本棚

主に図書館で借りた本の感想。以前は本棚に読んだ本を詰め込むのが好きだったが、読み返す頻度の低さと本棚に入りきらない量になった事から、本は購入しないで図書館で借りようと決意。読み返したいと強く思った本だけ購入する事した。
家にある本も一度読み返して捨てるという断捨離を実行中。思い入れの強い本を捨るのは苦行だ。
アウトプットした方が頭に入る気がするので、あくまで自分用。増えてきたら整理するかもしれない。読書は雑食。



スティーブン・ピンカー

人はどこまで合理的か(上)

1章「モンティ・ホール問題」は、メギドのカジノイベントを思い出した。条件が追加された方が単一の条件より確率が高いと判断する連言錯誤は面白いな。思い込みから生じるのかな。
2章「自分は正しいと確信していて、相手を説得する必要もないと思っている人は、自分の信念を力ずくで周囲に押しつける」という記載。コロナ禍で沢山みたな。
3章 非形式的誤謬は論点のすり替えみたいな事かな。感情が表にくるから、理由を説明できない。耳が痛い話だ。
4章 確率と恐怖が比例しないのは面白い現象。交通事故死が年間3千弱、熊に殺されるのが数人でも、街中に行くより山に行く時の方が怖い。けれど条件付き確率を考えれば、確率は上がるのか。
5章 ベイズ推論が難しくて理解できない。数学は苦手だが重要な考え方なんだよな。データを正しく読めるようになると、ものの捉え方も変わりそうだな。
やや難しいけれど、興味深い本だった。下巻を読んでからもう一度読み直すと印象が変わりそうだ。

人はどこまで合理的か(下)

6章 確率が複雑化していくのは利益と損失を判断するのが人であるという事か。出た数字をどう捉えるかは状況や個人で差が出てくるので、合理的選択が優先的に選ばれる訳では無い。
7章 集めたデータから「信号」と「ノイズ」をどう見分けるのかという考え方に確実はない。どれぐらいのノイズを許容し、信号を無視できるか。冤罪での例え話がわかり易かった。
8章 ゲーム理論の中で出てきた、誰が猫に鈴をつけに行く危険を受け入れるのか、というネズミの相談で最悪な結果を選ぶ心理は理解できる。稀に自己犠牲を厭わないで行動する人の判断基準は正に合理的といえるのか?
エスカレーションゲームの、投資してきたものが惜しくてと続ければ損になるのに、損切が出来ないというのはスマホゲームや読書で度々やってしまう。この章は身近な例が多くて理解し易い。
9章 平均への回帰の叱責は称賛より、罰は報酬より効果があるという錯覚の例が納得。相関と因果が複雑化しているのは原因が複数あって影響の度合いが測れないという事か。
10章 選択的接種はネットが普及した現代こそ、偏りがあるのだろう。コロナ禍で顕著だったように感じてならない。他人の意見を受け入れ難く思った時は、自分も見たいものだけをみているという自覚が必要なのだろう。
11章 進歩が合理性によってもぎ取った勝利であり、貧困を克服し、国家間の戦争確率を下げた。ゲームなどでは悪として描かれる事が多い進歩だが、道徳も進歩で得られたものである。客観的な幸福を増やせる手段として合理性があるという締めに、なるほど!そうだったのかと素直に感じた。


デヴィッド・スタックラー 、サンジェイ・バス

経済政策で人は死ぬか?

