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長期金利上限超え、一時0.545% 13日の国債購入5兆円に~長期金利上昇の影響~【日経新聞をより深く】

1.長期金利上限超え、一時0.545%

日本の長期金利が上昇している。13日に一時、0.545%と日銀が上限とする「0.5%程度」を大きく上回った。日銀が2022年12月に上限を「0.25%程度」から引き上げて1カ月弱で早くも上限を突破した。債券市場のゆがみを突く形で投機筋などが国債を売る動きが強まる。日銀は金利を抑え込むために国債購入を増やさざるを得ない状況に追い込まれている。

長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは13日午前10時45分ごろ、一時前日比0.045%高い0.545%と、15年6月以来7年7カ月ぶりの高水準を付けた。

国債の売り圧力の高まりに対応するため、日銀は13日に5兆83億円の国債を買い入れた。1日の買い入れ額として2日連続で過去最大を更新し、昨年の1日の買い入れ額の平均の5倍に達した。13日午後3時すぎに長期金利は0.500%に下がり取引を終えた。

日銀は公開市場操作を通じて短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導する「長短金利操作」を実施し、長期金利は一定の変動を許容してきた。

21年3月に変動の上限を0.25%と明示した後、金利上昇圧力が強まり、当時の上限0.25%に張り付くようになった。10年債利回りだけが極端に低くなるという「ゆがみ」が発生。企業の社債発行などにも悪影響を与えるようになり、22年12月20日に上限を0.5%程度に引き上げた。

投資家は国債を借りて売る「空売り」をすれば、日銀がさらに上限を引き上げたり上限を撤廃したりして国債の利回りが急上昇(債券価格は下落)した時に買い戻せば利益が得られる。日本の消費者物価指数の上昇率は日銀の目標となる2%を上回り、市場で日銀が一段の緩和修正に動くとの見方が強まっている。

(出典:日経新聞2023年1月14日
(出典:日経新聞2023年1月14日

金利の上昇が止まりません。再び、政策修正を市場から迫られているといえる状況です。

2.日銀に売れない市場参加者

日銀は金利を0.5%程度に抑えようと「指値オペ」で国債を過去最大に購入しているにも関わらず、上限を超えてしまいました。

日銀の上限を上回る利回りでの取引は、国債の売り手にとって日銀が指値オペで買ってくれる価格より安い価格で売ったことになります。合理的に考えればおかしな取引です。この非合理な取引が起きた背景に「日銀に売れない」市場参加者の存在があるようです。

日銀は国債を買い入れる一方、市場の流動性を保つために市場参加者に一時的に国債を貸し出す「国債補完供給(SLF)」を実施しています。この制度を最もも利用しているのが、国債の売り買いの注文を市場に出し続けて取引を円滑にする「マーケットメーク」の機能を担う証券会社の債券ディーラーです。

債券ディーラーは業務のために金融機関同士で国債を貸し借りしています。最近は、日銀が10年債を大量に買い、市場に残る国債が少なくSLFへの依存度は高まっています。

しかし、今、問題となっているのは、日銀が実施する国債の買い入れに「SLFの利用を前提とした応札はできない」との制限があることです。日銀から借りた国債を日銀に売却できないことを意味します。日銀から国債を借りて空売りをすることを封じる狙いとされますが、SLFを利用する債券ディーラーが日銀への売却を避けるという現象につながっています。「SLFの利用を前提とした応札」とみなされ、国債を調達できなくなると業務に支障が出るためです。

投資家の売り注文を受けた債券ディーラーはいったん買い取って売却します。一部は、日銀に売れず市場で売却しています。市場に買い手がいるうちは日銀の上限を上回る金利で売らなくても捌けていました。しかし、17日~18日に日銀の金融政策決定会合が様ります。日銀が再び上限を引き上げて金利が上昇し、損をすることを恐れて国債の買い手がおらず、上限越えにつながった面もあります。

