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【日経新聞をより深く】FRB、大幅利上げ継続へ 雇用統計を受け見方強まる~サマーズの懸念~

1.FRB、大幅利上げ継続へ 雇用統計を受け見方強まる

米労働省が7日発表した9月の雇用統計は失業率が3.5%に低下し、米労働市場の過熱感がまだ強いことを示した。企業が求人を減らしても失業率が急上昇しないという米連邦準備理事会(FRB)の見方を裏付けるような内容だった。インフレ抑制を優先するFRBは11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で大幅利上げを継続する見通しだ。

「11月のFOMCでFRBが利上げ幅を縮小することはなさそうで、その先も積極的な引き締め姿勢を続ける可能性がある」。雇用統計を受けて米オアンダのエドワード・モヤ氏はこう指摘した。9月に実施した0.75%の利上げを続けるという見立てだ。7日の米株式市場では失業率の低下などを受けて、ダウ工業株30種平均が一時、前日比500ドル超下げた。

9月は労働参加率が62.3%と、前月から0.1ポイント低下した。新型コロナウイルス禍をきっかけにした早期退職の増加で職探しをしない非労働力人口が1億人前後で高止まっている。企業の求人件数は減ってきたがまだ高水準で、仕事を探しても見つからない失業者は9月に26万人減少した。

(出典:日経新聞2022年10月8日

今回の雇用等計で、失業率の低下は労働市場の強さを示しており、FRBは金利の大幅な引き上げを継続することになりそうです。

ただ、今回の雇用統計で注目すべきは、労働参加率の低下でしょう。ウォールストリートジャーナルに次のような言葉がありました。

“The only thing that the Fed might have wanted in this report that it didn't get was higher labor-force participation,” said Daniel Zhao, senior economist at Glassdoor.
「連邦準備制度理事会が手に入らなかった、このレポートで欲しかったかもしれない唯一のものは、より高い労働力参加でした」と、ダニエル・チャオ(グラスドアの上級経済学者)は言いました。

(出典:ウォールストリートジャーナル2022年10月8日

労働市場への参加が鈍ると、賃金の上昇が止まらず、FRBのインフレとの闘いに大きな影響をもたらします。ウォールストリートジャーナルでは、何人かの労働者が転職の際、職に就くのを遅らせても賃金交渉をしている様子を報道しています。米国での大きな問題はコロナ以降、労働力参加が低いことです。これが、労働市場の逼迫の一因になっています。

2.ローレンス・サマーズの懸念

ローレンス・サマーズ元米財務長官の発言は、注目に値します。なぜなら、FRBは今でこそ、インフレを抑制するために大幅利上げを繰り返しておりますが、当初は、インフレは一過性であるとして、金融政策の変更をしようとしていませんでした。それを批判していたのがローレンス・サマーズ氏でした。サマーズ氏は早くから、米国のインフレは深刻であり、長期的であると見抜いていました。

日経新聞には「サマーズ元財務長官は失業率が6%台に達する景気後退がなければ、インフレは沈静化しないと主張している」と報道されています。

そのサマーズ氏のフィナンシャルタイムズでの対談を見ておきましょう。
(筆者注:LS=ローレンス・サマーズ)

LS: I disagree with the historian Adam Tooze about many things, but I think he has found an apt term in using the term “poly-crisis” to refer to the many aspects of this situation. I can remember previous moments of equal or even greater gravity for the world economy, but I cannot remember moments when there were as many separate aspects and as many cross-currents as there are right now.
LS:私は歴史家のAdam Toozeとは多くの点で意見が異なりますが、彼はこの状況の様々な側面を指す「ポリ危機」という言葉を用いて、適切な用語を見つけたと思います。私は、世界経済にとって同等かそれ以上の重大な出来事が過去にあったことを記憶していますが、今ほど多くの別々の側面と多くの逆流があったことは記憶にありません。

Look at what is going on in the world: a very significant inflation issue across much of the world, and certainly much of the developed world; a significant monetary tightening under way; a huge energy shock, especially in the European economy, which is both a real shock, obviously, and an inflation shock; growing concern about Chinese policymaking and Chinese economic performance, and indeed also concern about its intentions towards Taiwan; and then, of course, the ongoing war in Ukraine.
世界で何が起こっているかを見てください。世界の多くの地域で、そして確かに先進国の多くで、非常に重大なインフレの問題です。大幅な金融引き締めが進行中。特にヨーロッパ経済における巨大なエネルギーショックは、明らかに実際のショックであり、インフレショックでもあります。中国の政策決定と中国の経済パフォーマンスに対する懸念の高まり、そして実際に台湾に対する中国の意図についての懸念。そしてもちろん、ウクライナで進行中の戦争。

