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売上を10倍伸ばすホームページの作り方

はじめに

20年ほど前のことです。当時、新しく世に出てきたばかりということもあり、ホームページの構築に関わる実務担当者の間ではそのあるべき姿をめぐってちょっとした混乱が起こっていました。それはホームページデザイン、とくにトップページの見せ方に関する意見の不一致です。

一方の陣営は、通信速度が遅いことを理由にトップページはできるだけシンプルにすべきと主張していました。それによれば、トップページは必要最低限の情報だけでよい、ベストなのはロゴ周りの画像とクリックボタンひとつだけのデザインだ、という意見でした。これは主に技術者やデザイナーに支持されていました。

もう一方の陣営はそれに対して違和感をもつ人たちです。彼らは主にこれから新たにネット通販に挑戦しようとしている人たちで、その多くはいままで実際に店頭で商品を売ってきた商店主たちでした。彼らは、そのようなシンプルすぎるデザインには懐疑的でした。現場での長い経験からそのような表現では「売れない」と直感的に感じていたからです。

しかしながら、技術者やデザイナーが主導していた当時のウエブデザイン業界においては前者に軍配が上がりました。トップページはできるだけシンプルにすべし、という主張が勝ったのです。その結果、ホームページの黎明期においてはテキストがほとんどない、シンプルな、けれどデザイン的にはそれなりに洗練されたトップページをもつサイトが主流となっていました。

当時、こうした議論を横から眺めていた私は、マーケティングの視点からとらえれば、そのような混乱は容易に収められると確信していました。またそのような混乱は誕生したばかりのホームページ制作業界の発展にとっても有害であり、できるだけ早急に収めるべきであるとも考えました。そうして書いたのがこの文章です。

当時珍しかった電子出版という手法で世に出したこの小文は幸い、ネット上でそうした議論を展開していた当時のパイオニアたちの目に止まり、多くの方から賛同と共感の声をいただきました。そのせいか、それ以後、ホームページのデザインに関する先述のような議論はほとんど見ることがなくなり、同時に私が主張するようなトップページデザインを採用したサイトが少しずつ目につくようにもなりました。

あれから、そしていまも、ホームページをめぐる環境はめまぐるしく変化しています。そのため、いまでは時代に合わなかったり、古くさく感じられる部分もなかにはあろうかと思います。しかし、ここでは小手先のテクニックではなく、その根底に横たわる原理原則を示したつもりです。原理原則というのは時代が変わってもそう簡単に変わるものではありません。そうである以上、この小文が今もなお十分通用するものであり、見る目をもつ人が読めば必ずや少なからぬ洞察を与えてくれるものと信じています。

これは当時、有料で希望者に頒布したものですが、あれから20年以上の時間が経過したこともあり、 今回再度世の中に問うことといたしました。いささか手前味噌ではありますが、ウエブデザインにおける古典ともいえるこの小文が、ホームページ、およびそれに関連するインタフェースをさらに使いやすいものにするヒントとなれば幸いです。


解題

この文章は、ネット上での直接販売を目的にした「オンラインショップ」の制作方法を説き明かしたものです。したがって、ここではたんなる企業PRのためのページや、とにかく人を集めることを目的としたエンターティメント的なページ、あるいは個人の趣味的なページについては対象外としました。それらはオンラインショップとは目的が異なりますので、また別の方法論にしたがって制作される必要があります。

しかし、読者がもしホームページを使って商品を直接販売しようとしているならこの小文はきっと役に立つことでしょう。もっともここでは、アクセス数を増やす方法については一切ふれていません。そのかわり、いったんアクセスしてきた人に対しては、どのようにすれば効果的に商品をアピールし、実際の注文にまで結びつけることができるかーーつまりいかにしたら「注文率」を高めることができるかについての原理とそれから派生するさまざまなノウハウを紹介しています。たんに人に見せるだけの「見栄えの良い」ホームページではなく、「売る」ことを目的とした実利最優先のホームページを作りたいとお考えの方には、この小文は十分に価値のあるものになるはずです。

※なお、ここでは特別にことわらない限り、ホームページといった場合、オンラインショップをさす ことにします。


第1章 — ホームページとは一体何か?

アクセス数と注文数、どっちが大事?

ホームページを立ち上げた企業、個人にとって現在最大の関心事のひとつとなっているのがアクセス数です。アクセス数とはいうまでもなくホームページを訪れた人の数ですが、これが多ければ多いほど人 気の高いサイト(ページ)ということになります。したがってアクセス数の多いサイト、イコール成功したサイト、という図式が一般にはでき上がっているようです。

でも、ちょっと待ってください。本当 にそうなのでしょうか。

仮にここに「そば」を売るホームページがあるとしましょう。そして、1ヵ月の間にのべ1万人のアクセスがあったとします。ところがもし、そのうちただの1人も「そば」を買ってくれなかったとしたら どうでしょう。この「1万人」という数字にはいったい何の意味があるのでしょうか?

