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農業ハウス内の温度管理 ②

こんにちは。農業経営サポーターの小川隆宏です。前回に引き続きハウス栽培での温度管理について述べたいと思います。(前回の記事はこちら↓)

特に最近の夏はハウス内が暑くなりすぎるため、遮光や換気のみではハウス内の気温を十分に下げることには無理な場合が多く冷房も行われています。ハウスの冷房方法としては空気中で水を蒸発させる際に蒸発に必要な熱が周りの空気から奪われて気温が低下する原理を利用した気化冷却方法が主流です。

代表的な気化冷却方法としては後に記載しております細霧冷房とパット&ファンがあります。気化冷却方式は初期投資ランニングコストも比較的安価であり日中の利用も可能ですが、水の蒸発に伴って湿度が上昇するので温度と同時に湿度も制御する必要があります。

細霧冷房は平均粒径 30μm以下の細かい霧をハウス内で気化させ周囲の空気を直接冷やす方式です。霧の発生には細霧ノズルに高圧ポンプあるいは動力噴霧器をつなげて使用します。自然換気を行うハウスではノズルを頭上に配置して細霧の細かい水滴が落下のする間に蒸発させます。 強制換気を行う施設では 吸気側にノズル噴射し冷却された空気をハウス内に引き込む方式やハウス内にノズルを配置して換気する方法などがあります。

パット&ファンは細霧冷房と同様に水の蒸発熱を利用した施設の冷房方法です。片方の側面部分にパット(水分保持力の高い専用資材)を取り付けて、ここに水を滴下してパッドを湿らせた状態にしておき大気がパッドを通過するときに気化冷却された空気が施設内に入ることで冷房されます。バットの通過直後の空気は条件が良ければ大気の湿球温度近くまで冷却されるため温度が数度低下します。ハウス内を通過した空気はパットと反対側の壁面に設置した換気扇で排気されます。細霧冷房のように施設内に水を噴霧しないため床面や作物が濡れることがない反面、ハウス内の日射によって冷風が徐々に温度が上がり、吸入口から換気扇方向に向けて温度勾配が出来る欠点があります。またパッドの通気抵抗に見合う大容量の換気扇が必要であり大型の連棟ハウスには向かないとされています。

最近では過高温対策としてエアコン冷房の導入も進んできています。農業用エアコンとして利用されるヒートポンプは冷媒の流れを変えることによって暖房・冷房・除湿に使用でき家庭で使用されているエアコンと同様の機能があります。
ヒートポンプは暖房だけでなく冷房除湿も可能であるため、年間通じて多目的な利用が可能ですが、初期投資、ランニングコストともに高額であることやさらに日中の冷房は負荷が大きすぎるため洋ランなどの単価の高い一部の園芸作物を除いて現状では利用のほとんどが冬の暖房に限られています。

ハウス栽培における経費の内訳をみると 温度管理、とりわけ冬の暖房コストの占める割合が高く原油価格の高騰も相まって省エネルギー型の温度管理技術を確立することが強く求められるようになってきています。
ハウス栽培における省エネ技術は「保温性を向上させる技術」、「暖房システムに関する技術」、「温度管理に関する技術」の3つに分類されます。ヒートポンプは省エネ暖房システムとして注目されています。各技術を単独で用いるよりも各技術組み合わせたほうが有効であることから実際の栽培ではこれらの技術が組み合わされて利用されています。

保温性を向上させる技術としてはハウス内の内張りを多重化・多層化する方法、出入り口や保温カーテンの隙間を塞ぐなどして気密性を向上させる方法などが挙げられます。
外張に被覆資材を2重に重ねて展張りし 資材間に送風して空気層を作る空気膜ハウスも光透過率は下がりますが保温効果が高く注目されています。そのほかに温度管理に関する技術として局所加温の普及も進んできています。この技術は施設全体を温めるのではなく作物が温度を必要とする部位(株元や成長点、根圏)などに対して局所的に温度管理をして暖房燃料使用量の削減を行う技術です。いちごでは株元のクラウン付近を電熱線や温水で加温することにより暖房経費を削減できたり、トマトでは通常 地面上に配置する温風ダクトを群落上に吊り上げ 低温で障害を受けやすい成長点や開花を付近に温風が当たるように暖房することで 燃料使用量を削減されたりという実証結果も出てきています。局所加温と同様の考え方で高温時の冷房コストを抑えるためいくつかの植物で局所冷房の実施検証もされています。

省エネルギー型の温度管理として局所加温・局所冷房以外に変温管理も行われています。トマトやきゅうりなどの果菜類では夕方ごろは光合成産物の転流を促進するため、転流に必要な比較的高温の温度管理で速やかに転流させ後半は呼吸による消耗を抑えるため比較的低温とする変温管理が有効であるとされています。温度や光に対する感受性の高い日没後の時間帯の温度を高め 夜間を低温にして 生育開花を遅延させずに栽培期間中の燃料使用量を削減することができます。

植物の栽培において温度は光合成産物の転流と配分に影響するため特に重要視されており様々な技術開発が日々進んでいます。


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