもヤングケアラーについての知識がある子、設問を理解できる子です。
しかし、そうでない子も多く存在する。
家族をケアすることが当たり前になっている子もいます。
一概に、「子どもが家族のケアをする=悪いこと」という訳ではありません。
社会の認知と、当事者の意識。この両方のバランスの取り方がすごく難しい。
もっと広く浸透させたいけど、浸透のさせ方が「ヤングケアラーは可哀想な存在」ってなっちゃダメだと思うんです。
メディアでの取り上げ方も、「1日10時間近くの介護ケアをしています」や「学校に行けないぐらい付きっきりです」という子どもばかりがテレビに映っていると、〝ヤングケアラーって可哀想な子なんだね〟ってなりますよね。
当事者の側も「私たちは手を差し伸べられなきゃいけない、可哀想な存在なんだ」と思うし、反対に「自分はそこまで大変じゃないからヤングケアラーじゃないんだな」と思ってしまう可能性もあります。
ヤングケアラーと一括りに言っても、その種類は〝グラデーション〟だと思います。
本来、定義をひとつに決められるものではない。
だから、各家庭の子どもにあった支援が必要だと感じています。
——高齢化が進むと、介護人口も増えると考えられます。当事者が生きやすい社会をつくるために必要なことは何でしょうか。
ヤングケアラーの問題は、
「子どもたちが本来過ごすべき『子ども時代』を過ごすことができず、進路まで左右されてしまう」
ということだと思います。
当事者の中には、「自分だけ抜け出していいのか」「自分が家から出ていけば、次は弟妹の負担になるのでは」と考え、進学や独立を諦めたりする人もいるんです。
加えて、「介護」が正当な社会的評価を受けられないことも課題です。
例えば、就活の際に、「この空白の期間は何をしていたのですか?」と聞かれ、「介護です」と答えることが、今の日本社会の中でプラス評価になるかといえば、答えはノーだと思います。
介護やヤングケアラーを美化するのでもなく、純粋に「どういうことをやっていたのか」と介護の〝蓋〟を開けて、その中身を見てくれる社会であってほしいと思います。
私の経験からしても、介護している人って、「マネジメント能力」みたいなものが凄く身に付くんですよ。
そのように、何かしらプラスになる評価をしてもらえれば、当事者ももっと気軽に話せるようになるのではないかと思います。
——問題が深刻になる前に、当事者と周囲の人にできることは何でしょうか?
私は、まず当事者が周囲のみんなに相談するのが大事だと思います。
と言いつつ、自分はできませんでしたけど……。
マンガにも書きましたが、私は一度潰れてから、自分の弱さと向き合うことができ、周りにSOSを出せるようになりました。
「周囲に相談できない」というのは、〝よそ様には自分の家のことを見せない〟という、一種の「日本らしさ」が邪魔しているのかもしれません。
介護はすごく閉鎖的で、他人の家の介護事情は見えづらく、分からなかったりします。
でも、本人は言えない。
周囲の人が察するのはなかなか難しいかもしれませんが、「行き詰ってないかな」「普段と様子や口調が違うな」と気に掛けてほしいと思います。
その時に、「大丈夫」と答えが返ってくるというのは、本人の自己暗示だったりもします。
当事者は、自分一人で抱え込まないで、最初から「自分は弱いぞ」というスタンスでいること。周囲との情報共有はすごく大事です。
近年は少子高齢化、核家族化が進み、「家族の力」が弱ってきています。
その中で、介護に携わる人、ケアする人をケアしていかないと、疲れ果てて倒れてしまいます。
「家族の介護は家族でするもの」という社会通念も、アップデートが必要です。
——若い世代にメッセージをお願いします。
ヤングケアラーや介護といったことを、決して他人事だと思わないでほしい。
同世代の間では、まだ介護が話題にならないと思いますが、皆さんの親には介護を経験した方もいるかもしれません。
少しでもそういった話を聞いて、介護について知っておく。そして自分ができることを考え、見つけてほしいと思います。
ゆくゆくはそれが自身の身に返ってきて、自分が生きやすくなります。
だから、少し周りの人のことを気にしてみて、声を掛けてあげてください。
って自分で言いながら、私もそうしなきゃって思いました(笑い)。
ちょっと友達に連絡してみようかな。
「ヤングケアラー」について知ろう
*青山ゆずこさんは、認知症についての情報サイト「なかまぁる」にて、連載「ヤングケアラー調査隊」を行っています
*埼玉県は、国に先駆けて県内のヤングケアラーについての実態調査を実施するなど、積極的に支援に取り組んでいます
*2022年4月、自民・公明・国民民主3党は、実務者による協議を開催。法整備も含めたヤングケアラーの支援強化の必要性で一致しました
*実務者協議を受け、国は2022年6月に支援策をまとめました
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