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詐欺師との一週間

ロマンス詐欺に引っかかりそうになったので、貴重な体験の一つとして手短に記録しておきます。

9月最初の土曜日は、大阪から会いに来てくれた友達と10年ぶりに会って話も弾んで、私はちょっと高揚していた。銀座で美味しいイタリアンを食べて、それが本当に美味しくて、二次会で入った夜中のカフェも楽しくて、うきうきしていた。銀座の街が私のテンションをちょっと浮ついたものにしたかもしれない。

夜中のカフェでかかっていた曲がどうにも胸に刺さるけれどタイトルを思い出せないので家に帰ってからGoogleで鼻歌検索をしたら、SiaのChandelierだった。

楽しかった銀座の夜の余韻と、Chandelierが私をもっとエモーショナルにしたかもしれない。

私は英語を15年以上独学しているのだが、ライティングがどうにも苦手なので、オールドファッションな文通というやり方で友達を作ってメールのやり取りでもしようとふと思いついた。私は本当に色んなことを思いつく。イタリア語の独学もいっこうに進まないので、言語学習パートナーがいるといいなと思った。

調べていると、言語交換の無料アプリにたどりついた。自分が覚えたい言語と自分が教えられる言語、自分の写真とプロフィールを英語で書いてアップロードするが早いか、世界中からうじゃうじゃとチャットメッセージが届いてメッセージボックスはあっという間にものすごい量で埋まった。

異性じゃなくて、言語学習パートナーを探しているはずだったんだけど、ここは語学学習を口実に恋愛目的で集まっている人ばかりだ。

こうしてイタリア人の異性を物色していると、心が割れて流血した。ずっと探し続けていたものは一度はみつかったのに、私は失ったんだ。その強い実感が私の胸を引き裂いた。Chandelierのリピート再生が部屋を騒がしくしている。

だったらここでやめておけばよかったのに、私は美男子の罠にいとも簡単に落ちてしまったのだった。

Davidは私に「Hi」とチャットを送って来たそのうちの一人だった。ニューヨーク育ちの韓国人。彼のプロフィール写真がめちゃくちゃ好みの顔だった。かといって加工している感じはない、ナチュラルハンサム!私は美男子にめっぽう弱い。弱すぎる。酒にも弱い、おだてにも弱い、そしてイケメンにも弱いのだった。私の鼻の下は一気に伸びた。

今何してる?とか、おきまりの「ほんとに43歳なの?若すぎない?」「アジア人は若く見えるからね」トークとか「NYに来たことある?」とか、私のプロフィール写真を褒めてくれたりなどの軽いやり取りのあと、あまりにDavidがハンサムなので「プロフィールの写真、めちゃくちゃかっこいいね。まさかフェイクじゃないよね?このアプリ、怪しい人もたくさんいそうだからw」と送ると「そんな腹の立つことを君から聞くとは思わなかった。むかつく…」と返って来た。

あれ?と思った。たしかにフェイクという表現が気に障ったのかもしれないが、意味がちがった風にとらえられたのかと思って「いやいや、あまりにあなたがハンサムすぎるから驚いただけなんだけど」と伝えたが、なんだか意図が伝わっていない感じだ。会話が嚙み合わない。

あとになって落ち着いて考えると、そもそもフェイクじゃなかったらこんなに怒らないよな。「フェイクじゃないよ~(笑)ありがとう」で済む話。図星だったんだと思う。

LINEに誘導される

するとそこからしばらく音信が途絶えてしまった。褒め方間違えた。。と思っていたら、またしばらくして「Mio」と呼びかけられた。

ちなみにもう一つ言うと、私は名前を呼ばれるのにもちょっと弱いのだ。こういうの、きっと私だけじゃないはずだ。Davidは、私の下の名前を頻繁に呼ぶ人だった。会話の初めだったり、ただ深い意味もなくMioと呼ばれるたびにくすぐったい気持ちになった。思えばこれも手だったのかも。今となってはすべてがDavidの策略だったようにしか思えない。

「Mio, 俺は別に怒ってない」「OK」「でも俺は別にハンサムではない」「いやハンサムやん。褒めたら何で怒るの?どこが気に障ったか教えてくれない?何か傷つけたなら謝る」「いや俺別にハンサムじゃないし…まぁ、いいや。もうこのことは忘れよう。…怒ってる?君を悲しませた?…そうだ、いい考えがある。LINE使ってる?」

こうして、腑に落ちない突然のブチギレのあと、我らのトークはLINEに移行することに。せっかくいい感じで会話が進んでいたのに、自分の失言のせいでハンサム君を怒らせてしまって、私は焦っていた。