Start with America. I remain convinced that a failure of central bank policy in the US to remain resolute will be very unlikely to bring about a return to inflation stability in the US and, therefore, to any foundation for healthy global growth. I am baffled by the many critics of the central bank who assert that they need not take substantial further actions because expectations are anchored, seeming to ignore that the only reason expectations have remained anchored is that the central bank has moved towards making clear their determination to move rates substantially.
アメリカから始めましょう。米国の中央銀行の政策が毅然としていなければ、米国のインフレ安定化、ひいては世界の健全な成長の基盤が回復する可能性は極めて低いと、私は引き続き確信しています。中央銀行を批判する多くの人々は、期待が固定されているので、これ以上大きな行動を取る必要はないと主張し、期待が固定されている唯一の理由は、中央銀行が金利を大幅に動かす決意を明らかにする方向に向かったことであることを無視しているように見えるので、私は困惑しています。

It is an encouraging sign for the central bank that as bad inflation data has come in, the tendency has been for real rates to rise rather than market-based inflation expectations.
中央銀行にとって心強い兆候は、悪いインフレデータ が入ってくると、市場ベースのインフレ期待よりも実質金利が上昇する傾向があることです。

I think the Fed is now in the range of signalling appropriate monetary policy. My suspicion, but it is only a suspicion, is that they will have to raise rates ultimately a bit more than their “dot plot” forecasts suggest, or the market is now anticipating. My much stronger conviction is that there is still an underestimation of what the economic consequences of all of this will be.
FRBは適切な金融政策のシグナルを出す範囲に入ったのではないでしょうか。私の疑念は、あくまでも疑念ですが、FRB は「ドットプロット」予想が示唆するよりも、あるいは市場が現在予想しているよりも、最終的にもう少し金利を上げなければならないだろう、ということです。私がより強く確信しているのは、これらすべてがもたらす経済的な影響について、まだ過小評価されていることです。

I would be very surprised if we were to simultaneously — as the Fed believes or the Fed forecasts — bring inflation down to something approaching the 2 per cent range and, at the same time, see unemployment rise no higher than 4.4 per cent. It continues to be my view that we are unlikely to achieve inflation stability without a recession of a magnitude that would take unemployment towards the 6 per cent range.
連邦準備制度理事会が信じているように、または連邦準備制度理事会が予測しているように、インフレ率を2%台に近づけると同時に、失業率の上昇が4.4%を超えないようにできたとしたら、私は非常に驚くことでしょう。失業率を 6%台に近づけるほどの規模の景気後退がなければ、インフレの安定を達成する可能性は低いというのが私の見解であり続けます。

To be crystal clear, I yield to no one in my hatred for unemployment, for its consequences for inequality, for its consequences for subsequent economic capacity. My earliest work as an academic was about the benefits of hot labour markets. I worked very hard with Olivier Blanchard on so-called hysteresis theories that emphasise the adverse effects of unemployment.
はっきりさせておくと、私は失業、不平等、その後の経済的能力への影響に対する憎悪において、誰にも譲ることはできません。私が学者として最初に取り組んだのは、ホットな労働市場の利点に関するものでした。私はオリヴィエ・ブランシャールとともに、失業の悪影響を強調する、いわゆるヒステリシス理論に熱心に取り組みました。

The only silver lining in this moment is, as Paul Krugman and others suggest, that long-term inflation expectations have not yet become entrenched. It is crucial that we take advantage of that by acting firmly to restrain inflation.
この瞬間の唯一の明るい兆しは、ポール・クルーグマンらが指摘するように、長期的なインフレ期待がまだ定着していないことです。インフレを抑制するためにしっかりと行動することで、その利点を生かすことが極めて重要です。

The global situation is no less problematic. I think there is an increasing chance that when historians look back at the views that prevailed of China in 2020, they will compare them to the views that prevailed of Japan in 1990 or the views that prevailed of Russia in 1960 and find them almost as bizarre.
世界情勢もそれに劣らず問題です。2020年に中国を席巻した中国観を歴史家が振り返ったとき、1990年の日本観や1960年のロシア観と比較して、ほとんど同じように奇異に映る可能性が高まっていると思うのです。

The pressure for capital flight, the dependence on real estate, the magnitude of the demographic challenge, the complexity of running an economy in a way that both enforces political loyalty and spurs innovation, all of this suggests to me that there are likely to be very challenging years ahead in China.
資本逃避の圧力、不動産への依存、人口動態の課題の大きさ、政治的忠誠心を強化しイノベーションを促進する方法での経済運営の複雑さ、これらすべてが、中国には非常に困難な数年が待っている可能性を示唆しているのです。

With a tendency to turn substantially inwards and the real prospect of economic weakness in both the US and China, and with a European economy that will be held back at best and hobbled at worst by high energy prices, it is difficult to be optimistic about the global prospect.
米国と中国が大幅に内向きとなり、経済が弱体化するのが現実的な見通しであり、欧州経済がエネルギー価格の高騰によって良くて足止め、悪くて足かせとなる中、世界の見通しを楽観視することは困難でしょう。

