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DX推進の要: ビジネスアナリスト

■ビジネスアナリストとは?
 ビジネスアナリストは、海外では良く知られた職業で世界中に100万人ほどの従事者がいると言われています。日本ではまだメジャーではないのですが、今後重要性が増すものと思われます。
ビジネスアナリストの仕事は非常に多岐にわたり、一言で言い表すことはできません。BABOKというビジネスアナリシスの知識体系ガイドの中でもビジネスアナリストの定義は広範にわたっています。個人的にはビジネスアナリストのコアの役割というのは、戦略を実行するための支援をするということです。その中でも近年重要性を増している、ITツールを導入するための「ビジネス要求の整理」と「業務プロセスの可視化」が中心の仕事であると思います。
 
■ビジネスアナリストがなぜ必要か?
 ビジネスアナリストは、システム導入の失敗によって生まれました。1995年の調査(Process Visionary. P28)によると、システム導入のうち成功しているのは全体の2割ほどでした。更にシステム導入の失敗を紐解いていくと、大部分が「ビジネス側からの情報の不足」、「要求や仕様が不完全」、「要求や仕様の変化」といったビジネスの要求にかかわるものでした。このことからビジネスからの要求を明確にするということを中核として2000年初頭に生まれたのがビジネスアナリストという考え方でした。
 更に、同書(Process Visionary)では、「機械と人のプロセスの混在」、「顧客接点のマルチチャネル化」、「End to Endのプロセス変革の必要性」などによって、会社のビジネスプロセスが見えにくくなっていると指摘しています。つまり、業務の担当者がビジネスプロセスを把握して、可視化することが難しくなってきているということです。結果として、ビジネスアナリストが専門職として、「ビジネス要求の整理」と「業務プロセスの可視化」をすることへの潜在的なニーズが高まり続けるということです。
 
■ビジネスアナリストの種類
 ビジネスアナリストのコアスキルは、「ビジネス要求の整理」と「業務プロセスの可視化」である一方で、その仕事は多岐にわたります。ここからは、同書(Process Visionary)において紹介されているビジネスアナリストの種類を理解することで、全体像のイメージをつかみたいと思います。
 
①ビジネス・システム・アナリスト
多くはIT部門に所属して、システム導入において、ビジネスの要求を把握・整理することが主な役割です。
 
②ファンクショナル・ビジネスアナリスト
特定の業務機能に特化したビジネスアナリストです。ビジネス・システム・アナリストがシステム導入を対象としているのに対して、ファンクショナル・ビジネスアナリストはアウトソーシングや役割の見直し等、システム導入以外にも多岐にわたります。
 
③プロダクト・アナリスト
近年、オンラインのデジタルサービスが多く生まれてきています。プロダクト・アナリストはこうしたデジタルサービスのビジネスモデルを理解して、ビジネス部門と共にサービスの改善・設計していくことが主な役割となります。
 
④エンタープライズ・ビジネスアナリスト
部門横断的な課題に対応するために企業にはCoE(Center of Excellence)のような部門横断的な組織が作られることがあります。エンタープライズ・ビジネスアナリストはそのような組織にて、部門横断的な課題に対応していく役割を担います。
 
⑤ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトはビジネスプロセスの構造管理をします。経営者の直下で、全社の視点から複数の取り組みを重複や矛盾が起こらないように包括的に管理することが目的です。
 
⑥ビジネス・インテリジェンス・アナリスト
元々はBI(ビジネス・インテリジェンス)を中心としたデータ分析を行うのが主な役割でしたが近年では、データ分析の重要性が増すにつれて、その領域も広がりつつあります。またビジネスアナリストは多かれ少なかれデータ分析を行うことから、ビジネス・インテリジェンス・アナリストとの仕事の切り分けは
 
⑦ハイブリット・ビジネスアナリスト
基本的にビジネスアナリストはソリューションには従事しません。しかし、RPAなどの非エンジニアでも提供できるソリューションが出てきています。結果として、ビジネスアナリシスだけでなく、ソリューション提供まで一貫して行うハイブリット・ビジネスアナリストが生まれてきています。
 
■日本に浸透していない理由
 ビジネスアナリストは社内に育成することが好ましいです。ビジネスアナリストを外注してしまうと、業界知識や横断的な社内業務の知識、業務の可視化のスキルが社内にたまりません。そうするとDXや業務変革の度に外注することが必要になり、コスト面や効率面でも会社に負担がかかります。では、ビジネスアナリストを内製すればよいのかというと、日本では簡単にはいかないと思います。理由は、2022年9月時点で日本では、IT機能は外部のSIerが担っているケースが多いからです。海外の多くの企業では、IT機能は会社で内製されています。つまり、日本においてはまずIT機能の内製化を進める必要がるのです。IT機能が内製されることによって、次の壁にぶつかります。それがビジネスアナリストの不在です。その段階になってはじめて、ビジネスアナリストを内製しようという話になるでしょう。このように日本においてビジネスアナリストを育成しようという機運が高まるのは数年先なのかもしれません。
 
 以上のように、DXを成功させるためには、ビジネスアナリストの役割が重要です。ビジネスアナリストの主要スキルは、ビジネス要求の整理とビジネスプロセスの可視化です。IT機能の内製化を進めつつ、ビジネスアナリストを育成していくことがデジタル化を成功させるためのカギとなると思います。また個人としても世界で100万人がいると言われている新しい職種を目指すことは悪くないのではないかと思います。
 
(第77回 2022/9/10)
 
<参考文献>
(2015). BABOK v3. IIBA.
山本政樹, 大井悠. (2019). Process Visionary. プレジデント社.

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