ちょっと気持ちのいいスムーズな会話のあと、ささいなことで機嫌をそこねて焦らせたところでLINEに誘導する手なのかもしれない。

ふと「あれ、NYの人ってLINE使うんだ?」とは思った。アジア人とのやり取りに慣れてるんだな、と思った。欧米の人はWhatsAppを言ってくるのが普通だから。

こうして、我々はアプリからLINEに移行して、朝と晩にやりとりをするようになった。NYとTokyoは時差が13時間。私が朝起きるとDavidがMioと声をかけてくる。こっちが朝の8時で向こうは夜の7時だ。「Good evening, いま仕事終わった」こちらは仕事が始まる時間。仕事の合間もDavidが寝る前のおしゃべりにちょっと付き合ったりしていた。逆に私が寝る頃、向こうは朝を迎えるような時差の中でも、お互いの朝と夜の少しの時間を使って会話を重ねていった。

好きな色を聞かれたのでピンクと答えると、ピンクの薔薇の写真を送って来たり、君のことをもっと知りたいと言われたり、私からの返信が遅いと「なにがあったの?」「どうして返事がないの?」と催促したりした。「忙しくて返信できなかった」と言うと「わかったけど無視は嫌だ。友達のルールは守ってね」とあえて"友達 " と言うことで惹きつけたりした。

私はこうしてどんどんと恋愛モードに入っていった。顔がタイプだから沼るのは早い。しかし一方で、このアプリは詐欺が多いという話も聞いていたので、疑う気持ちを半分は持っておこうと決めていた。

言葉の違和感

さっきの、ハンサムすぎてまさかフェイクじゃないよね(笑)の軽いジョークが通じず揉めたのはただの手だったのかもしれないけれど、それにしても言葉がスッと通じないことが多かった。え、ニューヨーク育ちって、ほぼネイティブだよね??ローカルの学校通ったって言ってるし、仕事も現地で、なんでこんなに英語表現がスッと通じない?と感じてはいた。のちにもっと話を聞くと、4歳でアメリカに来たらしい。39歳のDavidは人生のほとんどをNYで過ごしているはず。それにしては返ってくる単語がシンプルすぎるし、シンプルな内容でも会話がすれ違う(意味を違ってとられる)ことがたまにあった。日曜日どう過ごしてたか聞かれて「ぐうたらすごしてた」と答えたら「ぐうたら??…楽しかったの?」など、簡単な会話でもわずかに噛み合わないことがたまにあった。

ネイティブの人とオンラインでやり取りしたことはこれまでも何度かあったが、Davidとのやり取りはほんまにネイティブですか?と感じてしまう点はあったのだ。でも、ニューヨーク育ちとはいえほとんど韓国人コミュニティで育った人なのかもしれないな、と思っていた。

情に訴えかけるオルファンストーリー

さらに会話が親密になっていくと(といってもDavidの返しはOKとか、私の話に相槌をついたりシンプルなコメントや質問ぐらいで、ほとんどは私がしゃべっていた)、生い立ちやDavidの仕事についてさらに深い話を聞く段階に入った。

韓国生まれで、ニューヨーク育ちなんてどんなストーリーがあるか気になるのが普通だろう。

どうしてフリーランサーとして働くことになったのか聞いた時だった。これには暗い過去があると言い出した。実は俺は孤児なのだと。それで20代後半からフリーランサーとして働いていると。フリーランサーであることと孤児であることの直接の関係は謎だ。孤児だと就職が難しいとかあるのだろうか?

「俺は孤児で、フリーランサーとして働くことになった経験には常に辛い思い出がともなう」と打ち明けてきた。「この幼い頃の経験は俺の心に深い傷を残した」と言われると、言いづらいことを言わせてしまった罪悪感と同情で、胸がずきんとした。割れたハートの絵文字がついてきた。しかし孤児とフリーランサーであることは何の関係があるんだろう?という疑問は残った。

フリーランスの働き方について聞くと怒る

私はフリーランスでの働き方に興味があるので、話の流れでフリーランサーとして働くコツというか、どんな働き方をしているのかをたずねてみた。すると急に固い感じになり「コツ?そういうことはまだ教えるには早いし、オンラインで話す話ではない」とばっさりと切られた。