3.長期プライムレートの上昇

日銀の緩和修正に伴って、日本も金利が上昇してくる世界がやってきそうです。

銀行の融資には大きく1年以内の短期の貸し出しと1年超の長期の貸し出しがあります。長期プライムレート(以下、長プラ)は主に信用力の高い優良企業への長期貸し出しに適用されていた最優遇貸出金利のことです。長プラは長期金利の動向と、銀行が発行する5年債の利率などを総合的に勘案して決められています。

みずほ銀行などが11日から企業向け貸出金利の指標となる長期プライムレート(長プラ、最優遇金利)を0.15%引き上げました。年1.40%となり2012年2月以来、約11年ぶりの高い水準です。

今回、各行が引き上げを決めたのは、日銀が22年12月に金融緩和策を修正した影響です。日銀は長期金利の指標となる10年物国債利回りをおおむねゼロ%程度に誘導する施策を続けていますが、その変動の許容幅を0.25%程度から0.50%程度に拡大しました。金利全般に上昇圧力がかかっており、それが要因で長プラの引き上げが決定しました。

(出典:日経新聞2023年1月14日

長プラを公表しているのは、みずほ銀行、SBI新生銀行、あおぞら銀行などです。これらに共通するのは、かつて1年以上の長期貸し出しを担っていた日本興行銀行(現みずほ銀)と日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)、日本債券信用銀行(現あおぞら銀)という旧長期信用銀行を源流に持つという点です。

かつては長プラの水準は、長信銀の発行する金融債の発行利率に一定の利率を上乗せして決定されていました。興銀などが長プラの水準を決めて公表し、それが大企業向け融資の利率に反映されたという名残で今も公表を続けています。

ほかに信託銀行も公表していますが、信託銀は長期貸し出しに特化した旧長信銀と短期の運転資金供給を商業銀行の中間のような立ち位置で資金供給を行っており、長プラに連動した融資も手がけていた経緯だとされています。

今では、長プラはほとんど使われていないのが実態です。長プラを参照して金利を決めているのは、一部の自治体の制度融資や個人向け住宅ローンの一部などに限られるようです。例えば、みずほ銀行では短期貸し出しと長期貸し出しがおよそ8対2の割合だそうですが、そのうち「長プラを参照する貸し出しの規模は限定的で影響は小さい」といいます。

ただ、日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)政策の修正で長期金利の動きに異変が起きた時、長プラの水準には真っ先に反映されます。そのため、家計や企業活動への影響度合いを測るのに合っているといえます。

では、近年は銀行はどうやって金利を決めているのか。現在、大企業向けの貸し出し金利の基準として最も一般的なのは、東京銀行間取引金利(TIBOR=タイボー)です。

TAIBORは、全銀協TIBOR運営機関が公表しており、レートは金融機関が短期の資金をやり取りするコール市場で調達する金利を目安に決まります。銀行はこのTAIBORのレートに一定の利率を上乗せした金利を貸出金利として使っているケースが多いようです。

一部は短期プライムレート(短プラ)を基準にした貸し出しも行われています。短プラとは、金融機関が優良企業などに短期(1年以内の期間)で貸し出す際に適用する金利のことです。住宅ローンの変動金利は短プラを基に決まるほか、大手行では信用力が低い中小企業向けの融資などで使われます。短プラは政策金利の影響を受けるため、長く低水準です。主要銀行の短プラは2009年以降、1.475%から変わっていません。

今回、長期金利の上昇によって影響を受ける金利は、主に長プラと住宅ローンの固定金利です。例えば、独立行政法人の住宅金融支援機構が提供する35年固定の住宅ローン「フラット35」は、同機構がローン債券を担保にした債券で資金を調達し、その利率をもとに貸し出し金利を決めてきました。長期金利の上昇に伴い機構債の利率は上がり、フラット35の金利も高水準が続いています。

今後、日銀がマイナス金利政策を解除するなどさらに政策修正に踏み込めば、長期金利だけでなく短期金利も影響を受けることになりそうです。

日銀の金融政策の修正は、私たちの生活にも大きな影響をもたらしてきます。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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