見出し画像

2019.10.20「発達障害とともに軽やかに生きる」イベントレポート(連載第3回)【全5回】 昭和大学烏山病院 横井英樹氏講演前編

2019年10月20日(日)、調布市市民プラザあくろすにて実施した、発達障害の子どもを持つ家族のためのセミナー「発達障害とともに軽やかに生きる」。今回は第二部、昭和大学烏山病院に勤務する臨床心理士・横井英樹氏による講演の様子をお伝えします。氏が進める大人のデイケアプログラムについてお話しいただきました。

<当日の構成>
【第一部】発達障害を抱えながら職業生活を送る中村陽介氏の体験談
【第二部】昭和大学烏山病院に勤務する臨床心理士・横井英樹氏/大人のデイケア・プログラムについて
【第三部】パネルディスカッション


1.治療というより学校教育に近い!?

昭和大学の発達障害医療研究所と昭和大学烏山病院に勤めている臨床心理士の横井と申します。本日は烏山病院で行っているデイケア・プログラムについてお話をします。

烏山病院の設立は大正15年。民間の医療機関としてスタートしました。2008年に東大病院にいた精神科の先生が昭和大学に移ってきて発達障害の外来を始めました。第1部、中村さんの話に出た清和病院(http://www.seiwa-hp.com/)でも大人のデイケア・プログラムが行われており、入院や検査入院の仕組みなどもほとんどが同じです。

成人期発達障害(編注:いわゆる大人の発達障害)の治療は、世の中では「リハビリテーション(心理社会的治療)」という言葉が使われることが多いわけですが、自閉スペクトラム症(以下ASD)、注意欠如・多動症(以下ADHD)とも根本的な“治療”法はありません。ADHDには、ストラテラ,コンサータ,インチュニブという3種類の薬物療法があります。

これらの投薬により、不注意で入ってこなかった情報をきちんとつかめるようになり、生活のしやすさに繋がります。ただそれは"完治"を目指すためのものではなく、あくまでもコミュニケーション能力を上げ、対人関係の方法を学んでいく土台をつくるものです。

病院ですから、障害や治療という言葉で表現をしていますが、大人のデイケアは学校教育のようなものだと私たちは認識しています。

集団で何かを学ぶ、同じ体験をするというところが,デイケア・プログラムのポイントです。リハビリテーションという言葉は広く知れ渡っていますが、発達障害の方を考えた場合は、「リハビリ=失われた機能の回復」ではありません。もともと学習していない部分を学習していくわけですから。子どもの場合は「療育」と言いますので、私たちが行っているのは、「大人の療育」ということだと思います。


2.発達障害専門プログラムでは何をしているのか

2年前に,マニュアルとワークブックをつくりました。星和書店から出版されています。主にこれらを使ったプログラムが中心になります。

◆マニュアル:
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn900.html
◆ワークブック:
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn901.html

大人になるまで発達障害に気づかなかった方の多くは,それまで周囲の人とは違う特性があり、集団から浮いてしまったり、孤立感を感じたりしてきたわけです。だから、デイケア・プログラムが互いの思いや悩みを共有する場であってほしいと考えています。

同じ悩みを抱えた人同士が出会える場。そこでコミュニケーションに関する新たなスキルを習得していくわけです。他人を見ることで、自己理解も深まります。その結果、自分自身に合った生活・処世術を身につけることができます。

同質な集団、つまり似た特性を持った仲間の中で新しい体験をすることも重要です。今のところこのような取り組みは病院でしかできませんが、本来なら小学校や中学校、高校など学校教育の中で実践できたらと思います。

デイケア・プログラムは、スライドの通りいくつかのグループに分けて実施しています。

イベントレポート3_スライド画像01

働いている方でASD傾向のある方のためのプログラム(ASDショートケア 就労者)は土曜日に、働いていない方のためのプログラム(ASDショートケア 未就労者①)は平日にやっています。他にもテキストを使うのが難しい方のプログラム(ASDデイケア)があります。ADHDについても、働いている方向け(ADHDショートケア 就労者)と、働いていない方向け(ADHDショートケア 未就労者)とがあります。それ以外にも生活支援プログラムや就労支援プログラム、OB会や家族会などを実施しています。

