娘よ、母を越えていけ。
ここ数ヶ月、毎日欠かさず外郎売という、滑舌の練習をしている。
門前の小僧とはよく言ったもので、ずっと原稿を音読していた私を尻目に娘達の方が先にあっという間にそらんじてしまった。
二人で芝居がかった身振りまでつけて、ゲラゲラ笑いながら暗唱しあったりしている。
子どもにとってはこんなことも遊びなのだな。
私もようやくなんとか暗記して言えるようになり、
近頃はより速く正確に言えるようにと、時間を測ってやるようになった。
そして測ってみたら…
長女先生の方があっという間に速く言えるようになった。
子どもに抜かされるというのがこんなに嬉しいことだとは知らなかった。
赤ちゃんの頃、何もできなかったときからずっと育ててきたこの子が、
少しずつ私を越えようとしている。
少しずつ大人になって、羽ばたこうとしている。
こんな好き勝手生きてる親だけど、
私も何とか少しは親としての務めを全うできているのかな。
喜びと共に安堵にも似た気持ちを伝えたけれど、長女はきょとんとしていた。
どんなに努力しても、子どもの成長のスピードの速さには敵わない。
だからね、お母さんも一生懸命努力してるけど、あなたが今のうちにたくさん努力したらもっともっとたくさんお母さんを越えられるようになるよ。
だからあなたも頑張れ。
私がそう言うと、
長女はトランペットの重いケースをよっこらよっこら運んできて練習を始めた。
私が未だにマウスピースで苦戦しているトランペットを颯爽と吹く彼女は、どこか誇らしげだった。
あなた達にとって乗り越え甲斐のあるお母さんになりたいから、さあ私もまた頑張ろう。
…敵う気がしないけど。笑