1.円、レートチェック後は全面高
日本政府が実際に為替介入をしたのは、2011年10月から12月に9兆円を超える介入を実施しました。この時は東日本大震災の後です。政府が実施したのは、円高対策の円売り・ドル買い介入です。9兆円を超える円売り、ドル買いを実施しました。
東日本大震災の後、76円台前半という急速な円高が進みました。円高になった理由にはいくつかの原因が考えられるようです。第一に日本の保険会社が海外資産を売却し、円に替えて保険金支払に充当するであろうというシナリオに沿って、「投機家が円を買い上げたこと」によって生じたとされています。ただ、実際には日本の保険会社による海外資産の売却は起きてはいないようです。第二に日本企業が海外投資を控え、国内問題の処理、国内事業の再建に没頭する、第三に日本政府が国の再建の財源として新規の米国債への投資を控える、または保有米国債を売却する、第四に日本の金融機関に対する国内需要の増加により、海外での運用が縮小するなどの憶測から円が買われたようです。
それ以前の介入は円買い・ドル売りの1998年4月から6月に遡ります。日本の金融危機が顕在化した時でした。大手金融機関の破綻が相次ぎ、日本の金融システムへの不安から円売りが膨らんでいました。この時は3兆円規模の円を買っています。
2.レートチェックって何?
3.効果はあるのか?
過去の状況から見ると、日米の同時介入であれば、効果が表れる可能性があるものの、協調介入でなければ効果を上げるのは難しいと見られます。
インフレに苦しむ米国はドル安で輸入物価が上昇することは嫌います。したがって、ドル安を促す円買い・ドル売り介入に協調するとは思えません。そのため、通貨当局の介入によって、大きな成果を上げることは難しいのではないでしょうか。
また、フィナンシャルタイムズもこのレートチェックは報道しており、こんな内容があります。
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4.貿易赤字は円安要因
輸入が輸出を上回るのが貿易赤字です。企業は支払いに充てるドルを調達する目的で円を売るため、貿易赤字は円の下落を招きます。
2022年8月の貿易統計(速報)の発表が財務省からありました。
内容としては、「輸出は自動車、鉱物性燃料等が増加し、対前値同月比+22.1%の増加、輸入は原粗油、石炭等が増加し+49.9%の増加となり、差引額は▲2兆8,173億円となった」とあります。
やはり、エネルギー価格の高騰が貿易赤字の主因となっているようです。原粗油輸入通関単価は円建てで87.5%上昇し、輸入額全体を押し上げています。これが貿易赤字の要因であり、さらに貿易赤字が円安の要因となっているという悪循環です。
5.これからの円の動きを見るための注目点は
今の円安を主導している主な要因はやはり、日米の金利差です。米国の8月のCPIは前月比ではやや下がったものの、その内訳ではモノやサービスの価格は上昇しているという結果でした。そこから9月21日からのFOMCでは0.75%の利上げは確実、1%もあり得るという観測です。そのため、さらに日米金利差がさらに開くと予測され、円安は促進しました。この日米金利差は日銀が大規模金融緩和をやめない限りは続きます。9月21日からの日銀の政策決定会合では金融政策の変更はありそうもなく、日米金利差は拡大傾向でしょう。
円安の主な要因の一つである貿易赤字も当面続きそうです。しかし、こちらは原油価格に依存しており、原油価格が下落すれば、貿易収支は改善されます。そのため、原油価格次第の側面があります。
日米の金利差と貿易収支の赤字が大きな円安要因だとすると、金利差は拡大ですが、貿易収支は原油次第、つまり、世界景気が減速すれば、原油価格が下落して、日本の貿易収支が改善されるということになります。
通貨当局の円買い・ドル売り介入への効果は疑問ですが、原油価格の動きからは、今後も一方的な円安が続くかは疑問があります。
そろそろ円安も落ち着くころかもしれません。
未来創造パートナー 宮野宏樹
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