急に怒るやん…意味不明。

今考えると、プロフィールの写真にしろ自分の仕事にしろ、やましいポイントをずばり聞かれると急に怒るなんて、わかりやすすぎる。

Davidは、俺が英語を教えてあげると言って、私のささいなスペルミスを指摘してきた。たとえばWoke upをWork upと打ってしまっただけで、すかさず指摘してきた。いやいやただの打ち間違いレベルでいちいち突っ込まれるのしんどいな、と思った。私はDavidとのLINEを英語勉強のフォーマットとして利用しようとも思っていたので(Davidが私が勉強熱心なことをとても褒めてくれたこともあって)、自分で打った英文のミスを「訂正!」と言って書き直したりしていた。

すると「Mioはとても勉強熱心だけど発音はどうかな?」と挑発してきた。「NYに来ればすぐに流暢になるよ」「俺の声、しゃべると高いんだよ。歌うたうのが好きなんだ」

歌とか歌うんだ?めちゃ素敵やん。
「え、歌うたうのが好きなの?今度聴きたいな」
と私が打つが早いか、突然Davidから着信が!

突然の電話と歌

さすがに突然の電話はびっくりしたし、いきなりすぎてすぐに出られなかった。しばらく鳴り続けるスマホの画面を見つめていたが、意を決して出てみた。

私の方もパニクっていたのでどんな感じで会話を始めたかよく覚えていないが、電話の向こうでウィスパーボイスのDavidが歌をうたっている(笑)

ささやくように歌ってくれたけれど、おしゃべりもささやく感じで正直何を言ってるか聞き取れず、なんども聞き返してしまった。はきはき喋らないし、かなりの韓国人のようなアクセントのある発音だった。

私はこの時まで彼がNY育ちと信じ切っていたので、自分のリスニング力のなさを思い知って少し落ち込んでいた。

今思うと、はきはき喋らないのは自分のアクセントがバレないため。この電話は親密さを出すためのたった一度のコールであって、そのあと一切電話をしたがらなかったのは、今思うと自分の英語力とアクセントがバレるから、極力電話はしたくなかったのだと踏んでいる。この電話のあと何度か「また電話で話さない?」と誘ってみたが、のらりくらりとかわされ続けた。

バックグラウンドの辻褄が合わない

一番最初に私がDavidの生い立ちを聞いた時、彼の母はNYで生まれ育った人で、お父さんは韓国人とのことだった。

電話があったときにまた自分たちのバックグラウンドの話になって、その時に彼が言うには、故郷の韓国で4歳の頃に父が事故で?(死因が聞き取れず一度聞き返したけどやっぱり聞き取れず、何度も聞くのも失礼なので諦めた)亡くなって、母親が一人で生きていくのが大変だからNYに渡ってきたと。そのあとすぐDavidが6歳の時に母親が慣れないアメリカ生活で精神的におかしくなって亡くなったと(ささやくように話すのでほんとに何言ってるかよくわからないけど何度も聞き返すのも気まずい話題だから、私の解釈した範囲だけど、たぶんこんな感じ)

最初に聞いてた話と違くない??お母さんはもともとNYで生まれ育った人と聞いてたはず…。なんで生まれ育った環境になじめなくて精神おかしくなるんよ?

そして、4歳の頃にNYに来たわりには英語がかなりなまっていた。彼は自分は英語しか話せず、韓国人であるにも関わらず韓国語が話せないことを恥じていたけれど…。35年もアメリカで生活してて、英語そんな感じ?とは正直感じてしまった。

そして、名前を聞いた時も違和感を感じたのだった。彼は自分の本名はDavid Hunだと。韓国生まれだったら韓国名があるほうが自然のような気がするけれど…。そして「苗字のHunの由来はわからない、母が言うには父がいつも僕をHunと呼んでいたらしい」ってどういう意味?自分の息子を苗字で呼ぶ親いなくない?

…と、Davidの会話は謎だらけだった。これら以外にも、NYの冬は極寒と聞くけど実際はどう?とか、NYの一番好きなところはどこ?とNYのことを聞いてもはっきり具体的には答えない。私生活を明かさない。たとえば土曜日どうすごした?とか聞いても「いい感じだった」「問題なく過ごせた」みたいな具体性の全くない返事。私生活が全く見えてこない。

マッスルDavid

こいつ詐欺だな、とはっきり自覚したのはDavidが嘘みたいに筋肉むきむきの自分の写真を送ってきた時だった。鍛え上げられた美しすぎる全身写真はジムで誰かによって撮影されていて、このまま雑誌ターザンとかに載せられるぐらいの筋肉だった。ジムで懸垂している動画も送られてきた。アスリート?

