プロセカ：「カーネーション・リコレクション」感想　救う覚悟と救われる覚悟

ニーゴ4つ目のキーストーリー。ひとまずの着地を見せたレオニやワンダショに倣うと思いきや、彼女たちの葛藤はまだまだ続く。奏×まふゆ、瑞希×絵名の組み合わせで語られることが多いユニットだが(断っておくが所謂CPの話ではない)、今回はニーゴ一章の渦中にいる瑞希と、そのニーゴのリーダーともいえる奏が中心となって織りなす物語だ。

ニーゴルカ ～宵崎奏の教導的存在～

誰もいないセカイのバーチャルシンガーたちは、他のそれと比べてキャラクターたちの性格や成長の段階が覿面に反映されているように思う。例えばニーゴの抱える問題には踏み込まず一歩身を引くMEIKOと、積極的に関与する意志を持ち、停滞を破壊して歩みを進めるための助言を施すルカ。この2人はさながら、ニーゴという枠組みから外れる自分を意識して俯瞰的な視座に居る今の瑞希と、他人の人生に首を突っ込む覚悟を持ち、まふゆを救うというエゴを突き通す奏のようだ。絵名が感じたまふゆの変化の兆しとは、まふゆの世界にニーゴの面々が確かな存在として定着し始めたことの現れか。

「まふゆを救う歌を作る」、言うは簡単だが奏自身もその救済の形を見つけられていないのはニーゴルカも指摘するところだ。白石謙や東雲父がそうしてきたように、若者を導くのはバーチャルシンガーだけの役割ではなく、大人の役割でもある。奏の抱える問題を指摘し解法を示すニーゴルカの姿も、本来なら音楽家として先輩である父親のものだったはずだが、それは叶わない。
さらに言えば、"25時、ナイトコードで。"というサークルは天才クリエイターの奏を意思決定機としたトップダウンに近い構造で成り立っている。絵名と瑞希は奏の書いた曲に感想を求められることがあれど概ね肯定的なものに限定されるし、まふゆは語るための適切な言葉を持ち合わせていない。本編の文脈とは異なるが、これもまたニーゴルカの示した「停滞を揺さぶり、壊すこと」が必要なケースといって良いと思う。彼女の積極的な関与がニーゴの空気をどう変えていくのか、目が離せない。

暁山瑞希の葛藤

瑞希『うん……。 ボク達にも、覚悟がいるのかもしれないね』
絵名『覚悟……？』
瑞希『そ。前に、Kが雪に見せたみたいにさ』
　　『絶対助ける。見捨てないっていう、そういう覚悟』
絵名『…………』
瑞希『人の一生に首を突っ込むって、 きっとそういうことなんじゃないかな』
―「マリオネットドレス　東雲絵名」サイドストーリー後編

暁山瑞希は、他人の人生に関わることの重みをよく理解している。それはきっと、瑞希自身が興味本位の質問や心無い言葉を受けながら育ってきたことの現れなのだろう。だからこそ、奏が答えたくないことを聞いてしまったのではないかと気にするし、モノローグに表れることはあっても余計なことは尋ねない。そんな瑞希だからこそ、雨の中自傷的に佇む奏の姿を見て逡巡したのだと思う。ニーゴのメンバーに向けた欺瞞からくる自責に駆られ、自分が彼女たちに関わる資格があるのかと自らに問う。それでも強引にその手を引き、一緒に解決の道を探ろうとする瑞希の善性に目頭が熱くなる。

瑞希の勇気ある踏み込みによって奏は自らの原風景にたどり着く。尊敬する父との記憶を辿る中、父の想いとまふゆに提示する救いの形が重なり、まふゆの笑顔は再生された。母親の笑顔を原点に作り上げた曲で、母親に壊されたまふゆを救うという何とも言えない因果に天を仰ぎたくなるが、かくしてまふゆはここから少しずつ、"再生"を遂げるのだろう。

まふゆの笑顔を取り戻した後、瑞希が世界を広げてくれたと感謝する。その一方で、奏の姿にまたしても瑞希は救われていた。自分や世界を俯瞰し、相手の心中を慮りながら慎重な関わりを選べる瑞希は年齢不相応に成熟している。しかしそれは、今回のように偶には強引に手を引く勇気、そして瑞希の場合は手を引かれる勇気が必要なのだと語りかけたくなる不器用さの裏返しでもある。
瑞希自身がかつて絵名に説いた"覚悟"こそ、瑞希の壁を破る鍵に他ならないのだろう。傷つけることも厭わない勇気ある踏み込みは、瑞希のことをずっと気にかける少女にも、瑞希自身の両方にも求められている。差し伸べられた手を握るには、手を伸ばし返さなくてはいけないからだ。"大事な友達"が差し伸べるその手を取れるその日が、そう遠くないうちに訪れることを願ってやまない。

迷える手を引いて

誰しも、誰かを覗くことは怖い。レオニのメインストーリーが顕著だったように、傷つけるのも、傷つけられることも誰だって避けたい。されど瑞希がそうしたように、慎重に距離を測り、勇気を振り絞って踏み込むことで、人は世界を拡張していく。その覚悟と決断が何より尊いものなのだと、そうColorful Paleteが読者に語りかけているような気分だった。救われるものにとっても、同様にだ。
かなり初期のデータなので現在は定かではないが、プロジェクトセカイはアクティブユーザーの6割を10代が占めている。複雑な他者との関わり合いの最中に身を置く彼らにこそ、プロセカの物語は相応しい。そんな彼らの背中を押そうという『カーネーション・リコレクション』に込められた思いが、1人でも多くに届くことを祈るばかりだ。

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最初の頃に頂いた分については近日中に投稿できると思います。