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ロシア、原油輸出を禁止 価格上限制裁国を対象~西側もロシアも無意味な制裁合戦~【日経新聞をより深く】

1.ロシア、原油輸出を禁止 価格上限制裁国を対象

ロシアのプーチン大統領は27日、同国産原油の輸入価格に上限を設けた国に対し、2023年2月から原油の輸出を禁止する大統領令に署名した。長期化するロシアのウクライナ侵攻への打撃を目指す主要7カ国(G7)などへの対抗制裁となる。

大統領令によると、G7などに対して23年2月1日から5カ月間、原油輸出を禁じる。石油製品も対象とし、同年2月以降で政府が定めた日から適用する。プーチン氏の特別な決定があれば、禁輸を解除できるとした。

米国などの行動からロシアの国益を守るためとしている。G7や欧州連合(EU)は22年12月5日、ロシア産原油の取引価格に上限を設ける制裁を発動した。上限を1バレル60ドル(約8000円)とし、これを超えて取引する場合には、海上輸送に欠かせない保険契約ができないようにした。

ウクライナ侵略を続けるロシアの戦費を削ることが狙いだ。価格の急騰など市場の混乱を避け、ロシア産原油が国際市場に供給される流れを保つ目的もある。

プーチン氏は9日の会見で、こうしたG7やEUの制裁について「我々はそのような決定をする国には(原油を)売らない」と述べ、対抗制裁を実施する考えを示していた。「必要であれば減産の可能性についても考えていく」とも発言し、西側諸国をけん制した。

米国や英国はロシアからの原油輸入を停止し、EUも海上輸送のロシア産原油の輸入をやめている。

日本政府はG7の合意に基づき、ロシア産原油の上限価格を超えた輸入を禁じた。ただ日本企業が参画するロシアの資源開発事業「サハリン2」で産出する原油は制裁の対象外としている。これに対するロシア側の反応は明確になっていない。

(出典:日経新聞2022年12月28日

2.西側の制裁に意味はあるのか?

G7、オーストラリアはロシアの原油価格を上限1バレル60ドル(約8,000円)とし、それ以上で輸入することを禁じる制裁を発動しました。価格に上限を設ける理由は二つあります。

一つは価格を抑制することで、ウクライナ侵略を続けるロシアの戦費を削ることです。ロシアは世界第三位の産油国で、原油輸出が重要な外貨獲得手段です。ミシュスチン首相は11月29日、今年1~9月の歳入が前年同期比で10%以上増え、黒字を維持していると明らかにしました。2022年暦年の予算で設定した原油価格は1バレル44.2ドルですが、ロシアの非政府系通信社のインタファクス通信によると1~11月の平均価格は78ドルを超えました。

もう一つの理由はロシア産の石油が国際市場に供給される流れを維持することです。ロシア産は世界の石油需要のおよそ1割を占め、供給が止まれば相場が急騰しG7や世界経済に悪影響を及ぼしかねません。

西側諸国では米英がロシアからの原油輸入をいち早く停止し、EUも12月5日から海上輸送のロシア産原油の輸入を止めています。価格上限は「新興国や途上国が限られた価格でロシアの原油を入手し続けられるようにする」(フォンデアライエン欧州委員長)ための措置で経済や市場の混乱を避ける意味合いが強いと思われます。

ロシアへの制裁と安定供給の確保という相反する目的があるため、この制裁に意味はあるのだろうか?となります。

プーチン氏はG7の動きを「愚かで時期尚早」と非難し、ウラルブレンドがすでに世界の指標であるブレントよりも割安で販売されていることに言及しています。ウラルブレンドはロシアの代表的な指標原油です。

そして、現在、ロシアの原油はほぼ80%をアジアに販売しており、ヨーロッパには17%です。しかもその3分の2はドルジバ・パイプラインで輸送されています。つまり海上輸送ではありません。

60ドルの上限というのは、ロシアの2023年度予算のベースとなる1バレル70ドルに近い価格であり、ロシアの収入を減らすという目的を果たすには、疑問が残ります。

3.ロシアも曖昧な報復措置

今回プーチン大統領が署名した法令は曖昧で、上限を守っている特定の国への輸出を続けるためのオプションを残しています。つまり、プーチン大統領の意向で、制裁対象の国でも輸出ができる可能性があるのです。

ロシアの側にも、事情が透けて見えます。石油収入の減少につながる状況であれば、やむを得ず、制裁を緩める可能性もあるのです。

現在、インドや中国に輸出を強化しているわけですが、特に中国は経済の停滞、コロナの蔓延で必要な原油は満たされている状態です。ロシアの豊富措置が発表されても原油の価格が急上昇という現象は起きていません。それだけ、世界的に需要の減退が起きているということでしょう。

(出典:TRADING ECONOMICS/WTI原油価格

西側もロシア側もお互いに意味のある制裁を掛け合うことができない状況にあるということでしょう。

ただ、今後の注目はロシア側が減産に踏み切るかどうかです。世界的に景気後退が予測される中、需要が減退してきていることもあり、ロシア側が価格の維持のために減産をしていけば、価格は上昇する可能性があります。

価格が上昇すれば再びインフレ懸念が高まります。

ロシア側も報復措置を出さざるを得ない状況でしょうが、今回の制裁合戦はお互いに意味を持たせるだけ強くは出られない状況です。

この経済制裁問題よりも、この冬にロシアが総力戦を仕掛けてくる可能性が大です。既に50万とも60万ともいわれる兵が動員されており、経済事情よりも、大変なのは戦闘事情になりそうです。

大規模な衝突前に、停戦になることを祈ります。

未来創造パートナー 宮野宏樹
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