見出し画像

2019.10.20「発達障害とともに軽やかに生きる」イベントレポート(連載第4回)【全5回】 昭和大学烏山病院 横井英樹氏講演後編

2019年10月20日(日)、調布市市民プラザあくろすにて実施した、発達障害の子どもを持つ家族のためのセミナー「発達障害とともに軽やかに生きる」。今回は第二部、昭和大学烏山病院に勤務する臨床心理士・横井英樹氏による講演後半の様子をお伝えします。

<当日の構成>
【第一部】発達障害を抱えながら職業生活を送る中村陽介氏の体験談
【第二部】昭和大学烏山病院に勤務する臨床心理士・横井英樹氏/大人のデイケア・プログラムについて
【第三部】パネルディスカッション


1.やさしく、体験を重視した「サースデイ」

知的には境界の方(IQが70〜80)、つまり少し言語理解が困難な方が対象のASDデイケアプログラムについてご紹介します。

イベントレポート(4)スライド画像01

ASDショートケアプログラムをベースに、内容を少しやさしく解説します。そこに体験を加え、5、6名のグループで行います。木曜日にやっているので「サーズデイ」という名称で、主に交流を中心に据えたイメージです。ショートケアの対象にはなりにくい人、大人数では嫌だという方などより自閉度が高い方に向けたプログラムで、ここ何年かの取り組みでプログラムの形ができてきました。

イベントレポート(4)スライド画像02

午前中はコミュニケーションのプログラムを、午後はレクリエーション、という構成で実施しています。目的としては安心して過ごせる場所を提供しつつ、コミュニケーションのスキルを獲得することです。あとは仲間作り。「明るく楽しく元気に」をモットーに運営しています。

参加者は、大人になってから診断を受けた方、小さい頃から療育を受けているという方などさまざまです。状況としては、家業を手伝っている方、プログラムと並行して、作業所、就業継続支援B型や地域活動支援センターに通っている方などがいます。

前半でお話したショートケアプログラム20回の内容をいくつかに分け、言葉をやさしくして行います。配付するプリントには、イラストを使う、文字をできるだけ少なくするなどの工夫をしています。

イベントレポート(4)スライド画像03

参加者の中には、初めてトランプをやったという方、初めて調理をしたという方、初めてカラオケをしたという方もいます。家族との経験はあっても、他者とは初めてという方がたくさんいます。

外出のプログラムもあります。みんなでラーメン屋さんに出かけたりします。ただ黙々と食べているだけですが、生まれて初めて外でラーメン食べたという方がいて、他人と何かをするという経験こそが大切なのだろうと思います。

卒業への取り組みとしては、作業所見学ツアーを実施しています。サーズデイの卒業生がそこで働いているのを見ると、自分もやりたいなと思うようで、とても刺激になるようです。今後は、卒業生による体験報告会の実施を計画しています。


2.家族への支援を行う新たな取り組み「チューズデイ」

サーズデイの参加が難しいという方がいます。親御さんがずっと一緒でないと参加が困難な方を対象に、「チューズデイ」というプログラムを始めました。名前の通り、火曜日に実施しています。今のところ試行段階で、より自閉度が高い方にどんなことができるか、探りながら進めています。

イベントレポート(4)スライド画像04

自閉症や発達障害にはかなりのバリエーションがあります。烏山病院は幸いなことに臨床が豊富です。この10年で6,000人を超える人が受診をしています。そのうちの4割ぐらいしか診断はつきませんが、いろんな方がいるので、バリエーションごとにグループを作ることができます。

こぢんまりとした集団でプログラムをやっている場合、参加者の状況に幅がありすぎてしまい、グループが機能しなくなるという難しさがあります。これも、発達障害の診療が広がっていかない一つの要素ではないかと思います。


3.その他の取り組みとステップアップ

イベントレポート(4)スライド画像05

画像:https://www.orangepage.net/books/1064
ツイート:https://twitter.com/itacchiku/status/1009326595314601984

こちらはオレンジページさんの『ゆる自炊ブック』(https://www.orangepage.net/books/1064)」です。発達障害の子どもを持つお母さんのツイートでちょっと話題になったようです。オレンジページさん自体も障害者雇用を積極的に行っています。サーズデイでも生活のスキルを身に付けたい方に向けた調理プログラムを始める予定です。

『ゆる自炊ブック』は、見開き1ページで写真がたくさんあって、写真の通りに作っていけば非常に簡単に美味しく料理ができます。簡単で安い点が、生活の自立という意味で重要なポイントだろう思います。

コミュニケーションだけではなくて、生活のスキルも支える必要があります。実際に親御さんの心配としてよく聞くのが、親亡き後どうしたら良いのかという悩みです。


4.デイケアでの標準的なステップアップ

イベントレポート(4)スライド画像06

烏山病院のデイケアにはいろいろなステップがあります。まず、外来受診。さきほど中村さんが言った検査入院のプログラムは烏山病院でも行っています。そちらで診断を受けていただく方法もあります。

外来の次は、本日説明してきた発達障害の専門プログラムに入っていただき、そのあと比較的自閉度の強い方はデイケアの生活支援のプログラム(スライド上、生活支援コース)からスタートすることが多いです。

知的レベルの高い方は、大学・大学院を中退されたケースも多く、そういった方はどう就職するかがいちばんのポイントになるため、就労準備コースに入られることが多いです。専門プログラムで学んだことをより実践的に練習していく場だと考えています。

その先は、デイケアから就職活動する方や、福祉の就労移行支援事業所に通い、障害者職業センターや障害者生活支援センターなどの支援機関と連携し、就職に向かう方がいます。就職活動の際には、私たちが企業さんの面接に同行したりすることもあります。

サーズデイの場合は、そこに所属しながら就労継続B型・A型の方へ卒業していく、というパターンもあります


5.デイケアを受ける意義

知的な能力、とくに言語性の能力を活かせる人たちは、言語の知的な理解で対人関係の取り方や社会性について、まず理屈で理解してもらいます。そこを教わってこなかったという点が、彼ら・彼女らの生きにくさの一つになっているからです。

自分と似た仲間と出会う場であるということも重要です。30歳を超えて初めて友人ができたという方もいらっしゃいます。ここで学ぶことで、自分はダメな人間だという自責の念を払拭することができます。とにかくここにくると安心できるし、仲間がいるという場所なのです。

医療機関ではありますが、プログラム参加者は「素の自分でいることができる」「誰も自分のこと責めない」と言います。

横井氏講演後半 画像


講演者プロフィール

>>>横井英樹氏
昭和大学発達障害医療研究所、昭和大学附属烏山病院に勤務。臨床心理士。


※連載第5回は、横井英樹氏と中村陽介氏によるパネルディスカッションの様子をお届けします。


>>>NPO法人子どもの未来を紡ぐ会
https://tsumugu2017.jimdo.dom
https: //www.facebook.com/tsumugu2017/
>>>学習教室ミライエ
https://miraie2017.wixsite.com/home

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?