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認知バイアスの回避術

■認知バイアスとは?
 我々は自分が見ている事、感じていることが正しいと思いがちです。しかし、人は正しく物事を認知することはできません。下の画像は何だと思いますか?

 多くの人は「空の写真」だと感じると思います。しかし、これはリヒターという画家が描いた油絵です。近くで見ると灰色の絵の具で無造作で塗られた絵にしか見えません。しかし、数歩離れると、「空の写真」にしか見えないのです。人間の認知というのは、物事を自動的にカテゴライズして、枠にはめてしまいます。そのため、人が見るモノにはバイアス(偏り)が入ります。そして、これは、見るだけでなくあらゆる認知活動に当てはまる事なのです。この認知に関するバイアスは認知バイアスと呼ばれています。
 
 認知バイアスは日常的に起こっており、当然仕事においても発生しています。特に上司と部下、現場と管理部門、営業と製造部門等、立場や環境が異なる人同士はこの認知バイアスが互いに大きくなり、コミュニケーションに支障をきたすことになりがちです。今回は、まず認知バイアスにはどのような種類があるのかを把握して、その上で、どのような対処ができるのかを考えていきたいと思います。

■7つの認知バイアス
 まず、参考文献で紹介されている7種類の認知バイアスについてご紹介します。認知バイアスの種類を知ることで、自分が認知バイアスに陥っていることやそれに対する対処法を考えるきっかけなると思います。
 
①確証バイアス
 確証バイアスとは、自分が立てている仮説が正しいという確証を強く持っているとそれに関連する情報が目に入るようになるというものです。妊娠すると妊婦が目につくようになるというのも確証バイアスに近しいです。
 
②ネガティビティーバイアス
 とかくに人はネガティブな情報に興味を持ちがちです。人間が自然界で生きていた時には、危険に満ち溢れていました。そのため、将来を不安に感じることや、危険を予測することは遺伝子に組み込まれているのです。しかし、現在、日本に住んでいると命の危険にさらされるようなことは、ほぼ起きません。ですから、不安や恐れを必要以上に強く感じるのは、ネガティビティーバイアスに陥っていると考えて良いと思います。
 
③同調バイアス
 同調バイアスとは、大多数の意見を優先して、自分の意見を抑え込むことです。日本人は、とかく同調バイアスの影響を受けやすいと言われています。同調バイアスも、人間が部族単位で生きていた過去の名残だと思います。部族単位で生きていた時には、部族から追い出されることは死を意味していました。そのため、集団の大多数の意見を優先する同調バイアスも遺伝子レベルで備わっているものです。しかし、現代は一人になっても生きていける時代です。同調バイアスによって、自分の判断をゆがめないようにしたいものです。
 
④ハロー効果
 偉い人や有名な人の意見を自分の意見より正しいのではないかと思ってしまうことです。組織の中の偉い人や専門家が発している言葉を鵜呑みにしてしまう自分がいないか気を付けたいものです。
 
⑤生存者バイアス
 成功者や勝者の言葉は世の中に語り継がれることが多いです。しかし、敗者や失敗者は多くを語りませんし、他人も耳を貸しません。ですから、我々の周りには成功者や勝者の言葉が溢れているのです。成功者や勝者の言葉だけでは、物事の一面しかとらえていない場合があり、それが生存者バイアスにつながります。
 
⑥根本的な帰属の誤り
 何か物事が起こった時にその原因の帰属を誤ることです。子供が公共の場で騒ぐのを叱るなんてことがあるかもしれません。しかし、子供がその時になぜ、公共の場で大きな声を出したのか確認してみると、誰かが倒れたのを見たからなのかもしれません。このように、マナー違反をしていたと思いこんで、叱ってしまうことが根本的な帰属を誤るということです。
 
⑦後知恵バイアス・正常性バイアス
 物事が起こってから、それは予測可能だったと思うことです。投資をする人は痛いほど感じるのではないでしょうか。株が上がるか下がるかは、極論誰にも分かりません。しかし、過去の株価を見るとこういう理由で株価が推移したと説明ができてしまいます。そして、あの時に戻れれば、予測できたはずだなんて思ってしまいます。これが後知恵バイアスです。
 
■認知バイアスの回避報
 このように認知バイアスというのは、我々の日常にあふれています。認知バイアス無しに正しく物事を認知できるというのは不可能です。では、どうすれば認知バイアスを小さくして少しでも正しく物事を認識できるようになるのでしょうか?認知バイアスを回避するためには、3つのポイントがあります。
 
①無知の知
 これは、ソクラテスの言葉としてあまりにも有名です。しかし、これが我々の認知の現実を表しています。我々は、認知バイアスというフィルターを通してしか物事を見ることはできません。誰も、正確に正しく物事を認知できないのです。このことを理解している人は、自分が正しく認知していると思う人よりも知恵があるということになります。
 
②起きていることはすべて正しい
 認知バイアスを通して、世の中を見るとこうなるはずだという誤った仮説を立ててしまいます。しかし、現実に起こったことが正しいのです。我々の認識が現実を否定したくなる時には、認知バイアスにからめとられていると判断できます。
 
③仮説⇒実行⇒検証
 最後の方法は、あえて仮説というバイアスを設定します。仮説を持つことでその仮説が正しか否かの判断ができるようになります。そして、仮説が間違っていれば、それを正せば良いのです。そうすることで、少しずつ、正しい認識に近づいていくことができるのです。自分が立てた仮説を正しいと思うのではなく、仮説のどこに修正点があるのかという姿勢でいることが、正しい認識に近づく道なのかもしれません。
 
 以上のように、私たちは、認知バイアスを通して、世界を認知しています。ですから、基本的に世界を正しく認知することはできません。そのことを認識することが、正しい認識に近づく第一歩となります。
 
(第66回 2022/7/2)
 
[参考文献]
佐渡島康平. (2021). 観察力の鍛え方. SB新書.

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