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ピガール狂騒曲をこれからご覧になる方へ

9月25日、奇しくもこの作品の大劇場初日と同じ日に、宝塚歌劇月組公演『WELCOME TO TAKARAZUKA/ピガール狂騒曲』がBSプレミアムで放送されます。

わたしは『ピガール狂騒曲』という作品が本当に大好きで、思い入れも沢山あり、もしまだ見たことがないという方にとっては、このとびきり素敵な作品と出会うまたとないチャンス!だと思うので、宝塚を普段ご覧にならない方にも入り口になれば…という思いで、この文章を書きました。

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公式ホームページより、公演のポスター。大人っぽくて不思議な色気と何かが始まりそうな予感に満ちたこのポスターが大好きで…!B2サイズのポスターを自宅に貼ってます。

物語のあらすじ

舞台は1900年、万博を目前に控えたベルエポックのパリ。ムーラン・ルージュの支配人、シャルル・ジドレールは、下火になっているムーラン・ルージュに客を呼び戻そうと、当時のベストセラー小説『クロディーヌ』のモデルとされている作家夫人・ガブリエルを舞台に立たせようと画策していた。そこにジャックと名乗る中性的な美青年が現れ、ここで働きたいと申し出る。実は彼の正体はジャンヌという女性で…。

コメディなんです

芝居巧者が揃った月組さんによる、軽やかで楽しいコメディ。
シェイクスピアの喜劇『十二夜』を下敷きに、宝塚らしい美しさと上品さをベースにしつつ、個性豊かな登場人物たちが、ムーラン・ルージュを上へ下への大騒ぎ!
その愉快な様子を見ているだけで、目も心も幸せいっぱい、口角がぐぐっと上がってしまう作品なのです。

白泉社のまんがみたいな絵柄とストーリー

パリの劇場という舞台や登場人物の造形、正体を隠した男装の女の子、秘めた恋…初めてこの作品を見たときの印象は「花とゆめの漫画だ!」でした。
わたしは中学生くらいの頃熱心に花とゆめを読んでいたので、ピガールのこの設定や物語がますます好みのストライクに嵌った気がします。(花ゆめ関係ないですが、もし本作を漫画化するのなら、入江亜季先生の絵柄で見てみたいです…!)

チャーミングで愛おしい登場人物

ジャック(ジャンヌ)/珠城りょうさん
ジャンヌさんのことが大好きすぎて、「ジャンヌさん大好き」という題名のnoteを書いているくらい。わたしの憧れの人、ジャンヌさん。

いつも前向きに人生の舵を取って進む姿が眩しい!
思い切りがよすぎて時々心配なところも可愛らしい!
個性的すぎる登場人物に翻弄されつつ、自分を見失わない主人公の風格!

ジャンヌさんの魅力は、どれだけ語っても枚挙にいとまないのですが、これからご覧になる方のために一つピックアップするならば、「男装してる女の子」の塩梅が、これまで見たどんな物語の登場人物とも違う絶妙なバランスで、ぜひそこに着目して頂きたいなと思います。

いわゆる「男性らしさ/女性らしさ」を分かりやすく伝えようとするような感じではなく、設定は突飛なのにとても風通しのいい自然な人物像。演じる珠城りょうさん(大好きです!!!!!)の培ってきた男役としての見せ方や包容力、ご本人がお持ちのきゅるっとしたキュートさ、モフモフの大型犬的かわいらしさ(?)が存分に発揮されています。

わたしは映画『フランシス・ハ』のグレタ・カーヴィグの「背が高くて割とがっしりして手足の長い女の人が、いっぱい動いたり踊ったりしている様子」が視覚的に凄く好きなんですが、ジャンヌさんのお姿を見ているときも、同じ種類の幸せを目で味わっている感じがします。

あと、宝塚の男役さん(しかもトップさん!)が「男装の麗人」を演じることって実は殆どなくて。『ベルばら』のオスカル様のイメージが強いと意外に思われるかも知れませんが、そういう意味では、宝塚としては少し珍しい構造の舞台になっています。


ガブリエル/美園さくらさん
実在の作家、ガブリエル・コレット。「知性と情熱とエレガントさを兼ね備え、自ら道を拓く強い女性」像が、演じる美園さくらさんの個性や魅力とマッチしていて本当に素敵!後述しますが、お衣装の着こなしがいずれも華麗で美しくて堪りません!


シャルル/月城かなとさん
ムーラン・ルージュの支配人。美しい人たちで構成されているタカラジェンヌの中でも、とりわけ際立った美貌が誰をも虜にする月城さんの「美貌を上回る愛嬌」が存分に発揮された、愛すべきおじさま。熱き夢追い人なのですが、しばしば暴走したり癇癪起こしたりするのを、周囲の人たちは「またか…」と呆れつつも何やかやで慕っている感じがとても好きです。

他にもムーランルージュの仲間たち(画家のロートレック氏、写真に似すぎ!)、ガブリエルに執心する元夫・ウィリー、ジャンヌさんをつけ狙うごろつき一派など、個性豊かな登場人物が数多く登場し、隅から隅まで見逃せません!