この美しく鍛え上げられた胸板の厚い、長身のいい男が爽やかな白シャツを着て笑っている写真も送られてきた。いやいやいやいや、女性に困ってないよね?怪しいアプリで見ず知らずの日本人に声かける必要ないよね?なんならそのまま雑誌に載れるくらいイケてるよね?

43歳実家暮らしの限界シングルと遠距離恋愛する必要あるだろうか?いやない!と思わざるを得ないようなシロモノだった。

この写真と動画が送られてきたのは、日本時間の日曜夜だった。
NY時間の土曜日の夜に、日本時間の日曜の夜(NYの日曜朝)にまた電話しようと約束をしていたのだった。

日本時間の日曜夜。Davidが起きる頃合いを見計らって連絡しても、いっこうに電話をする雰囲気にならない。日曜日は教会に行くと言っていたから「朝忙しいようなら電話無理しないで」と声をかけたが、すぐに既読がつかず、既読がついたと思ったらのらりくらりとかわされてどうでもいいことを聞かれたりして、これ電話する気ないな。。と諦めた時だった。唐突にムキムキ筋肉写真と動画が送られてきたのだった。

電話だと色々バレるから極力電話はしたくなかったのだろう。
私はこの写真でDavidは架空の人物で、この筋肉写真もプロフィールの写真もきっとどこかから手配して使っているものなんだろうとはっきりわかってしまった。

神経衰弱のカードがすべて開いて、答えが出た感じがした。
アプリでDavidと出会ってからちょうど一週間だった。

ジュゼッペじいさんに救われる

私はイタリア語も独学をしたくて、何冊かテキストを買ってみたものの自分一人だと全く進まないので、同じくこのアプリで誰かイタリア語を教えてくれる人を探していたところ、知り合ったのがジュゼッペじいさんだった。ジュゼッペじいさんは日本在住のイタリア語講師で、じいさんといってもまだ55歳だけれど、写真を見ると白髪でもっとおじいさんに見えたし、チャットで話す雰囲気もおじいさんて感じの人だ。

この人はチャットを始めたばかりの頃から「このアプリは詐欺が多いから気を付けて。プロフィールの自分の写真は悪用されることもあるから削除したほうがいいかも」とアドバイスをくれていた。「アジア系の詐欺集団がいるらしい」ということも教えてくれていた。このじいさんの話を真面目に聞いていれば、詐欺師の罠にはまりそうになることもなかったのに!

ジュゼッペじいさんにDavidの筋肉写真を送って見てもらうと即刻「LINEを今すぐブロックするのじゃ!これ100%詐欺だから!」さらには、プロフィールの名前が、「名前+5桁の数字は詐欺集団」ということも教えてくれた。それを先に言わんかい!アプリのDavidのプロフィールを改めて見に行くと、David45219となっていた。

ジュゼッペじいさんの言う通り、すぐにLINEとアプリのDavidをブロックした。

詐欺のケース

ジュゼッペじいさんは「デジャブのようじゃ。。わしはこれまでに何人か日本人の君みたいな女の子を救ってきておる」(私はもう女の子じゃないけど)と、エピソードを語ってくれた。

ジュゼッペじいさんがアプリで出会った日本人女性も私と同じように韓国人を名乗る男性と恋愛関係になった。

詐欺集団は日本人の中年女性が韓国人好き(韓国ドラマとか韓国アイドルとか)ということを熟知していて、日本人好みのプロフィール写真を使い、たくみに関係性を築く。なお、韓国人と騙っているだけで、詐欺集団の国籍はハッキリとはわからないらしい。私が韓国人だと思っていたDavidも、実際はどこの国の人だかもわからない。私は誰と話をしていたのだろう?

詐欺師は結論をいそがない。数か月単位の時間をかけて関係性を築き、女性を「恋に落ちた」状態にしてから犯行におよぶらしい。ジュゼッペじじいが救ったその女性は、ヨーロッパ在住の韓国人と名乗る相手と数か月やりとりを続けて女性が完全恋愛モードになったところで、彼がある日、彼女に会いに来るといって、仕事を辞めてしまう。しかし無職で渡航費用がないからお金を送るように言われたらしい(むちゃくちゃな筋書きだがw)。

さすがに怪しんだその女性がジュゼッペじいさんに相談したところ(ジュゼッペじいさん何者やねんって話だけど)詐欺だから連絡先は全てブロックするように伝えたと。「彼女は本気で恋してしまっていたので、しばらくは恨まれたよ」と言っておられたが、ほんとジュゼッペじいさんって一体(笑)