1章 緊縮政策での社会保障費削減。不正受給については、人はどこまで合理的かの7章で語られた信号とノイズの話に近いと思った。不正受給(ノイズ)に焦点を当てると必要な人(信号)も切捨てられてしまう。
2章 ソ連崩壊後にとられたショック療法という政策で社会保障制度が機能せず、結果的に働き盛りの死亡率の増加を招いた。更に一部の新興財閥に富が偏る2分化を引き起こした。近隣諸国と比較する事で、経済が崩壊した事よりもその後に取られる政策によって人が死ぬ事をロシアを例にした。
3章 アジア通貨危機における緊縮政策を行ったタイと財政出動を行ったマレーシアの貧困率と経済回復の比較。これらの例を読むと今の日本で貧困層にお金がばら撒かれている理由が分かる。富の2分化がより進行した場合、自分は切捨てられる側になる確率がとても高い。
4章 アイスランドの例は響くものがある。1%の裕福層が作った借金を国民全体で負担するなんて、何となく東電を連想させた。
5章 緊縮政策を行ったギリシャの例。EU存続の危機としてギリシャの粉飾決算のニュースは日本でも流れていたけれど、この本を読むと印象が変わる。強要された社会保障や医療費の削減で、国が体裁を保つためにスケープゴートにするのは弱者。データ隠しや改竄とか、まるで日本政府のようで明日の我が身を思った。
6章 支出をケチると返って増えるという例。予防する事で治療費を抑えられる。日本の国民皆保険制度のありがたみを感じた。病院は嫌いで行かないが、行かないと行けないでは雲泥の差だ。
7章 職とうつと自殺の関連性の例。過重労働からうつで働けなくなった経験があると、身近に感じる。
8章 住宅の重要性。住む場所がないと弊害は個人だけではなく社会全体に及ぶという例。
国民の命は経済政策に左右されるという回答だ。今は幸せに生活している自分も職を失い仮に失業手当も受けられないなら、最愛の猫を手放して木に縄を括ることになるのだろうと考えてゾッとした。


山崎圭一

一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書

枕詞が面白いなと思った。一度読んだら絶対に忘れない、と見たら「何を?」と思う、学生のテスト対応の日本史として登場人物や出来事を忘れないなんて事はありえない。一度読んだだけで覚えられる本なんて存在してたまるか。
この本は全体の流れを把握するために書かれているので、細かい事はさておき、流れは記憶に残る。
保存食である米を得た事で貧富の差が生まれ、争いが起こる。
富める者が貧しい者達から、いかに効率的・継続的に搾取するかの政策、富の奪い合いで、(奪われなかった)乱や(奪われた)変。統一という形でひと段落ついたのが江戸時代。
海外からの圧力への対応に追われるのが明治・大正・昭和。日本が極東にある島国でなければ、早々に植民地化されていただろうと書かれたいたのはどの本だったか…。
近代の日本史は、世界史の視点から見る必要があるので、一気に複雑になる。世界史は欧米の思惑が強く反映していて、富める国が貧しい国から、いかに効率的・継続的に搾取するかという…。


