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プロセカ:「ワンダーマジカルショウタイム!」感想 そして次のショーが始まるのです

今回の『ワンダーマジカルショウタイム!』も相当な出来栄えと言っていい。安易に序列付けをするのは俗が過ぎるかもしれないが、今後のイベストは、ひとまず今回のイベストを超えられるかという域にすらあると思う。

経営を救う or すべての人を笑顔にする

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まず、スマドリの加筆について。「えむの兄達はフェニックスワンダーランドの経営責任者として合理的な判断を下していること」を強調し、サブキャラクターとはいえ、ただの悪役にはしないという配慮が細かい。同時に、司たちが成すべきことの困難さも補強されているのが、細やかな仕事ぶりだ。夢を見ることすらできなくなった鳳兄を類が煽るシーンも、同情のニュアンスに変更されている。期待されてきた"ごく稀に俺"の初披露シーンだったとはいえ、煽り具合がどうにもイキりシーンみたいに見えていたので、前述の強調部分も相まって変更後のほうがしっくりくる。(スチル抹消は流石に笑った)

そんな夢を忘れてしまった兄達はフェニランの経営者として、その他大勢の笑顔を犠牲に、若年層へ焦点を絞るという判断をする。しかし、そもそも「みんなを笑顔にする」と「フェニックスワンダーランドの収益を上げる」ことは、両立しえない問題ではないはずだ。

あのさぁ、なんで二択なの?「収益を上げてみんなを笑顔にはできない」のと「収益は諦めてみんなを笑顔にする」のふたつだけじゃないだろ。なんで「収益を上げて且つみんなを笑顔にする」が選択肢に無いんだよ。

僕の人生の聖書『鋼の錬金術師』において、アルフォンス=エルリックもこう言っている(嘘)。(ハガレンを読んだことがない人はこの機会に是非)
えむの願いはその両方を叶えることであり、そのためにワンダーランズ×ショウタイムはショーキャスト、スタッフを鼓舞し、兄達に忘れてしまった原初の感情を取り戻させることを誓う。そんな王道とも呼べる導入に、良ストーリーの波導を感じずには居られない。

望月穂波が与えたもの

問題を安易に択一化しないという、えむの良い意味で「欲張り」な姿勢は穂波に影響されたものだろう。特にフェニックスステージの面々に向けて懇願するシーンの口ぶりは、『揺れるまま、でも君は前へ』で穂波がクラスメイトに向けた演説と酷似している。

「だから、たくさんお客さんを呼ぶことも、 『みんなを笑顔にする』ことも、諦めたくないんです!」
「両方諦めないですむ方法がまだあるかもしれないなら、 最後までやりきりたいんですっ!」
― 2話「今、一番大切なもの」 鳳えむ

「でも……それでも、わたしはクラスのみんなで納得できるように、もっと真剣に話しあいたいです」
「自分とは違う意見にも耳を傾けて、 どうすればその人も納得できるのか、 もっと考えていきたいんです。」
― 『揺れるまま、でも君は前へ』7話「一歩前へ」 望月穂波

プロセカのストーリーの魅力のひとつは、キャラクター同士が相互に影響を与え合って成長することだが、その描き方の巧みさはガルパの頃から一層進化している。

物語から現実へ、弟子から師へ

劇中劇を用いて本筋のテーマを代替的に描くというのは、よくある演出手法だ。「戦争で笑顔を失った人達のために、遊園地を作る」というショーの趣旨は、鳳楽之介が掲げたフェニックス・ワンダーランドの創設理念と同じで、司の演じるマイルスはさながら楽之介のようだった。かつての楽之助のように、マイルスはアトラクションを作り上げていく。そうして、興味が失われていたアトラクション達に"物語性"という新しい価値が付加されていく。忘れてはいけないが「みんなを笑顔にする」だけでは片手落ちであり、このショーがフェニックス・ワンダーランドの収益向上に繋がるものでなくてはならない。イベントストーリー同士の正確な時系列は分かり得ないが、『純白の貴方へ、誓いの歌を』で観客を巻き込む発想に至った類の経験が活きていると考えるのは正しいだろうか。

物語がシームレスに現実を侵食していく最中、ショーは終盤を迎える。何と言ってもここが素晴らしい。魔法の主であるマイルスが死去した為、遊園地は暗闇に閉ざされる。誰もが魔法使いになれる素質があり、笑顔から魔法の力は生まれる。そう諭されたシャオは会場へ呼びかける。会場を巻き込み、渾然一体となって、笑顔の魔法を行使したシャオは涙混じりにマイルスへ語りかける。

『お師匠……あたし、できたよ……!』
『みんなを、笑顔にできる魔法、使えたよ……!』
― 7話「想いを継いで」 シャオ(鳳えむ)

言葉にするのも野暮だが、シャオからマイルスへのメッセージは、えむから楽之介へのそれに他ならない。「みんなを笑顔にする」という師の想いは、たしかに受け継がれた。お手本の様な劇中劇の用法……しかし、それだけに涙腺を刺激する力は抜群だ。

プロジェクトセカイに齎されたブレイクスルー

「では——ワンダーランズ×ショウタイム、 華麗なる第2幕のスタートだっ!!」
― 8話「未来につながるフィナーレ」天馬司

ショーは大成功、収益問題もひとまずは解消され、宣伝大使に任命されたワンダショの物語は、司のこのセリフでひとまず幕を閉じた。無論これで終わりではなく、すぐに次のショーが始まる。
レオニやニーゴの様に混合イベを経由する展開を期待していたが、司たちにさえ相談を憚ったえむが、フェニックスワンダーランドに所属するわけでもない人間にペラペラと事情を語るほうが違和感はあるので、当然の帰結というやつかもしれない。
レオニが「プロになること」を次なる目標に掲げたのに対し、ワンダショは「プロとして」第一幕を終え次のステージへ進む。他のユニットの着地点と次なる目標にも期待を持たせる、充実したストーリーだった。実質2回のイベントでこれだけ重層的なストーリーを展開する手練手管に、毎度のことながら惜しみない賛辞を贈りたい。

そしてバーチャルシンガーが現実に登場したショーの映像がSNSでバズるというプロジェクトセカイにとってのブレイクスルーを齎したこのイベストは、プロセカのストーリー全体を意識した際にも、第2幕の訪れを告げる特異点たり得るだろう。
ワンダショの面々は、他のユニットと比較すると明らかに顔が広い(混合イベにあれだけ出たのだから当たり前だが)。1時間で数百万回も再生される動画を他のキャラクター達が目にしない方が不自然であり、ついに彼らは自分たち以外のバーチャルシンガーと交流する存在に気づくのかもしれない。正直、この辺りは曖昧にぼかして続けると思っていたので今回の展開には驚いた。これを受けて最初に来るのがニーゴの箱というのが、絶妙な塩梅で不安と期待の入り混じった感情を抱かせる。
今後もプロセカから目が離せない。

余談

『純白の貴方へ、誓いの歌を!』の感想記事が思った以上に多くの方に読んでもらえたようで(これを書いている時に100pvは超えていた)、Twitterでも嬉しいコメントを貰いました。僕は自分に文才が無いと思ってるし、書きながら語彙の少なさに絶望しているけれど、好反応を貰えること自体は素直に嬉しいものですね。感想を書き始めたのは自分の思考を整理する意味合いが強いのですが、読んでいただいた方には本当に感謝しています。
それから、敬体だと何かを説明しようという意識が強く出てしまうのが嫌で(他にも単純な書きやすさ等色々ありますが)、感想記事は常体で書こうと思います。何件か頂いてるお題箱についての記事は、敬体で書くスタイルにしようと思います。

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