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新NISAでのオールカントリーは錬金術ではない

日本では2024年からの個人を対象にした利益減税の「新NISA」の対象として、オルカン(オールカントリー/全世界株式)が人気を博しています。オルカンでは米国株が50~70%です。日本株は10%程度です。株価の時価総額の比重に比例しています。


(出典:日経新聞)

オルカンの人気投資信託であるeMAXIS Slim 全世界株式を見ると、コロナが始まった後の2020年からの4年間で8,320円から24,737円へと約3倍に、滑らかに上昇しています。

4年で3倍は年間31.6%という高い上昇率です。この要因はコロナ後のマネー大量増発の結果であり、金融相場、緩和相場と言ってもいいでしょう。

ドルベースのオルカン株では、円安の時為替利益がありますが、逆の円高では為替損失が生じます。2022年からのドルに対する40%の円安が、円ベースでは、ドルベースのオルカン株を40%上げたように見せています。仮に2025年に1ドル120円になると(29%円高)になると、円ベースでは29%下がります。

【ポートフォリオ理論】
オルカン株は科学的な唯一の方法といえるポートフォリオ理論に基づいて組成されたETFです。現代のポートフォリオ理論を発展させたのが1990年にノーベル賞を受賞したハリー・マコーミックです。

ここで、ポートフォリオ理論を簡単に考えてみましょう。

「すべてのタマゴを1つのカゴに盛るな」という格言を聞いたことはあるでしょうか。これが本当に正しいのかを見てみるため、次のようなゲームで考えてみます。

50%の確率で赤か黒が出るルーレットのゲームで、プレイ料金は1回40万円。ルーレットは当たれば100万円ですが、外れれば賞金は0円です。参加料に対する期待リターンは25%(100万円÷40万円)です。

しかし、50%の確率で40万円を失ってしまうという意味では、ハイリスクであることは間違いありません。リスク(標準偏差)を計算すると、125%です。

標準偏差とは平均値からの差です。

そこで、次のような提案をしたしましょう。

「当たった時の賞金は半額の50万円でいいです。その代わり、プレイ料金を半額の20万円にしてもらえれば、2回プレイしましょう」

これは、至ってフェアな申し出ではないでしょうか。ゲームの主宰者も快く受けてくれるでしょう。ところが、この取引により、リターンを変えずにリスクだけを各段に小さくすることができるのです。

2回連続で当たって100万円を手に入れる確率と、2回連続で外れて賭け金をすべて失う確率は、それぞれ25%です。

一方、1回だけ当たって50万円を手にする確率は50%になります。これに基づいてリスクとリターンを計算すると、期待リターンは25%のままですが、リスクだけは88.4%に下がります。

1/8×1/√2≒0.8838

ルーレットの元々のリスクは125%ですから、大幅なリスク減です。

では、1回のプレイ料金を10万円、賞金を25万円にしてもらい、ゲームの回数を4回に増やすと何が起こるでしょうか?期待リターンは25%のまま変わりませんが、リスクは62.5%まで下がります。

1/8×1/√4=0.0625

ここからもわかる通り、自分の持ち金を小さく分させてなるべく多くのゲームに賭けた方が期待リターンは25%の状態をキープしつつ、リスクを極限まで減らすことができます。

もしこのようなルーレットゲームが存在すれば、全財産を細かく分散投資することで、財産を1.25倍に増やすことができます。

分散によるリスクの低減効果は「分散回数の平方根」に比例します。

これがノーベル経済学賞を受賞したハリー・マーコウイッツの現代ポートフォリオ理論の第1の結論である分散効果です。つまり、投資家は「複数の資産」を持つことによって、ポートフォリオのリスクを減らすことができます。言い換えれば、分散投資することで、より確実に期待収益を得られるのです。

マーコウイッツによれば、人間は「リスク回避」をする生き物です。同じリターンであれば、低いリスクの投資の方を選ぶべきです。「だからこそ投資家は、複数のカゴにタマゴを盛るべきだ」というのがマーコウイッツの答えなのです。

次に現代ポートフォリオ理論の第2の柱である「相関効果」を見ておきましょう。

分散投資によるリスク軽減効果が成立するためには、決定的な前提があります。それは、それぞれの資産の値動きが独立している(影響を及ぼし合わないこと)です。

ルーレットゲームを2回やる場合でも、それぞれの結果はお互いに影響を与えないはずです。1回目に赤が出たからといって、2回目は必ず黒が出るということはありません。完全に独立しています。ランダムウォークの世界です。

しかし、現実世界に存在する様々な投資商品の動きは、お互いに深い関係を持っています。例えば、ドル円相場と輸出関連銘柄の関係もその一つです。ドルが高く(円が安く)なると、輸出で儲けている自動車メーカーの株価は上がります。これは海外売上の円換算額が、円安効果によって一気に高まるからです。

逆に石油会社などの輸入企業はドル高(円安)になると、株価が下落しやすくなります。原料の購入コストが高くなり、採算が悪化するからです。

この時、ドル円相場と輸出企業の株価の動きは正の相関関係にあり、ドル円相場と輸入企業の株価の動きは負の相関関係にあると言います。

分散投資によってリスクを軽減するには、単に複数の投資対象を持つだけでなく、それぞれの資産の相関関係も念頭に置く必要があります。現代ポートフォリオ理論とは「分散効果」と「相関関係」の2つを組み合わせることによって生まれた「リスクを下げるだけの方法」ということです。

ただし、現在のドルの投資信託(ポートフォリオ)の買いには注意が必要です。オルカンもその一つ。

年間の期待利回りが10%であっても、現在の1ドル155円が10%の円高の140円になっただけでも利益はゼロになるからです。

20%の円高(1ドル130円)になれば10%の損をします。NISAでのドル投資は超円安の現在はリスクの大きな投資です。

160円以上の円安なら10%の期待利回りに為替差益が乗りますが、1年後にも1ドル160円であることの確率は低いと思われます。なぜなら、2024年9月以降の円金利は利上げ、米国金利は利下げの方向だからです。

政府は投資の責任は取ってくれません。新NISAからの大量のドル投資、その最も資金が集まるオルカンは、決して「寝てても儲かる」投資であるわけではないことを知っておかなければなりません。円高に振れたとき、大量の後悔する日本人が出てきてしまいます。

やはり、投資は自分の責任で考えてやる必要がありそうです。

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