My hope, but not my expectation, would be that there would be serious dialogue, led by the international financial institutions, on the need for a global stability strategy coming out of these meetings. That would involve an appropriate combination of policies in each of the major regions. It would involve the development of capacities to provide substantial additional resources to the developing countries and more satisfactory approaches than now exist for managing debt, for debt relief. It would involve a capacity for looking beyond the current moment, by providing large-scale financing of a green transition and for fortifying the world against the next pandemic, which I would guess will come within the next 15 years.
私の希望は、しかし期待ではなく、これらの会議から国際金融機関が主導して、世界的な安定戦略の必要性について真剣な対話が行われることであろうことです。そのためには、主要な地域ごとに適切な政策の組み合わせが必要です。それには、途上国に相当な追加的資源を提供するための能力、債務管理および債務救済のための現在よりも満足のいくアプローチを開発することが必要でしょう。また、グリーン・トランスフォーメーションに大規模な資金を提供し、今後15年以内に発生すると思われる次のパンデミックに対して世界を強化することによって、現在の時点より先を見据える能力も必要である。

This is a moment for the kind of signalling, albeit with very different problems, that took place at the London 2009 summit during the financial crisis. My fear is that the preoccupations will be with questions like whether the World Bank president is or is not a climate denier and with much more business-as-usual proposals about who will or will not contribute sums in the hundreds of millions of dollars to various funds that the global institutions are seeking to raise.
これは、金融危機の最中の2009年のロンドン・サミットで行われた、非常に異なる問題を抱えながらも、ある種のシグナルを送る瞬間であす。私が恐れているのは、世界銀行の総裁が気候問題を否定しているのか、していないのかといったことや、国際機関が集めようとしている様々な基金に誰が数億ドルを拠出するのかしないのかといった、より日常的な提案に関心が向いてしまうことです。

It seems to me to be a moment for boldness and imagination. And while the ministers have not yet delivered their pre-meeting speeches and so one can remain hopeful, I can’t honestly say I am hugely optimistic that we will see substantial boldness coming forward at these meetings.
大胆さと想像力の瞬間のように思えます。そして、閣僚はまだ会合前のスピーチを行っていないので、希望を持ち続けることができますが、正直に言って、これらの会合でかなりの大胆さが示されるだろうと非常に楽観的であるとは言えません。

(出典:フィナンシャルタイムズ2022年10月6日

3.今後の米国経済と世界経済

サーマーズ元財務長官は、早くからインフレへの懸念を表明していました。そして、今回失業率は6%を超えるほどにならなければインフレは収まらないだろうと予測し、さらにFRBは現在公表している金利予測(ドットプロット)よりも金利は高くせざるを得なくなると予測しています。

もし、これが実際に実現したとすると、米国さえもスタグフレーションの可能性です。

米国は失業率が上昇し、深刻な景気後退。しかし、金利は上昇し、高止まり。米ドルの金利が高ければ、ドル高が促進されます。しかし、新興国や途上国などの通貨は暴落します。財政破綻する国も出てくるでしょう。

英国、EU圏はウクライナ問題が収まらなければ、エネルギー価格の高騰が収まらず、やはり不景気の中の物価高となってくるでしょう。

英国では減税政策を一部修正はしたものの、政策実行に向けて動けば、再び金融危機の懸念が高まるでしょう。

中国も不動産セクターのバブル崩壊が現実化してきており、厳しい状況です。そして、サーマズ氏が指摘しているように、人口減少問題に直面する中国は、これまで世界が思い込んでいた米国とGDPが逆転するということも怪しい状況になってくるのではないでしょうか。

確かに、1980年代、日本が世界で一番の経済になるということも言われましたが、全くそれは幻想でした。

同様に中国の成長は人口の成長とともにピークを迎え、ここからは大幅な成長はないかもしれません。

日本は日米の金利差からまだしばらくは円安基調が続くでしょうが、世界景気が大幅減速、後退となれば、原油価格が下落してくれば、貿易収支が改善されます。そうすれば、円安から円高基調に変わってくる可能性も十分にあります。

そのため、日本は欧米ほどのインフレには見舞われないかもしれません。世界景気の減速の中で、日本も例外にはならないと思いますが、欧米、中国に比べると、打撃は少ないかもしれません。

世界経済が景気後退する中で、日本はどこに強みを見出していくかが大きな課題となるでしょう。

しかし、それは金融経済で、バブルを作るようなものではなく、実業に根差したものでなければならないと思います。

英米は自国の経常赤字をどうしても埋め合わせなければならず、金融システムでお金が流れ込む仕組みを作るしかありません。


(出典:TRADING ECONOMICS/米国経常収支


(出典:TRADING ECONOMICS/英国経常収支

今回の世界的な景気後退は、世界の経済を根本的に変え始めるきっかけになるのではないでしょうか。それは、実需に根差した、経済ではないでしょうか。経常収支が赤字でも良いという時代は終わりを迎えると感じます。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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