ジュゼッペじいさんは長く連れ添った日本人妻との関係がマンネリ化し、ガールフレンドが欲しいからと、このアプリでガールハントをしているじいさんだった。ジュゼッペじいさんは私を詐欺から救ってくれた恩人ではあるけれど、知り合ったばかりで「イタリア語の個人レッスンをやってあげるから僕の部屋においで」などと言いだすのが気持ち悪くて、申し訳ないけれどブロックしてしまった。

また、このアプリで仲良くなったイタリア人の女の子も同じような被害にあっていたことがわかった。私が詐欺にあいそうになった話をしたところ打ち明けてくれたのだが、彼女の相手もやはり韓国名を名乗る人物で、贈り物をしたいから住所を教えて欲しいと言われたと。また、荷物を送るためのお金を要求されたらしく、そこで怪しく思って通報、ブロックしたため被害はまぬがれたらしい。

一週間の恋を一週間で癒す

詐欺師との疑似恋愛はかくして一週間で終わった。一週間で終わりにできて本当によかった。妹にDavidのプロフィール写真を見せたら「こんなん100%詐欺やん」と一蹴された。一週間で気づけて良かったじゃなくて、一週間も詐欺師に騙されていたこと自体が恥ずかしい。

うかれた気持ちで軽率にプロフィールをアップして、タイプの顔というだけでのぼせあがって。インターネットをなめてました。

正直、自分自身への落胆が大きい。Davidが詐欺師だとわかったのが先週の日曜日。それから今日までの一週間は、自己嫌悪からくる精神的疲労がドッときてしまって、日課にしている諸々の勉強も手につかず、それもまた情けなかった。騙されていた事実よりも、あんなにわかりやすい詐欺に騙されてしまった自分自身にがっかりしたというのが大きい。一瞬でも夢を見てしまった自分が愚かだ。詐欺被害って、実際の被害に加え、自分を責めてしまう苦しみとの二重苦だなと思った。騙されていた一週間、一瞬でも心がうきうきしたり、この後の展開に期待したりした自分が恥ずかしくてたまらない。私はまだ傷が癒えていない。元気が全く出ない。

ミドルエイジの孤独

Davidが詐欺師だと判明した前日の土曜日は、大学時代の友達と何年かぶりに会ってランチをした日だった。彼女はとても綺麗な人だけれども、久しぶり!と私に手を振ったその顔が輝いてより綺麗に見えた。私に駆け寄って息を弾ませている。早く言いたいといった感じで、彼女が結婚することを打ち明けてくれた。

彼女の長い、そしてずっと叶うことのなかった片思いの時代を知っているし、相手はその片思いの人ではないけれど、彼女がやっと手につかんだ幸せが嬉しくて、私たちは抱き合って泣いた。

彼女とのそのランチが、Davidが詐欺師だとわかる前日でよかった。彼女とランチしている間は、彼女とパートナーのなれそめを聞きながらも、心の中でひそかにNY在住のめちゃいけ韓国人と今いい感じやねん、と思っていることができていた。

詐欺師に騙された上に親友の結婚報告を聞くなんて、自分が惨めすぎて耐えられなかっただろうと思う。

みんなが当たり前のように掴んでいる幸せをなかなか手に入れることができない。結婚した人ってみんな、「一生一緒にいてくれや」って言ってもらった人たちだもんね。長く一緒にいても、私にそれを言ってくれる人はいなかった。私がどんなに望んでも。

老いた両親と暮らす日々はお互い助け合っているようでも、高齢になってますます心配性を加速させた母と長くいると、ネガティブが伝染してしまう。精神的に弱っているときはとくに、私はこのままでいいのかな、とふと思う。好きな場所で好きな人と暮らす人生。もう一度思い描けるだろうか。また夢を思い描いていいだろうか。

前回どこかの記事で、今自分はまだベターハーフをあきらめてはいないけれど、一人でも人生を楽しめる自分であることが今のテーマ、というようなことを書いた気がするが、詐欺師に出会ってしまったことで、惨めと孤独の波が押し寄せている。自分一人だけ幸せにするのに、どうしてこんなに大変なんだろう。

もちろん詐欺師Davidに全夢物語を賭けたわけでは全くないのだが、失望感が大きい。

詐欺師には当然なにも未練などないけれど、詐欺師が私に突き付けた「現実」はかなりきついものがある。私は惨めな43歳実家暮らしの独身女。そんなレッテルをまた、望みもしないのに貼られてしまったような。自分で貼って自虐しているような。

心がまた元気になって、おひとりライフを楽しめるようになるのには、もう少しかかりそうだ。

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