妄想を掻き立てる何か

ピガール狂騒曲、色々なサイドストーリーや登場人物たちの会話、皆の人となりなどを想像してしまう物語なんですよね…!
ムーラン・ルージュに来る前のジャンヌさんは下町でどんな風に暮らしてたんだろうとか、踊り子さんたちは普段どんなことお話ししてるんだろうとか、あのカップルたちの今後とか、舞台上で描かれていないことをあれこれと妄想してしまうエンジンが止まらないのが不思議!
公演中(そして公演後、現在も!)はTwitterでたくさんの人たちが色々なピガール妄想を呟かれていて、それを読むのもとても楽しかったし、そういう風に想像力を刺激する魅力がある作品なんだと思います。

「自分で決める」女性たちの物語

プロローグに登場人物たちが歌う主題歌で、美園さくらさん演じるガブリエルはこう歌います。

「私の人生 自分で選び 人生という名の舞台 自分で決めるのよ 今」

本作の冒頭で、彼女の才能を搾取してきた夫に結婚指輪を突き返したガブリエルが、これからは自らの才を自らのために使おうと決意し、晴々とした表情で歌うこの下りがわたしは大好きです。
そして我らが主人公・ジャンヌさんもまた、自ら選んだムーラン・ルージュという場所に飛び込み、そこで自らの道を見つけていきます。彼女の生き方には、ガブリエルが書いた小説を読んで感銘を受けたことも大きく影響しているであろうことも、何だか凄くいいなあと思います。
彼女たちと深く関わり、言葉を交わしていくうちに、男性であるシャルルもまた「新しい世紀を迎え、人間がどう生きるべきか」について、考えを更新していく描写があるのも胸が熱くなります。

この作品は、20世紀という新しい時代の幕開けを目前に、自分で生き方を選んで道を切り拓いていこうとする女性たちを描き、その強さと前向きさを性別関係なく心から肯定する物語。
そんな風に自分の生き方をもエンパワーメントしてくれるような強く優しい物語に、大好きな宝塚の大好きな月組さんで出会えたことが、わたしにとっては本当に特別です。

お衣装が素敵!!!

宝塚を代表する衣装デザイナー・有村淳先生による今回のお衣装、どれも本当〜〜〜〜に素敵!!!ここでは主演コンビのポスターお衣装について語りたいと思います。

主人公・ジャンヌさんのお衣装は、プラム色の丈長めジャケット(先生のこだわり)と同色ベストに黒のリボンタイという組合せが何とも絶妙!そして中にお召しのシャツのお袖の仕様がとても素敵なので、ぜひ物語の後半にチェックしてみて下さい。ジャンヌさんの「男装した女の子」の佇まいをより魅力的に表現している、凄いお衣装だと思います。

ガブリエルさんのストライプ柄のワンピースも、よくよく見ると襟がウイングカラーなのがマニッシュでツボです。どのお衣装も美園さくらさんが腰の高い抜群のスタイルで美しく華麗に着こなしており、演出家の原田先生も衣装合わせの際「私の思い描いたガブリエル・コレットそのものだ!」と感激されたそうですよ!

他にもシャルルおじさんの原色だらけのど派手な上着とか、踊り子の方々が舞台本番でお召しのストライプのドレスとか(お稽古着もとてもかわいい)、女姿のジャンヌさんが着ていたアイスブルーのワンピースとか(一瞬珠城さんがお召しの場面があるので、ゆめゆめお見逃しなく)、何度見てもうっとりしてしまう素晴らしいお衣装が次々登場します。

フィナーレを見て!

宝塚の公演のラストには、フィナーレと呼ばれる場面があり、宝塚ならではの男役芸・娘役芸を存分に発揮した煌びやかな歌とダンスが繰り広げられます。
本作のフィナーレナンバーでは、何と言っても「黒燕尾での男役群舞」がポイントで!

宝塚の様式美が結集した、荘厳で力強く、とても美しい場面。月組のトップスターとして今作で7作目の大劇場主演を務める珠城りょうさんの、男役スイッチ入りまくりのエネルギッシュで包容力溢れる、「真ん中に立つ人」としての揺るぎないお姿を、どうか目に焼きつけて下さい!

さあ、今すぐ録画を!(おわりに)

宝塚歌劇の舞台をテレビで見られる機会はあまり多くありません。同時に上演されている『WELCOME TO TAKARAZUKA』も必見、世にも煌びやかでまさに浮世を忘れる、傑作和物ショーになっています。この楽しくて輝きに満ちた作品に、ぜひ出会って頂けたら嬉しいです!

宝塚歌劇 月組公演『WELCOME TO TAKARAZUKA/ピガール狂騒曲』
2021年9月26日 0:40〜3:20/BSプレミアムにて放送


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