(仮想店舗ではない)現実の商人の世界には、このことを端的に表わした言葉があります。「冷やか し」です。「ウインドウショッピング」の客ならまだ今後に期待が持てますが、冷やかしの客はほとん どの場合、商売には結びつきません。もちろん、誤解しないでいただきたいのですが、アクセス数にまったく意味がないといっているわけではありません。アクセス数が増えなければ注文数だって増えないのは自明の理です。それに一度は見てくれたということは、将来、何らかの反応が返ってこないとも限りません。

しかしここで問題にしたいのは、100人のアクセスがあったとしてそのうち何人が実際に商品を注文 してくれたか、という「注文率」のことです。あたりまえのことですが、いくらアクセス数が多くても実際に注文してくれる人がいなければ商売にはなりません。これは実際に商売を行っている人にとって は、いまさらいわれなくても身にしみて分かっていることではありますが、いざホームページを作ろう という段になると案外忘れがちですので、十分注意する必要があります。

ホームページ イコール ダイレクトメール仮説

それでは、注文率の高いホームページとは、具体的にどうあるべきなのでしょうか。それに対する答え を出す前に、まずはホームページとはいったい何なのか、というところから検討してみましょう。もち ろん結論からいえば、それはまったく新しいマーケティング手段であることは間違いありません。とは いえ、最初からそう決め付けてしまっては取りつく島もありませんので、ここでは従来のマーケティン グ手段との比較対照の中から答えを探っていくことにしましょう。

筆者の考えではホームページは、イコール、ダイレクトメール(または通販カタログ)、ととらえるの が一番よいと思います。もちろん、ダイレクトメールや通販カタログの場合は、向こうから勝手に情報 が送られてきますし、ホームページの場合は逆にこちらから「取りに行く」必要があるという、見かけ 上の大きな違いはありますが、それでも両者は基本的に同じと考えてよいのではないでしょうか。その 最大の理由は、どちらもそれ自体で「販売」を完結することができる、という点にあります。これは、 他の広告手段、たとえば TV コマーシャル、新聞雑誌の広告、さらに通販用でない一般のカタログなど と比べるとよく分かります。

TV コマーシャルや新聞雑誌広告、さらにカタログなどは、いずれも役割分担があって、それぞれ商品 の存在を知らせたり、商品の説明を行うという働きをしています。そして、ここが重要な点ですが、それらはすべて販売促進という一連の活動の中で特定の役割を担うものであって、いずれも単独では、 「販売」を完結させることはできません。このことは TV コマーシャルや新聞雑誌広告を見たからといって、あるいはカタログを読んだからといって、ただちにその場で商品を注文できるわけではないこ とを思い出してもらえば誰しもご理解いただけるのではないでしょうか。

普通、商品を手に入れるため には、私たちは必ずいったん店舗に出向いてそこで注文の手続きをとらなければなりません。そうして 初めて私たちは欲しい商品を手に入れることができるのです。これに対して、ダイレクトメールや通販 カタログは、商品の説明から注文まですべてそれ自身で完結させることが可能であり、一歩も家の外 へ出ることなく商品を手に入れることができるのです。そしてそれはいうまでもなく、オンライン ショップが持つ最大の特徴でもあるのです。

仮想店舗という考え方は正しいか?

参考までにもうひとつ検討してみましょう。それは「仮想店舗」という考え方です。一般にオンライン ショップは、仮想店舗と呼ばれることが多く、実際そのようにとらえている人も多いようです。ーー現 実の店舗の代わりにサイバースペースの世界に出店した文字通りの「仮想店舗」ーー。たしかに概念的 にはこれが一番しっくりくるような気がしないでもありません。そしてもしホームページ イコール (仮想)店舗であるなら、そこに必要なのは、広告的なノウハウではなく、むしろ店舗設計のノウハ ウに近いものであろうと予想されます。しかし、よくよく考えてみますとホームページと現実の店舗に は大きな違いがあることが分かります。

もっとも大きな違いは、仮想店舗としてのホームページには店員がいないということです。これはレス トランや食堂などのケースを考えるとわかりやすいでしょう。一般にレストランや食堂では客が店内に 一歩足を踏み入れた時点で、すでに料理を注文する決心がついています。仮にメニューを見て、欲しい 料理がないからといって店を出る人はそう多くないでしょう。ところが、ホームページの場合はメニューを見ていいものがないと分かったら、誰に気がねすることもなくさっさと店を出てしまえるのです。

