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こーたくんのこと

こーたくんが、この世の中からいなくなってしまった。

渥美清に似た四角い顔で、「厚かましく図太いと書いてこーたです!」って
自己紹介してくれたのが、かれこれ35年前。
東京に出てきた関西人が集まり、目黒の寄生虫博物館を見学に行くという、
ニッチな企画で、すぐに仲良くなったのが、こーたくんだった。

子どものころから、ずっとハミダシっ子で、母に愛されたことがない。
だから、人気者になりたい。「わたし女優になるの!」って言ってたのを、
今でも、よーく覚えてる。

能天気なわたしは、一見おバカさんなこーたくんの言葉の背景にあった、
複雑な葛藤を想像できなくて、今どきなんて時代錯誤なの、
マリリン・モンローかよ、おまえはって、鼻で笑ったんだ。ごめんなさい。

こーたくんは、その名前のとおり、厚かましくて、ずうずうしくて、
携帯電話もなかった時代に、ガンガン実家に電話はかけてくるし、
時間も気にせず遊びに来るし、デートにだってついてきちゃうし、
そのうち、姉妹みたいに、しょっちゅう一緒にいるようになった。

厚かましくて、ずうずうしいくせに、繊細で、優しくて、傷つきやすく、
涙もろいから、とにかく、しょっちゅう泣いていた。
だから、思い出すのは、こーたくんの涙と鼻水でぐしょぐしょになった、
くしゃくしゃのティッシュペーパーみたいな、泣き顔ばかり。

私が20代のときに血迷ってつきあっていた酒癖の悪い彼氏に、
ビール瓶で殴られて、ぎゃぁぎゃあ大泣きしていた、こーたくん。
芸能界で人気者になりたかったのに、したたかな人に利用されるばかりで、
「ニンゲンなんてだいっきらい!」って叫びながら泣いてた、こーたくん。
一緒に参加したレインボーパレードで、
最初は「こんなの、ただのプロパガンダよ」って、ひねくれてたのに、
沿道の人たちがみんなニコニコ手を振ってくれる、
ハッピーでピースフルな雰囲気に感動して、
「わたしも愛されてるのね」って、泣きじゃくったこーたくん。

まだまだ、たくさんある。

人の気持ちに対する想像力にかけている、ガサツなわたしを、
「田舎の姫」だと、こーたくんは言った。
「あんたは本当にパンがなければ、ケーキを食べれば?っていう人よね」と
悪態つきながらも、ずっと仲良くしてくれた。

こーたくんの命を助けたのは、一度や二度じゃないよ。
「助けて!」って電話がかかってきて、かけつけたことも複数回。
急病だったり、悪い人に拉致されたり、人に騙されたり、
お財布落としたり、お金を盗られたり……。
めんどうくさくて、やっかいで、迷惑な奴だと思ってたけど、
今ふりかえれば、それ以上に、こーたくんは私を守ってくれていた。

どんな時も無条件で味方になってくれたし、助けてくれた。
本当は面倒なことも、「あんた、いい加減にしなさいよ」って言いながら、
わたしにつきあってくれていた。

何かつらいことや困ったことがあれば、
真夜中でも、おかまいなしに電話をしてくるこーたくんだったから、
今は幸せにしてるんだろーって、勝手に思ってた。
こーたくんは、祈祷師になって、念願どおり人気者になったし、
たくさんの友だちに囲まれて、幸せに暮らしているんだろうって。

なのに、どーして?
どーして、ひとりで逝ってしまったんだろう。
「助けて!」って電話くれたら、めんどーくさいなって思いながら、
それでも、ぜったい、駆けつけたのに。
真夜中でも、離れていても、今までずっと、
そうしてきたはずなのに。

こーたくんのバカ、バカ、バカって
ストーカーみたいに、毎日、メッセージ送り続けてる。
あたりまえだけど、既読には、ならない。
ほんとに、バカすぎる。

とても悲しくて、寂しい。


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