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【日経新聞をより深く】中国、不動産の包括支援策 開発資金の融資延長など~中国経済はどうなる?~

1.中国、不動産の包括支援策

中国政府は、調整が長引く不動産市場に対する包括的な金融支援策をまとめた。銀行にマンション開発資金の融資期間を1年延長するよう促したほか、地方政府に住宅ローン金利の下限引き下げを求めた。10月の主要70都市の新築価格は平均下落率が7年8カ月ぶりの大きさとなっており、政府は住宅価格の下落への危機感を強めている。

支援策は全16項目ある。中国人民銀行(中央銀行)と中国銀行保険監督管理委員会が11日、金融機関や地方の金融当局に通知した。

開発企業の資金繰り支援では、今後半年以内に返済期限を迎える開発資金について、融資を1年延ばすよう銀行に促した。銀行が延長に応じても不良債権の認定など貸し出し区分を見直す必要はない。建築中の物件を円滑に購入者へ引き渡すことを後押しする。

販売不振などで短期的な資金不足に陥った開発企業の社債発行も支援する。人民銀行はすでに開発企業を念頭に民間企業の信用を補完する制度を設けており、約2500億元(約4兆9000億円)の社債発行を支援する。

マンション購入者への支援では、地方政府に住宅ローン金利の下限や頭金比率の引き下げを求めた。人民銀行は9月末、マンションの販売不振が続く一部都市で住宅ローン金利の下限撤廃を容認した。各地の実情を踏まえて個人の負担を軽減し販売減を抑えたい考えだ。

政府が包括支援策をまとめたのは、住宅市場がデフレの様相を強めているためだ。

中国国家統計局が16日発表した主要70都市の新築価格は、単純平均で前月比0.37%下がった。2015年2月以来の下落率だ。14カ月(1年2カ月)連続のマイナスで、遡れる11年以降で最長を更新している。値下がりした都市数も58都市と、21年11月以来の多さとなった。

(出典:日経新聞2022年11月17日

中国の住宅価格の下落から政府の危機感が露わになっています。2023年の中国経済で最大の問題になるのは住宅価格バブルの崩壊による金融危機が起きるかどうかでしょう。

中国国家統計局が16日発表した2022年10月の主要70都市の新築住宅価格動向によると、前月比で価格が下落したのは、全体の83%にあたる58都市で、9月から4都市増えています。

中国では住宅が未完成の段階からローン支払が始まります。しかし、不動産開発会社の資金繰り難から工事がストップ。住宅購入者は住宅を手に入れることができる見通しが立たない中で、住宅ローンの返済のみを行うことが求められています。そこで、未完成住宅に対して購入者が支払いを拒否する動きが各地に広がりました。

その住宅ローンの総額は3,700億ドル(約49兆円)に達する可能性があると推計されています。人民銀行のデータによると、今年3月末時点で同国の金融機関には計5兆8,000億ドル相当の個人向け住宅ローン残高があると報告されていることから、支払拒否の対象となる住宅ローンはその内の15.7%程度と推測されます。

しかし、これからはさらに不動産開発会社の借入も不良債権として顕在化してきたり、さらには景気の悪化から住宅ローンの返済不能も出てくることが推測されます。

日本のバブル崩壊による不良債権が推定200兆円。今回の中国のバブル崩壊はその倍の400兆円にはなるのではないでしょうか。

2.民間企業に対外債務が多い中国

2022年上半期中国国際収支報告書(参照:https://00m.in/2dUlN)によると、2022年6月末の中国の対外金融資産は9兆1,563億ドル、対外資産負債は7兆746億ドルとなっています。差し引きの対外純資産は約2.0兆ドルです。ちなみに日本の対外金融資産は1,239兆円、対外資産負債は885兆円で、対外純資産は354兆円、ドル換算(1ドル140円)で約2.5兆ドルです。

対外資産のうち、政府が外貨準備を約3兆ドル(420兆円)持っているので、民間企業には1兆ドル(140兆円)の対外純債務があります。中国の大手企業はドル建ての社債を発行するなど、ドル建て債務が多いのが特徴です。中国では、現在、金利が上がったドルの不足が生じています。(人民元は人民銀行が持つドル準備を信用の担保にしたドルペッグ制の通貨です)

