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日銀の金融政策変更とその影響

日銀がマイナス金利の解除を決定しました。世界で日本だけ政策金利がマイナス0.1%でしたが、それが終了しました。

2022年5月までは日本より低い、マイナス0.75%だったスイスフランの政策金利は1.75%に上がっています。マイナス金利だった円に対して、2.5ポイントの利上げをしたスイスフランは、1フラン125円(22年3月)から、現在、169円へと35%上がっています。米ドルよりも高い水準です。

(出典:TRADING ECONOMICS/スイスフランー日本円為替)

世界で日本だけがマイナス金利政策を続けてきました。ドルと円の金利差(イールド)が、短期金利で約5%、長期金利では4%付近のため円が売られ、1ドルが150円台の超円安にりました。

今回の3月の利上げでは、銀行預金の金利はゼロ%付近のままですが、0%の金利は異常なものです。国内および海外との金融機関同士の短期マネーでは、「貸した側が0.1%の金利を払い、借りた側が0.1%の金利を受け取っていた」のです。普通ならあり得ないことが約30年続きました。

【政策金利とは?】
政策金利とは、中央銀行が、金融市場での債券の売買によって誘導する、短期(1年以内;米国では2年債)の目標金利です。市場は、銀行間での国債の売買によって金利を決めますが、その国債市場に中央銀行が介入して、金利を誘導します。(買いオペ、売りオペという)。

市場の金利を、日銀が決めることはできませんが、ひとびとは日銀が決めていると思っています。日銀のこれまでの金融政策については、以下のnoteでまとめてありますので、知っておきたい方はぜひ、ご一読ください。

日銀がマイナス金利への誘導を解除した理由は2つです。

①消費者物価(CPI)の上昇が、安定的な2%台になると認知されたこと。(24年2月東京都速報値2.6%上昇/24年1月全国2.2%上昇)

②春闘での賃上げが5.28%(中小企業は4.42%:ベースアップ分は3.7%)と高くなり、CPI上昇率の約2年分の賃上げが実現したこと。日銀にとっては、インフレより賃金の上昇が要素として大きかったのです。

【利上げの大きな要素だった春闘の賃上げ】
連合が15日発表した24年の春季労使交渉の第1回集計結果では、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率が平均5.28%となり、1991年以来33年ぶりに5%を超えました。

2024年3月までは2%から3%のマイナスだった「実質賃金(「名目賃金上昇率-物価上昇率」が1年間はプラスに転じるでしょう。(ただし、その後はまだわかりません。サービス費は11%上昇、特に宿泊費33%上昇、また物流費も上昇してきます。物流費はGDP5%です)

ただ、実質賃金の上昇と言っても、変動金利の住宅ローンを抱える1262万世帯(世帯数の25%)は、金利が上がると利払いに消えるでしょう。負債の金利が上がる世帯は、賃金が1万円上がっても使えるお金は増えません。

年収400万円以下の住宅ローンを抱える世帯(約50%)にとって、今回の利上げは大きく響きます。銀行で固定金利(10年固定で約1%)への切り替えはできますが、現在の変動金利(0.25%から0.32%)に対して金利負担は約3倍から4倍に上がります。

4,000万円のローン残なら、年間利払いが30万円(月間2.5万円)、支払いが増えます。賃上げ分より大きい人が多いでしょう。しかし、変動金利のままなら5年後のローン支払いがいくらに増えるかは不明です。

企業の売上は、名目の金額です。消費税の上昇と同じ効果の物価上昇が入っていて、金額では前年比を超えても、商品数量では数%のマイナスでした。購買頻度が高いスーパーでは、2023年は5%から8%の商品価格上昇でした。

スーパーでは既存店の前年比売上が100%のとき、商品数量では5%から8%減っていました。これは不況といえる現象ですが、政府はインフレ不況や実質賃金減少不況とは言いませんでした。2%の物価上昇を、国策として目標にしてきたからです。

【織り込み済みの市場】
3月のFOMCでFRBはFF金利(政策金利)の維持を発表しました。日銀の3月利上げは日米の金利差(イールド)を縮小させました。これは本来、円高と株安の要因です。しかし、ドル-円為替も、日経平均も真逆に動きました。