オリバー・バークマン

限りある時間の使い方

暇を楽しんでいる自分が、予約殺到していたこの本を借りたのは、単純なる好奇心。
イントロダクション 「生産性とは、罠なのだ。効率を上げれば上げるほど、ますます忙しくなる。タスクをすばやく片付ければ片付けるほど、ますます多くのタスクが積み上がる」
これには共感しかない。どの職場でも痛感するが、仕事が出来る人に仕事は積み上がるものだ。だからこそ、給料に大差ないとやる気が目減りする。
1章 時間は集団行動において重要視され、次第に生活から切り離して測定できるもの、使うものとして捉えられるようになった。限られた時間で、やりたい事全てはできない。
2章 やるべき事を全部やり遂げるのが不可能なのは、時間ができるとやるべき事の定義が広がるからだ。効率化の罠として例に挙げられた電子メール。常に返信しなければならず、逆に時間が取られるというもの。便利さが重要を遠ざけているのではないかという問題提起。
私は豆を挽き、珈琲を落とす手間や、友人を想いながら手紙を書く時間も好きだ。何が重要(時間をかけるに値する)かは人それぞれ。
3章 永遠に続かないからこそ、価値を感じるというもの。だから「永遠は死ぬほど退屈だ」に繋がる。
ただ、自身の有限性を意識しないで生きている人が多数派というのは、信じ難い事実だ。
4章 時間も給料と同じように、大事な分は事前に確保しておかないと足りなくなる。選択肢を多く残すより限られている方が、選び取ったものに価値が生まれて幸福度が増す。
5章 注意力が限りある資源というのは面白い。脳内にある情報のうち0.0004%にしか意識的に注意を向けられないとは知らなかった。
6章 退屈とは「ものごとがコントロールできない」という不快な事実に直面したときの強烈な忌避反応だ。にそうだったのか!と納得。やる事は沢山あるのに退屈と感じるのが不思議だった。
7章 時間があると考える事が誤りであり、未来は計画通りに行くとは限らない。計画は意思表示に過ぎず、未来を思い通りにできるはずもない。
私も時間に余裕を持たせた行動をする派なので、多少のトラブルは回避できる。とはいえ、登山に行く気満々なのに天気予報が外れて雨が降るなんて日常茶飯事だ。
8章「自分自身を将来のための手段として使う」事がどれだけ自虐的な行為かを紹介している。不確かな未来より今が重要なのは共感しかない。
9章 余暇すらもやる事リストのひとつになってしまったら、もう人生何も楽しくないのではいだろうか?
10章 読書には時間がかかるのは当たり前だ。お金のない学生時代は500円弱で30分以内に読める漫画と3時間で読める小説なら、時間を長く潰せる小説の方がコスパが良いと思っていた。忙しさへの依存症という考え方は面白いけど、問題にされないのは仕方ない。
11章 絵画を3時間なにもせずにただ眺める事は難しい。細部に詰め込まれた情報を読み解く力を養うには必要な事かもしれないが…。多くが表面上だけ見て満足しても何も得ていないという事だろう。
12章 余暇時間は大切な人と共有した方が満足度が高い。時間が個々で分断されているからこそ、同じ時間を過ごす重要性を指摘している。
13章 自分への過剰な期待を止めようという呼びかけ。本を読んだだけでそれが出来る人は、賢すぎて羨ましいにも程がある。
14章 問いかけられた5つの質問。結局、同じことを繰り返して言っているように思う。
貴方が本当にやりたいと思っている事は何か?それを今やれ。
本当にやりたい事が分からない人は付録をやれという事だろう。


村田慎二郎

世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事な事

プロローグ 国境なき医師団は1971年に医師とジャーナリストが設立した人道援助団体。「中立を守るためには沈黙を保たなければならない」という当時の赤十字国際委員会の方針に疑問を抱いた人達がフランスで設立した。設立の経緯と思っていたより最近の設立だった事を今更知った。
1世界 子どもの夢が外国人になりたいとは、なんて夢がないんだろうと思ってしまう。憧れを持てる事すら余裕があり特権があるという事なのか。自分の選択肢が他者の命に直結する怖さに向き合う著者を尊敬する。圧倒的に恵まれた存在であるという自覚はある。
2アイデンティティ 自分の考え方だけでなく、自分が所属する組織や国に対しての把握は乏しい。他者にそれを説明し、相手の背景を考察して話をするという緊張感を味わった事がないのは幸いなのか…。
3夢 夢を語る事は簡単なようで難しい。自分の夢はなんだろう。夢に向かって突き進む人生とはどのようなものなのだろう。夢は重いと感じるのすら、モッタイナイのか。
4戦略 居心地の良さを放棄できる原動力が夢なのか。リーダーシップに限らず、聖域は必要だと思う。自分は…というよりも、他者に対して、この人の聖域は何だろうと考える方が好きだ。
5リーダーシップ 責任者が常に正しいとは限らないから、合理的な解決方法を探るというのは共感しかない。医療施設への爆撃がニュースで報じられるのと、経験した人から語られるのは、こうも違うのか。
6パブリック どういう人たちにどういう影響を与えたいのか。貢献したい人、できるではなくてしたい、というところが夢に通じる。失敗を経験できないなんて事はあり得ない、つまりは自分が思う程度の失敗はこの著者にとっては失敗ですらない、という事実に驚いた。
エピローグ ヒモがつかない民間からの寄付。重要なのは理解できるので、初めて国境なき医師団のサイトからwebで寄付してみた。ボランティアは住んでいる地域からと思っているタイプなので、定期ではなくて今回の寄付。



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