中国ではドルの金利が上昇すると、ドルでの対外純債務に対する利払い費が増加します。そして、住宅価格の下落により不良債権が増えると、マネー量が収縮し、対外的な利払いができなくなります。それが金融危機をもたらす可能性が高くなります。

2023年は、中国経済にとって大変な苦難となるでしょう。それは、不動産の不良債権が表面化してくる可能性が大だからです。

それを裏付けるように急速な人民元安が見られます。

(出典:TRADING ECONOMICS/ドル-人民元為替)

人民元はドル不足の中での「ドル買い/元売り」の超過のため、かつてない下落です。中国でドル不足が始まり、ドルが買われ、人民元が売られているのは、人民元の国外脱出、つまりキャピタルフライトの現象ではないでしょうか。現在、中国はインフレ率が世界で最も低い状況です。これは、国内の通貨量が減少していることが要因です。国内の通貨量が減ると、インフレではなく、逆にデフレ傾向になります。通貨高は通貨量が増えることです。通貨安はその通貨が売られて通貨量が減ることです。

中国ではGDPの約30%が住宅と関連の建設投資です。GDPに占める不動産・建設の占める割合が世界一です。日本は約11.2%(2021年)ですから約1/3です。住宅とビルの建設は、建設会社と世帯のローンで行われます。

その為、住宅価格が下がると原価割れになる不動開発会社と建設会社には不良債権がたまります。これは、不動産開発会社と建設会社に貸し付けている銀行の不良債権になります。不動産開発会社や建設会社は倒産となりますが、銀行には不良債権が残ります。そして、銀行までが破綻すると金融危機の引き金になっていきます。

住宅価格が下がると、世帯にも純資産のマイナスが発生します。バブル期の日本もそうでしたが、住宅価格は上がるものとしてローンを組んでいます。住宅価格が上がれば転売すれば資産は増える状況でした。ところが、住宅価格が下がると、転売しても利益は出ません。むしろマイナスです。

そのため、住宅価格が下がるということは、住宅の転売価格-ローンの残債分が純資産のマイナスです。そして、ローンの支払いができなくなると、その分が不良債権となります。これは、1990年代の日本と同じ姿が想定されます。

この様に中国の住宅価格の下落が不良債権を産み出し、それが金融危機の引き金になりうるということです。

3.世界に影響を及ぼす中国経済の急減速

(出典:TRADING ECONOMICS/中国小売売上

10月の中国の小売売上が-0.5%と発表がありました。ロックダウンがあった時期はマイナス圏に落ち込みましたが、2022年も3%前後の上昇率だったのが、水面下に落ち込みました。

個人消費の減少は、GDPの30%を占める住宅価格の下落、販売戸数の急減と並び、GDPの大きな下落の要素です。

世界に開かれた香港ハンセン指数の株価は、年初から約28%下げています。世界の中でも下落率は有数です。

(出典:TRADING ECONOMICS/香港ハンセン指数

中国経済を浮上させるには、低金利と元の増発が必要でしょう。つまりインフレ政策です。中国のインフレ率は2.17%と日本より低く、世界最低の水準です。

(出典:TRADING ECONOMICS/中国インフレ率

中国経済にはローンの不良債権増加とドル不足からデフレ圧力がかかっています。世界中がインフレで苦しんでいる中で、唯一といっていいデフレです。

その主な原因は習近平主席がとっている過剰なゼロコロナ政策でしょう。中国政府は一部制限措置を緩和し、今後はもっと大幅な緩和が実施されるかもしれないという期待は芽生えています。

このゼロコロナ政策は消費と投資に甚大な影響を及ぼしています。これが緩和されれば、経済の浮上に影響が出てくるはずです。

ただ、中国の減速は世界経済に影響を与え、もしも、中国国内で金融危機が生じれば、ドル建て債券のデフォルトとなり、世界に金融危機が広がるかもしれません。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】


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