(出典:TRADING ECONOMICS/ドル-為替)
(出典:TRADING ECONOMICS/日経平均株価)

この理由は金融の大口投資家は、日銀の政策変更を織り込み済みで投資を行っているからです。プロの投資家は1か月から3か月先の変化が、今起こったかのように織り込んで、株や債券、通貨を売買します。「織り込みの売買」で通貨のレートと株価が決まっています。

「ドル/円」は3月3日に150円台の超円安をつけましたが、3月11日には、日米金利差の縮小予想から148円台に上がりました。日経平均も、3月3日は4万円超えでしたが、3月15日は3万8,700円(マイナス1,300円)です。こうしたドル/円と日経平均とナスダックは、現在の価格から2割は下がるでしょう。

過剰な期待の先頭にある株が、過去1年で264ドルから914ドルへと3.4倍強に上がったNVIDIAです。現在のPERは53.2倍です。

日本では、半導体の東京エレクトロン。株価は昨年の10月から3.2倍の39,870円、PBRは39.54倍です。NVIDIAに近いものがあります。

将来の変化を織り込んだ時点で、通貨と株価は動きます。株価に織り込んでいた変化が実際に起こった時は、動かないか、期待していた利上げより小さいとして逆の動きもあります。今回は、事前に予想された通りの動きでしたが、日銀は国債購入は継続するとしていますので、急激な長期金利の上昇はないだろうとの見方から、円安に動いています。

通貨と株式の相場は、「1か月から3か月先(ときには6か月先から1年先)」の金利と企業純益を予想して、価格に織り込んでいます。その織り込みが、どの程度かの判断が株価の評価になります。

【将来を織り込む株価】
利上げ前のドルー円の為替相場(149円前後)は、日銀の今回の利上げは織り込んでいました。しかし、米国のFRBの利下げは織り込んではいません。

3か月内に米国CPIの上昇率が下がり、雇用も軟調になって、FRBの政策金利の利下げ(1回0.25%幅)が予想されるようなことがあれば、1)円高になり、2)日経平均は下落するでしょう。

しかし、3月のFOMCで米国は利下げはしませんでした。また、FEDウオッチを見ると、5月の利下げもないだろうと市場は見ているようです。

(出典:FEDウオッチ)

その為、日米金利差はこのまま続くとの観測から円安になっています。円安が予想されるので、株価も上昇しています。

その原因は東証の売買の65~70%を占める外国人投資家が「高いレベルの予測に基づく、織り込み売買」をしているからです。

こうした「将来(1か月先から1年内)の変化の折り込み」が、大口売買をするヘッジファンドや、インデックスファンドが市場に先行すると言われる理由です。メディアで「株価は未来を予想する」と書かれています。

しかし、実は、ファンドは株価、通貨、金利を予想していません。株価を支える金融・経済の変化を、仲間内で予想して売買しています。中央銀行も仲間内です。アベノミクス(2013年~2020年)では、前場(午前)に日経平均が1%下げると、ETFを買って、相場介入していました。(その結果が日銀の巨額のETF保有)

「日銀やFRBの市場との対話(情報交換)」と言われることもこれと同じです。財務省も月平均で20兆円はある国債の「新規+借り換えの発行」にあたって、「7年物で金利が0.5%ならいくら買うか?」を証拠が残らない電話で「相談」しています。財務省も日銀も事前打ち合わせを基にしており、出たとこ勝負はしていません。

ゼロ金利、マイナス金利からのわずかな脱却であっても17年ぶりであり歴史的です。1999年の資産バブル崩壊後の銀行危機の時の「ゼロ金利誘導」からなら25年ぶりです。

ただ、金利の上昇はわずかです。これは、金融引き締めではなく、緩和の継続といえるでしょう。

この結果は円安をもたらしました。円安となると、株価は上がります。外国人投資家が海外から見ると、安い日本株を買うからです。

現在も株価が上昇しているのは日銀の金融緩和が継続するという見方からです。金融緩和が継続する、それは、円安をもたらす、円安は株を上昇させる、その織り込みから買われています。

【日銀は金利を上げることができるのか?】
日銀が金利を上昇させる政策をとるとどうなるでしょうか。まず、金利を上げないとどうなるかを考えます。現在、日米の金利差が円安をもたらしています。円安が進行すると、輸入物価が上昇します。輸入物価が上昇すれば、インフレをもたらします。また、日本の購買力は低下し、ドルベースでのGDPも目減りします。円安は国力を下げていきます。

