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どこまでも高潔だったあなたに  Hotline Miami考察

前置きが思いつかないのでいきなり本題に入るが、今回は私が大好きなゲーム「Hotline Miami」シリーズで感じたある一つの違和感について考察していきたいと思う。がっつりネタバレを含むうえ、あのややこしいストーリーをかなり理解していないとわからない内容になっているのでご注意を。


まず違和感のある部分とは、ビアードのこのセリフである。

マスクをかぶった連中がロシア人を殺しまくってる 
そこまでいっちまうと映画かナニかだよ マジでサイコーだよなっ

1でVHSショップ屋のビアードがジャケットに話しかけてくるシーンだが、かなり血の気の荒い発言をするので記憶に残った場面である。
まず前提としてビアードとは、主人公ジャケットと米ソハワイ戦争(1985年)を共に戦ったかつての戦友であり、ソ連によるサンフランシスコ核攻撃(1986年)で死亡した人物だ。つまり物語開始時の1989年にはビアードはすでに死亡しており、1で登場したビアードは全て昏睡状態のジャケットが作り出した夢の中の人物だ。
また、ジャケットの夢の中でビアードは合計4人登場するが、その中で先ほどのVHSショップ屋のビアードだけがロシア人への憎悪を滲ませた過激な発言をする。

左からコンビニ店員、ピザ屋、VHSショップ、バーテンのビアード

ビアードの多面性を表現したという可能性もあるが、私たちプレイヤーが知る限り、彼はそんな人間ではなかったはずだ。
2(過去編)で登場したビアードは優しい人物であった。
少数精鋭のエリート軍人であるのにもかかわらず、殺しを好まない優しい男。だから、2をプレイした上で先述のセリフを見るとかなり違和感を覚える。彼はロシア人を憎んだり、殺人を楽しむような人物ではないのだ。それは、ビアードを間近で見ていたジャケットも知っているはずで、彼がビアードの人間性を見誤るとは到底思えない。
では、どうしてジャケットの夢に出てきたビアードはあのような言葉を投げかけたのだろう。

ジャケットの精神状態

これはおまえが望んだことではない これぽっちもな…
もっと別の形で再会したかった

2を一周クリアしたうえで二周目を始めるとリチャード(ジャケット?)がビアードに対して上記のセリフを吐露する貴重なシーンがある。
このセリフからわかるように、ロシアへの復讐をビアードが望んでいないことをジャケットは分かっていたのだ。わかっていながら殺戮を尽くすジャケットの気持ちなんてとてもじゃないが考えたくない。どれほどビアードを殺したロシアを憎んでいたか。
そんな精神状態の中、意識不明に陥ったジャケットの夢にもう会えない戦友が現れる。
”ジャケットの夢”というのがあのビアードらしくないセリフを紐解くカギである。夢の中ということは、本人の人格を無視して自分に都合のいい言葉をしゃべらせることができるだろう。そう、それが答えだ。

つまり、ジャケットは昏睡状態の最中、ロシア人への憎悪と殺人を肯定してくれる言葉をビアードに言ってほしかったのではないだろうか。

どこまでも高潔だったビアードがジャケットの血に塗れた行為を肯定してくれる。それこそが、あの時のジャケットにとって最大限の自己肯定であり、心の傷を癒すセラピーだったのかもしれない。

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