名付け
私は名付けが好きだ。そして得意だ。
社会人になって一番はじめについた仕事はテキスタイルのCADの仕事だった。ビンテージの柄をスキャンして、ソフトを使って描き直し、リピートに落としてこんでいったり、布帛やニットの柄をCADで織り上げたり、編み上げたりして、印刷物を工場に送ってサンプルを作ってもらう。
ファッション業界では毎シーズン、まずコレクションのカラーパレットを決める。カラーのトレンドは何年も前から決まっていて、展示会やトレンド情報をもとにキーカラーを抑えつつ、コレクションに合った色の組み合わせを考える。
色の名前というのはずっと昔からあるものや、新しいものや、遊び心があるものまで色々ある。もともとの色の原材料が名前のものもあれば、花の名前や石の名前やモノの名前のときもある。
Slate
Dandelion
Aegean Blue
Merlot
石板、たんぽぽ、エーゲ海、メルローワイン、とはなんとロマンのある言葉の並びであろう。
朽葉色
萌葱色
灰桜
紫式部
日本の色の名前もなんとも、風情があり、奥深い。
私は街で素敵な色を見ると、
「あれは、Azalea ツツジ色」
「あれは Peacock 孔雀色」
とすぐ命名したくなる。
長女も色の名前が大好きである。数年前からTombowの色辞典という色鉛筆を愛用している。この色鉛筆シリーズは私も小学生の頃に知り合いからプレゼントされ、辞典のようなおしゃれなパッケージにいたく感動したのを覚えている。調べたら1988年に第1集が発売されたというからちょうど私が3年生くらいの時か。娘はこのシリーズを80本くらい持っているが、鉛筆の先の色を見ただけで全ての色の名前を空で言えるほどだ。
そして娘たちも私に似て名付けが得意だ。
ぬいぐるみはもちろん家財や観葉植物にも名前をつける。
前の家の子ども部屋で使っていたYogiboのベージュ色のクッションは、Puffin and Muffin パフィンとマフィンと名づけた。
IKEAで購入したコロンとした形のベージュのクロシェ編みのオットマンはRolli and Polliと名づけた。Roly-polyとは英語でだんご虫のことである。
2段ベッドは、Bunk and Buddy
リビングのゴムの木は、Onyx
お尻のような形をしている多肉植物は、Butty and Butt-butt
私たちが日本で一番初めに購入したSuzukiの軽自動車はMiss Mousy Brownと名づけた。Paletteという箱型の車種で少し赤みがかった茶色で、小回りの効くかわいいネズミのような車だった。この子にはテーマソングもあった。60年代にワーナー・ブラザースのアニメキャラクターでスピーディー・ゴンザレス(Speedy Gonzales)という番組があった。Speedy Gonzalesはツバの広い黄色いメキシコ帽を被り、首に赤いスカーフを巻いた茶色いネズミのキャラである。このアニメの主題歌のサビ、
Speedy Gonzales, why don't you come home?
Speedy Gonzales, how come you leave me all alone?
「Speedy Gonzales」を「Miss Mousy Brown」に置き換えたのが我が家の愛車のテーマソングだった。名づけもテーマソングも私の考案である。
車を買い替える時はみんなでMousy Brown (普段は敬称抜き)との別れを惜しんだ。下取りにだ出した後も、Mousy Brown 元気かなとみんなで思い出している。
2台目の車はHondaのFreedという車だ。夫の強い要望で白を買った。Mousy Brownに比べ、中堅で無難な車だったので、Fredというつまらない名前をつけた。Fredはつまらないが、7人も乗れて、実用的で、非常に頼りがいがあり、私たちはことあるごとに Thank you, Fredなどの感謝の言葉をかけたりして大事にしている。
日本は古くから八百万神といって、あらゆる現象や、世の中に存在するすべての物に神が宿っていると考える習わしがある。私はこの日本人ならではの感覚が好きである。石ころや椅子が人格を持って私たちと暮らしていると考えるのはなんだか楽しいなぁと思うからである。
子どもは誰しも小さい頃から見たて遊びをする。ものを何か別のものに見立てたり、ものに人格を与えがちである。娘たちも日々の半分以上は想像の世界で暮らしているように感じる。
小さい頃はタヌキの世界で暮らしていた長女は、最近ではもっと意図的に架空の物語の世界を生み出すのを趣味としている。愛読書の影響もあり、一つの世界に多数の部族が存在し、登場人物が大勢いる世界が展開される。森の部族、砂漠の部族、夜の部族、海の部族など、、、そして部族ごとに登場人物の名前が植物の名前だったり、海に関する名前だったりする。4年生の時はカラスの世界。5年生の時はドラゴン。6年生の今はエルフの世界を創造しているようだ。来る日も来る日もそれはそれは壮大な世界が彼女の頭の中で繰り広げられているのだろう。
次女も最近、姉の影響で物語の創作のために名前を集めをしている。
Chesnut
Birch
Ash
Oak
Willow
Maple
Pine
お姉ちゃんに木の名前をヒアリングして、スペルも指南も受けながらノートに書き連ねている。
彼女たちの想像力が阻められることなく、育っていって欲しいと願う母である。
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