では、円安を食い止めようと金利を上昇させるとします。すると、当然、国債を発行している政府の利払い費が上昇します。政府の利払いはどうなっているでしょうか。

(出典:財務省ホームページ)

政府の利払い費は普通国債の残高がどんどん上昇しているにもかかわらず、むしろ下がっています。これは金利が下がってきているためと思われます。令和五年度の平均金利は0.76%です。

(出典:財務省ホームページ)

現在、利払い費が歳出に占める割合は7.4%です。仮に現在の政府予算で、国債の平均の利率が1%上昇して1.76%となったとすると、利払い費は12兆3,888億円で歳出比10.8%、2%上昇して2.76%となると、23兆688億円で歳出比20.2%、3%上昇して3.76%となると、33兆7,488億円で歳出比29.5%となります。

歳出に占める利払いの割合が10%は政府も耐えられるかもしれませんが、20%となると厳しい。ましてや30%となると、これはもうどう考えても無理な話です。払えません。

国債の利払いにおける利率が3%になる?現在の平均利率からすると考えられないかもしれませんが、上記グラフを見ると、1980年代は7%、1990年代でも3%以上はあります。バブル崩壊後の低金利政策が長く続いているので、3.76%は驚くような非現実的な利率に感じますが、歴史を振り返ると3.76%も低い方です。

しかし、国債の平均利率を3.76%上昇させるとなると、これは政府が利払いができませんから、そうさせることはありません。すると、日銀の政策において、許される金利の上昇幅は現実的に考えてこれから上昇させたとしても1%程度ではないでしょうか。

これは日銀の金利誘導の幅は1%程度の上昇が限界であるということを示しています。米国のように日銀が金利を5%にしてインフレを抑制するなどという政策をとることはできないということです。

ということは、FRBの金利引き下げが遅れれば遅れるほど、円安になるでしょう。日銀の政策には限りがありますので、誰が考えても円安です。黒田総裁の末期、日銀が金融政策の変更を余儀なくされました。それは、金利上昇圧力がかかり、日銀が長期金利0.25%の維持ができなくなったからです。

海外の投機筋が日本国債を売り、それを日銀が買うという攻防戦です。しかし、日銀が低金利を維持しようとすればするほど、円安が加速し、日銀は0.5%へと長期金利の誘導目標を変更しました。このように、海外の投機筋が日本国債を売れば、金利に上昇圧力がかかります。

政府にとって一番都合が良いのは、インフレでも金利を上げないことです。インフレとなれば、負債の負担は軽くなる。そして、金利が上がらなければ利払い費も増えない。そう考えると、現在の日銀の動きも納得が行きます。積極的に円安を抑えようとするならば金利を上昇させる必要があります。しかし、それをすると政府が困る。だから、150円は許容範囲としておく、152円を超えるようなら考える。そして、金利は1%までなら許容する、それ以上にならないように国債の買い入れを継続する。

当たらず触らず問題は先に送って、送って、送りまくって米国の金利が下がるのを待とう、というところでしょうか。とにかく急激な動きが出ないように、盆の水がこぼれないように、微妙に調整しながら、徐々に破綻に向かうのは避けたいので、ゆっくりと進めよう、そんな感じに見えます。

日銀の金融政策とその影響を2回にわたってみてきましたが、こうしてみると、日銀の政策はバブル崩壊で壊れた日本経済をこれ以上は壊れないようにという政策に感じます。積極的というよりも、とにかく壊すぬように慎重に。しかし、その背後に日銀が抱える巨額の国債があります。そして、それは政府が発行してきた国債の50%超です。政府は発行しすぎ、日銀は抱えすぎ、通貨の流通量が増え、それが日本円の価値を下げています。

日経平均株価は上昇していますが、それは海外投資家から見て安い日本株への投資が多いことが上昇の一番の要因です。これは株高ではなく、通貨安の裏返しの動きと思えます。日銀の金融政策がもたらした結果、それは実質実効為替レートに現れているのではないでしょうか。このポストを最後に、このテーマを終わりにしたいと思います。


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