こう考えると、ホームページを現実の店舗の延長線上に置くことにはちょっと無理があるように思います。これはやはり自宅でゆっくりくつろぎながら欲しい商品を選べるダイレクトメールや通販カタロ グに近いものといったほうがよいのではないでしょうか。

それに、実際のホームページを見ても3 D 技術を使ったヴァーチャル感覚あふれた「仮想店舗」というものは現状ではまだ少なく、むしろ平面的な、つまりカタログ的な印象を受けるものが大部分であ るということもホームページ=ダイレクトメール説を補強するものといってよいでしょう。

第2章 — 「売る」ホームページ作成のための基礎知識

AIDMA 理論について

商品を売る技術である広告にはいくつもの理論がありますが、なかでももっとも有名なのが、AIDMA(アイドマ)理論です。これは、広告が消費者に及ぼす(べき)作用を分析したもので、それぞれ、Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の 頭文字をとったものです。通常、広告に接した人は、まずデザインで目を引かれ(Attention)、つい でキャッチフレーズで興味を抱き(Interest)、ボディコピーを読むことで(商品に対する)欲求をか きたてられ(Desire)、さらに(商品名を)記憶に焼き付け(Memory)、そして最終的に購買行動を 起こす(Action)、という順序で態度を変容させると考えられています。AIDMA はそれを一連の心 理的過程として理論づけたもので、現在、すべての広告は原則としてこのAIDMAにのっとって作られているといっても過言ではありません。

ところで、このAIDMAはマーケティング活動全般にも応用されています。通常、セールスプロ モーションのキャンペーンを行う際、TV コマーシャルは、Attention(注意)を引き、新聞雑誌広告 は、Interest(興味)を抱かせ、カタログは、Desire(欲求)をかきたて、そして店頭でのプロモー ション活動が Action(購買行動)を起こさせるという具合にそれぞれ役割を分担しています。もちろ ん、実際にはこれほど単純なものではありませんが、おおざっぱな理解のためにはそう考えてさしつかえないでしょう。第1章で、TV コマーシャルや新聞雑誌広告、カタログなどがそれ自体では「販売」 を完結しない、と述べたのも、実はそういう意味からです。

ダイレクトメールが機能するプロセス

これに対してダイレクトメールは、それ自体で販売を完結します。では、それはどのように機能するの でしょうか。ここでちょっと分析してみましょう。まず自宅にダイレクトメールが届きました。あなた は、どうしますか。そのままゴミ箱に捨ててしまいますか。しかし、通常は何のダイレクトメールなの かくらいは確認してから捨てるのではないでしょうか。一般にダイレクトメールは封筒を見ただけで何 のダイレクトメールなのかがわかるようになっています。したがってあなたは封筒のコピーをちらっと 読み、そこでどうするか判断します。もし「興味」を持たなかったら、当然それはゴミ箱へ直行という

ことになります。しかし、もし興味を持ったら一応封筒を開けてみようとするはずです。中味を出して、ざっと目をやったあなたは、次にどういう行動をとりますか。コピーを読み、やっぱり「いらない」と なれば、そのままゴミ箱にポイです。けれど、これはよさそうだと「欲求をかきたてられたら」、封筒 に入っている書類をかたっぱしから読んで、それが本当に良いものであるかどうかを確認しようとする でしょう。そしてその結果、本当に良いものであるとの「確信」が得られたら、おそらくあなたはすぐその場でということではないにしろ、近いうちにきっと申込用紙に記入し、郵便ポストに投函して いるのではないでしょうか。

AIDMA 理論で分析するダイレクトメール

このダイレクトメールにおける一連の流れをAIDMA 理論でもう一度跡づけてみましょう。まず Attention(注意)ですが、これは、封筒のデザインや上書きされたコピーによって「おや、なんだろ う!」と注意を引くように作られています。もっとも、通常は自宅にダイレクトメールが届いたという こと自体が「注意」を引きますので、封筒のデザインやコピーはむしろ次の段階である Interest(興味)を抱かせるように作ってあることが多いようです。さて、興味を抱いたあなたは封筒を開けて、中 味を確認しました。通常、ダイレクトメールの中には、商品を説明したカタログが入っていますが、これが Desire(欲求)をかきたてる働きをします。

