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ドル崩壊の足音は聞こえているか?

米国の10年債金利が低下しています。

(出典:TRADING ECONOMICS/米国10年債金利)

これはインフレは終息してきているという楽観論を反映してのものでしょう。市場は、12月のFOMCのパウエル議長の発言を、インフレへの勝利宣言のように受け取っている節があります。

米ニューヨーク連邦準備銀行が15日発表した12月の製造業景況指数(季節調整済み)は-14.5で前月より23.6ポイント低下しました。ダウ・ジョーンズまとめの市場予測(4.0程度)を大きく下回っています。同調査は管轄地区内の約200の製造業者が対象で、調査期間は12月04〜11日。マイナスの数値は前の月より景況感が「悪化した」との回答の比率が「改善した」との回答の比率を上回ったことを示します。

(出典:Inveting.com/米国 ニューヨーク連銀製造業景気指数)

景気は後退気味、インフレは終息ということでFRBは2024年に金利引き下げを行っていくだろうと市場は見ているわけです。しかし、それほどうまくいくのか。

米国の債務は33兆ドルを超えています。2023年5月に米予算局(CBO)は2024年10月の米政府債務残高を27兆3,880億ドルと推定していました。もはや制御不能に上昇しており、CBOも債務の予測を更新していない状況です。

(出典:FRED/米政府債務残高)

さらに、米政府の債務利払い費は2023年10月末に推定で1兆ドル(145兆円)を超えました。利払い額は過去1年7カ月で倍増しており、2022年会計年度の連邦予算全体の15.9%を占めます。また、CBOは国民が保有する負債の平均リスコストはわずか2.9%と想定していました。しかし、財務省が過度に依存している短期国債の調達コストはそのほぼ2倍です。

(出典:Bloomberg)

国債債務のうち、今年度は約7.6兆ドルを借り換えなければならないのですが、これに赤字財政のファイナンスが加わります。2024年は大統領選挙の年であり、票を集めるために政府支出は常に増加する傾向にあるため、国債利息を除いた赤字は昨年の約1兆ドル近くからさらに増加するに違いありません。景気後退が税収を押し下げ、福祉費用を増加させるため、恐らく今年度は1.5兆ドルの基礎赤字が見込まれ、これに利払い費用が加算されることになります。

財政赤字は膨らむため、利払い費も膨らみ、雪だるま式に膨らむ政府債務残高は2024年9月末残高は37兆5000億ドルにもなりそうです。

市場もFRBもインフレが収まり、金利が低下すれば、大きな問題はなくなると考えていそうですが、問題はドルは基軸通貨であるということです。

まず、金利が低下した場合に、米ドルは弱くなり、購買力の低下を招き、外国人による通貨の流動化を促します。つまり、外国人はドルを保有したがらなくなるという事です。ドルを購入しなくなるという事は、米国に資金は還流しなくなり、米国政府の財政赤字の財源問題を直撃します。

ドルは基軸通貨の地位を保つために、世界中にドルを供給しています。しかし、米国の財政赤字のために、ドルの供給が過剰となっており、金利が下がるとさらにそれが加速します。すると、米ドルの価値は下がってしまいます。

その為、急増する財政赤字の財源問題は、金利と債券の利回りの上昇を通じてしか解決できません。

しかし、金利や債券利回りが再び上昇に転じれば、外国人所有のドルによる金融資産の価値は下落します。損失が見込まれるため、外国人が所有するドルや資産の精算が加速するのは確実です。

1971年のニクソンショック、そして1973年のスミソニアン体制の崩壊以降、ドルは不換紙幣となり、金との交換が停止されています。不換紙幣となったドルの最後は、こうなるという事は、決まっていたのです。

ドルの供給が大きくなり、世界に流通しなければ基軸通貨としての役割を果たせない。しかし、ドルの流通が多くなり、世界経済は活性化しても、ドルの価値は低くなってしまう。ではドルの価値を上げるために、ドルの供給を絞ると、ドルの流通が少なくなり、世界の経済は収縮してしまう。これはR.トリフィンの「流動性のジレンマ」でした。

そして、今、米国政府の際限のない債務の膨張によって、それをさらに困難にしています。金利が低下すれば、米ドルの価値は下がり、赤字を埋めるファイナンスができなくなります。その為、金利や債券利回りは上げなければならない。しかし、金利や債券利回りを上昇させれば、債務の利払い費は膨大となり、財政赤字はさらに膨らみ、かつ外国人からの資金調達ができなくなります。

しかし、金利や債券利回りの上昇は外国人の金融資産を目減りさせるため、ドル資産の売却が加速してしまいます。まさにジレンマであり、罠にはまっており、どうしようもありません。

加えて米国の国際社会での立場も急速に弱まっており、ドル離れは加速しています。

1973年以来の不換紙幣の弱点がさらされており、債務の膨張が大きすぎて、ごまかすことができなくなってきています。これはドルに始まり、すべての不換紙幣が崩壊の危機に瀕していると言えます。

人類の歴史の中ではわずかにすぎない不換紙幣による信用通貨制度はその限界に達していると言わざるを得ないのです。

世界各国の中央銀行が金の保有量を増やしているのは、公の場では言われていませんが、信用通貨制度の限界を知っているからです。その為、現物の金を集めているという事でしょう。

50年の歴史に幕を閉じようとしているドル基軸通貨。それは、米国の内部からも、米国の外からも、進行しています。

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