イベントレポート(3)画像03

3.ASDショートケア・プログラムの対象者とは

ある程度,言語的な能力(言語性IQ)の高い人がASDショートケアのプログラムの対象です。[中村さんのお話](https://note.com/miraie2017/n/n3782013663f4#XK2OU)にもありましたが、検査では言語能力と動作能力みたいなものを別々に測ります。ASD傾向のある方には言語性の高い方が多く、そうした方に焦点をあてて知的な理解を促進していこうというのが,このプログラムです。

イベントレポート3_スライド画像02

さらに集団療法では、10人から15人くらいの輪の中に3時間入っていられるか、というのも基準になっています。スライドの横軸が自閉度を示していて、このプログラムに適応的に参加できるかが尺度になります。縦軸には言語的かつ知的に理解できるかという尺度を取ると、右上、緑色の領域が対象者になります。

参加者の多くは、成人になってから診断されています。3歳児検診や小中学校の検診で、ちょっと変わった子だねと言われてきた子たちです。年齢の平均は30代前半くらい。40代以上のグループもあります。最高齢だと70歳を超えた方も通っています。

成人になってから診断された方は、それなりの対処力があって、中には大学や大学院まで出ている方もいます。不器用ながらも社会に適応してきた方々です。周囲の人に発達障害の傾向を気づかれていない人もいます。就職活動や人事異動など、生活の変化で新たな約束や責任に対処できなくなる方がいます。

自閉度は強いものの、人に関心があるというタイプの方がいらっしゃいます。しかし、関わりたいけど関われない。対人スキルが乏しい方、他人から理解されない経験をしてきた方や、他人と感覚が違いすぎて人が感じていることが分からない方は、結果的に孤立する経験をしています。


4.ASDプログラム参加者の声/困りごと

プログラム参加者がどのようなことで困っているのか。ディスカッションの中でよく出てくる話をご紹介します。

画像3

<コミュニケーション>
1対1なら大丈夫でも相手が3人以上になると処理が追いつかなくなり、どうしたら良いのか分からなくなる。突然の質問に頭が真っ白になるといったことがよく言われます。コミュニケーションについて上手に適応している方は、事前にシミュレーションを行い、問答集をたくさん用意しています。選択肢を用意してその中から答えるということができている方が結構いらっしゃいます。知的水準が高ければ、このような対応が可能です。

状況認知、いわゆる空気を読むことが苦手であるという理解を多くの方がしています。何とか対応できても、実際にはとても疲れると言います。状況対応に関するある種のデータベースを蓄えていて、定型発達の人よりは、とても頭の中が忙しいわけです。

<注意・関心>
熱中するとやめられない。「過集中」になってしまうという傾向があります。この過集中傾向は、ASDの方、ADHDの方ともに持っています。ADHD傾向の強い方は頭の切り替えが苦手で、考え始めるとそこから抜け出せないということがあります。

<実行機能・マルチタスク>
同時処理が苦手です。2つ以上のことを同時に処理できない。したがって、電話しながらメモをとるといったことができないわけです。時間感覚も弱いので、計画を立てることが難しく、立てた計画を実行することも難しいのです。

<生活面>
こだわりが強くて物を捨てられない結果、片付けができない人、収集癖があり、どんどん物が増えて自宅がゴミ屋敷になってしまうタイプの人がいます。そうした習慣はなかなか変えられません。その他にも、体の感覚になかなか気づけないため、具合が悪いことを周りから指摘されてはじめて気づくということも。【後編に続く】

《編集:松田壮一郎》


講演者プロフィール

>>>横井英樹氏
昭和大学発達障害医療研究所、昭和大学附属烏山病院に勤務。臨床心理士。
※連載第4回は、臨床心理士、横井英樹氏による講演の後半です。



>>>NPO法人子どもの未来を紡ぐ会
https://tsumugu2017.jimdo.dom
https: //www.facebook.com/tsumugu2017/
>>>学習教室ミライエ
https://miraie2017.wixsite.com/home

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?