さて、AIDMAによれば、次にくるのは Memory(記憶させる)という段階ですが、これは主に TV コマーシャルなどの場合であってダイレクトメールの場合、これはそれほど重要なものではありません。そのかわり、ここでは「確信」という段階をもってきました。一般に現代人は、商品がいくら いいものであると「知った」としても、それが本当にいいものであると「確信」できなければ購買行 動には移りません。そしてこの確信には、商品の品質に関する確信だけでなく、それを売っている企業 に対する「信頼感」も含まれます。ダイレクトメールの場合、この「確信」や「信頼感」は一般に有名 人や専門家による推薦文や使用者の声(もっともなかにはいかがわしいものもありますが)などに よって得られます。またダイレクトメールでカタログ以上に大事だとよくいわれるのが、「レター」と 呼ばれる手紙形式の書類ですが、このレターの末尾に差し出し人の名前(通常、企業の担当者に名 前)を自筆で載せるのも、「信頼感」を醸し出すのに有効とされています。

ホームページにアクセスする経路

それでは次にこのAIDMAをもとにホームページを分析してみましょう。ところでここで注意しなければならないのは、見込み客(ホームページにアクセスしてくる人をここではこう呼ぶことにしま す)が、「ダイレクト」にあなたのホームページにアクセスしてくることはありえないということです。 それは電話を引いたからといって電話番号を公開しない限り、誰もあなたに電話をかけることができ ないのと同じ理屈です。したがって最初に検討しなければならないのは、見込み客は、いったいどのよ うな経路をたどってホームページにアクセスしてくるのか、という問題です。
見込み客がホームページにアクセスしてくる経路はいくつか考えられますが、もっとも多いのが検索エ ンジンを通してアクセスしてくるケースでしょう。また雑誌などにホームページアドレスを「広告」し た場合は、それによってアクセスしてくるケースも考えられます。さらに他のホームページに「リン ク」を張ることによって、アクセスしてくる人もいるはずです。 しかしながら、いずれの経路をたどる にしろ特定のホームページにアクセスするためには、最初に何らかの「告知広告」がなければならないということを理解しておく必要があります。実はこのあたりは「売る」ホームページを制作する上でもたいへん重要なポイントとなりますので、しっかり頭に入れておいてください。

AIDMA 理論で分析するホームページ

さて、以上をベースにホームページにアクセスしてきた見込み客の心理をAIDMAで跡づけてみましょう。まず見込み客が最初に接触するのは、検索エンジンや新聞雑誌などの既存メディアによる広告、さらに他のホームページの「リンク」などです。そしてそれらの「告知広告」は見込み客に対し、ホームページに関する注意を喚起し、興味を抱かせる働きをします。これはAIDMAでいえば最初の2つ、すなわち注意(Attention)と興味(Interest)の2段階に対応します。ここでもし、見込み客に興味を抱かせることができたら、とりあえず前半部分は成功です。彼は検索画面のボタンをクリックするなり、自分でホームページアドレスを入力するなりして、あなたのホームページにアクセスしてくることでしょう。

では、あなたのホームページにアクセスしてきた見込み客は、次にどういう行動をとるのでしょうか。 おそらくまずはホームページをざっと眺め、あるいは拾い読みしながら、そこに本当に自分が欲しい商 品があるかどうかを発見しようとするでしょう。そしてもし、そこに欲しい商品があった場合、彼はそ のコピーをじっくり読んで、購入を検討するはずです。これは、AIDMA 理論でいえば3番目の Desire(欲求をかきたてられる)の段階に相当します。

次は、Memory(記憶させる)の段階ですが、先ほどダイレクトメールの分析でも述べたようにホーム ページにおいても、これはそれほど重要ではありません。ここではダイレクトメールの場合と同様、「確信」という段階をもってきましょう。この確信には、商品そのものが間違いなく良いものである という商品の品質に対する「確信」と同時に、それを売る企業 — つまりあなたのホームページです— に対する「信頼」も含まれます。そして、この信頼は、ホームページの場合、とりわけ重要な要素 です。というのは、人々は現在オンラインショップに対して必ずしも大きな信頼を置いていないからで す。もっともそれはかつて通信販売がそうであったように、黎明期にある新しい販売手法として避けら れない宿命のひとつといえないこともありません。しかしいずれにせよ、将来オンラインショップが 多くの人々に受け入れられるかどうかは、今後の私たち一人ひとりの行動と自覚にかかってくることは 間違いないでしょう。お互い心しておく必要があります。

さて、「信頼」を生むためのノウハウについては後章であらためて説明しますが、ここではとりあえず、見込み客があなたの商品を「確信」し、またあなたの姿勢に対しても「信頼」してくれたとします。次に見込み客がとる行動は、いったい何でしょうか。そう、注文です。もはやここまで来れば、彼は一刻 も早く、商品を手に入れたいと思うでしょう。となれば、あなたの役目は、彼に注文フォームを差し 出し、できるだけすみやかに「注文ボタン」をクリックさせること以外にありません。この段階が、 AIDMAでいうAction(購買行動)に相当します。

ホームページを見たから買いたくなるのか、買いたいからホーム
ページを見るのか

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