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動物好きなあのひとのこと

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動物に触れることに慣れている人は、女に触れることにも慣れている。
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2019年4月の記事一覧

うたかたの果て

ふらふらと生きているようで、実はたしかな意思をもっている。水のなか、うまれる。水面で、はじける。 第四夜 最後の夜はきっと仕事仲間と打ち上げだろうし、それでなくても荒天の中の仕事は身体に響いたろうから、今夜はわたしのことなど忘れているに違いないと高を括っていたし別にそれでよかったのだけれど、宴もたけなわという時間帯に誘いのメッセージが舞い込んできたので驚いた。 複数人で酒席を共にしたときに、あのひとが携帯電話を操作する姿はおろか、画面に目を落とす姿さえも一度も見たことは

その鼓動を忽せに

この夜の底に縫い留められて、あのひととふたり溺れたとしたら、先に息が続かなくなるのは、きっとわたしだ。 第三夜 明け方からまた降りだした雨は、夜のさなかのわたしの吐息や寝台の軋みまでもその低層に隠して穏やかだった。濡れた下草を踏みしだき、水滴をたっぷりと纏って咲き誇るハイビスカスの脇を抜けて、朝靄の町であのひとはわたしの手を引かない。半歩前を歩くあのひとのシャツに、雨粒が幾何学模様を縫い込んでゆく。町中がのびやかな湿度に包まれて、ちいさな交差点はすこし滲んでいた。 別れ

父性の砂糖漬け

くちのなかで転がす、昏い欲望。わたしには、甘い。 第二夜つまみ食いは一口目が一番美味しいから、ほんとうはもうあれきりでもいいかなと思っていたのだった。恋愛をしたいなら後朝に連絡をしたほうの負けだとわかっているし、勝ち負けでしか恋愛を測れないわたしは所詮、勝ち負けのある恋愛しかしたことのない女だ。けれど、今わたしたちの間にあるのは、恋でも愛でもない。 軽くジャブを打ってみたら気の利いた返しをされた挙句、「天候不良のせいで、仕事は明後日に延期になったよ」と追い打ってくるあのひ