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【日経新聞から学ぶ】バイデン大統領、中国が台湾侵攻なら米軍が防衛~米国の台湾政策変更か?~

1.バイデン大統領、中国が台湾侵攻なら米軍が防衛

バイデン米大統領は18日放送の米CBSテレビのインタビューで、中国が台湾を攻撃すれば米軍が防衛すると明言した。中国が台湾へ武力行使した場合の対応を明確にしない歴代政権の「あいまい戦略」の修正と受け止められかねない発言だ。

番組の司会者から「米軍は台湾を守るのか」と問われ、バイデン氏は「はい(YES)、もし実際に前例のない攻撃があれば」と答えた。「(ロシアが侵攻しても派兵しなかった)ウクライナと違って、米軍は中国の侵攻があった場合に台湾を守るということか」と聞かれても「はい」と表明した。

CBSによると、ホワイトハウスの関係者はインタビュー後、バイデン氏の発言は米政府の公式見解でなく、台湾政策に変更はないと説明した。

(出典:日経新聞2022年9月19日

米国は1979年に台湾関係法を成立させ、中国と国交を結ぶと同時に台湾も支援を続けてきました。台湾の自衛力維持を支援すると定め、武器売却をしてきたのです。一方で「中国本土と台湾は不可分」という中国の立場に異議は唱えないというあいまいな立場、いわゆるあいまい戦略が米国の台湾政策でした。そのあいまい戦略をここにきて変更するのでしょうか。

フィナンシャルタイムズには次のような報道がありました。

“In my view, ‘strategic ambiguity’ is being eroded, but what is replacing it is closer to ‘strategic confusion’ than ‘strategic clarity’,” said Bonnie Glaser, a China and Taiwan expert at the German Marshall Fund.ジャーマン・マーシャル・ファンド(GMF)の中国・台湾専門家であるボニー・グレーザー氏は、「私の考えでは、『戦略の曖昧さ』は損なわれているが、それに代わるものは、『戦略の明確さ』よりも『戦略の混乱』に近い」と述べている。

(出典:フィナンシャルタイムズ2022年9月19日

全文訳はこちら↓

バイデン大統領の中国が台湾を攻撃した場合には台湾を守るという発言は三度目です。確かに、戦略の混乱といえるかもしれません。

2.あいまい戦略


米国の台湾問題に対するあいまい戦略とは「仮に中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合、米国がどう対応するかをあいまいにしておく」戦略を指します。米国は軍事介入するかもしれないし、しないかもしれない。そこを敢えて明確にしないことで、中国による台湾侵攻を抑止し、同時に台湾が一方的に独立をめざして中台の緊張が高まることを防止する狙いもあります。

このような米国の戦略における具体例の一つが「台湾関係法」です。そこには、「平和手段以外で台湾の将来を決定しようとする試みは、いかなるものであれ、地域の平和と安全に対する脅威だ」と明記され、台湾の自衛のための兵器供与や、台湾に危害を加える行為に対して米国が対抗能力を維持することが盛り込まれています。しかし、米国による台湾の防衛義務は定められていません。

もう一つの具体例は「ひとつの中国政策」です。この政策は中国が主張するものと、米国が言っていることは微妙に違いがあります。

中国が言う「ひとつの中国原則」は比較的わかりやすく明確です。世界に①中国はひとつ、②台湾は中国の不可分の一部、だから③中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府という三段論法をとります。

これに対して、米国の「ひとつの中国政策」において、米国は「承認する(recognize)」として、台湾の中華民国とは外交関係を断絶し、北京の中華人民共和国と国交を正常化しました。しかし、①と②については「認識する(acknowledge)」という表現にとどめています。Acknowledgeはrecognizeとかagreeとかより法律的に弱い言葉です。「あなた達がそう主張していることは知っています。だから、反対はしませんよ」という意味合いです。

なぜ、このような微妙なニュアンスが生まれたかの要因として最も有名なのは1972年の上海コミュケでした。

上海コミュケは「米国は、台湾海峡の両岸のすべての中国人が、中国はただひとつであり、台湾は中国の一部分であると主張いていることを認識(acknowledge)している。米国政府はこの立場に異議は唱えない」としました。

機密解除された当時の交渉記録が公開されています。そこには上記以外に米政府は中国人による台湾問題の平和的解決に関心を寄せるという前提のもと、駐台湾米軍と軍事施設を次第に削減し、最終的にはすべてを撤去することを約束しました。

さらにこのコミュケと並行して、当時のニクソン政権が台湾問題に関する5つの了解事項を中国側に口頭で伝えていたことも、会談録から分かります。

①中国はひとつで、台湾の地位は未定ではない
②台湾独立を支持しない
③日本の台湾独立支持や台湾進出を抑制する
④台湾問題の平和的解決を支持し、大陸反抗を支持せず
⑤以上の枠組みで正常化を追求する

ただし、この時点で将来の国交正常化を約束したとはいえ、米国政府はこの段階で、中華人民共和国政府を「唯一の合法政府」として承認したわけではありませんでした。そのため「中国はひとつ」であり、「台湾は中国の一部である」という部分については、中華民国政府と中華人民共和国政府の両方、つまりは「中国人」の主張を認めたに過ぎませんでした。その意味で上海コミュケにおいて、中国側は今日主張する「ひとつの中国」原則を米国側に部分的にしか認めさせることができなかったとも言えます。

このようにニクソン訪中における台湾問題をめぐる米中交渉は、互いが異なる前提に立っていることには目をつぶり、互いの主張の共通項を強調することによってまとめられたものでした。

ただ、双方の認識のズレは半世紀後の現在もそのまま残されています。だから、今も中国は台湾問題で米国ともめるたびに「ひとつの中国原則を確認できた」といい、米国も「ひとつの中国政策に変わりはない」と繰り返すのです。

台湾問題は、米中対立の核心です。中国共産党にとっては、統治の正当性にかかわるので絶対に譲れない。米国側もあいまい戦略を見直すことには極めて慎重です。

3.なぜ、この時期にバイデンは発言した?


2022年8月2日に米下院議長のナンシー・ペロシー氏が訪台しました。それに反発した中国共産党は、前例のない軍事演習を展開し、中台、米中の緊張が高まりました。

米国は11月に中間選挙を迎えます。ここにきて若干の盛り返しがあるといわれているものの、バイデン率いる民主党は劣勢が伝えられています。米国としては、強い立場を強調したかったのではないでしょうか。バイデン大統領が台湾を防衛すると発言し、ひとつの中国政策の変更かと思わせて、裏ではホワイトハウスが政策に変更はないと火消しする。中国は反発をするが、強引に台湾を攻めるということもない。いわゆる脅しで終わる。中国側としても国内に向けて強い立場を強調する機会にもなります。

米国側も中国側も国内向けメッセージに見えます。11月にインドネシアで開く20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせて会談する話が持ち上がっています。

トランプ前政権の対中国政策とは随分と強さが変わったように思えるバイデン政権。実は、これらの発言とその対応は、両国では理解済みの話なのではないでしょうか。

ウクライナで起きていることが台湾にもというのは、可能性として考えておかねばならないことですが、もしもそれが起きた場合に、米中ともに失われるものがあまりにも大きい。米国の軍需産業としても緊張の高まりで武器が輸出できればそれで良いのではと思えます。

したがって、高い緊張状態が続く。しかし、現実には何も起きないというのが、しばらく続くシナリオに思えます。

未来創造パートナー 宮野宏樹

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