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せいかつの軌跡(29)

起床して平日の朝の支度。トモシの着替え、持ち物の用意、朝ごはんを食べる。トモシは何度もおっぱいを飲みたがったり、遊び出したり。いつも通り、準備はなかなか進まない。

「カカはお仕事に行くから、トモシも協力して。お願い。」

お願いする作戦に出てみたら、意外とあっさり出かけることが出来た。有り難いけど、ちょっと寂しい。

トモシを保育園に預けて、パート先の作業所へ出勤。職員さんに挨拶すると、ビニール性の割烹着を手渡される。お菓子作りをする予定が、あんぽ柿の作業に変更になったらしい。着替えて、工場ラインに加わった。

機械や手で剥かれた柿を皮やごみがついていないか確認して、隣の利用者さんと呼ばれている人に手渡す。彼は乾燥させるための網の上に、ちょうど良い間隔で丁寧に柿を並べていく。時々みんなでおしゃべりしながら、9時から15時まで働いた。

本来なら一人で済む作業も、ここでは二人もしくは三人で行う。同じことを何度も質問する人、あまり手を動かさずアニメの話ばかりしている人、途中で泣き出す人、泣いている人の話を聞く人がいる。たぶん私もあなたも、それぞれ面倒くさい。一緒に働く人が多いぶん、「お願い」と「ありがとう」の言葉の数も多い。

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今の職場をちょっと面白いな、と感じ始めている。分かりやすい成果みたいなものを最優先にしない。そんな存在は、何というか、可愛い。子どもたちにこの場所を見せられたらいいな。

仕事を終え保育園にお迎えに行くと、お友達と遊ぶトモシがいた。朝とは違う服を着ている。先生に訊ねると、トイレに間に合わなかったそう。家でおもらしすることはほぼ無いので、少し驚いた。

新しい環境を楽しみながらも、不安や寂しさ、色んなものを味わっているのかもしれない。駆け寄って来た彼を抱っこして、「いつもありがとう。」と言った。


駆け寄る子胸に抱き寄せ茜色

染めし光の一粒となる


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