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M-1グランプリ 2023決勝 感想

昨年までは、「あー今年もやってるな」程度の距離感だったが、今年は決勝をフルで観た。ファーストラウンドとファイナルラウンドの感想を簡単に書いてみようと思う。


敗者復活戦雑感

決勝の前に、敗者復活戦の雑感を。

今年から審査方法が変わった……といっても、私は今年から観ているからどう良くなったかは実感がない。

でも、今年だけを観ても、サドンデス方式はひと組ひと組の勝敗でその都度盛り上がるので、メリハリがあって中だるみしないので、長丁場の舞台に合っていて非常に良いと思った。

敗者復活戦を上がったシシガシラのネタは、審査員全員が絶賛している通り、新しい形のハゲネタだった。

脇田さんはただ真面目に歌っているだけなのに、会場1600人の観客を浜中さんの表情と目線の動きだけで上手く誘導して爆笑を起こしていて作戦勝ちだと思う。最初の曲でちゃんと、「髪の毛の事言ってる?」と予め説明してフリにしてあったのも大きい。もし、それがなかったら次の曲以降の意図が伝わりづらかったとは思う。

敗者復活戦の勝者が決まって、決勝の舞台に向かうまで、MCや審査員、観客に温かく拍手で送られているのも、既にウルっと来てしまった。

ファーストラウンド

例の如く、勝手に仮タイトル付けています。あと、お笑い初心者なので、良し悪しを判断出来るほどの目は持っていないので、点数とかは付けません。

1組目令和ロマン「少女漫画のベタパターン検証」

パンをくわえた女子と男子が出会い頭にぶつかって、その男子は実は転校生だったという、少女漫画にありがちなベタのパターンで、違う方向に走っている2人がぶつかる場合に目的地の学校は何処にあるのか?というのを検証するネタ。

ネタの感想の前に、まだ芸歴5年、決勝残るのも初めての若手芸人のはずなのに、何だ、あのベテラン芸人並の肝の座り方は!と率直に思った。

トップバッターって、M-1決勝では演者に死ぬほど嫌がられるのに(まだ舞台が温まってないのでウケづらい) そのハンデをものともせずに、せり上がりの時からふざけていて、緊張も見せずに初めての晴れ舞台楽しんでいた。

ネタも高学歴コンビという事を活かした小難しいネタも入っていたが、決して観客を置いてけぼりにはせずに、ちゃんと向かい合っていたのが爆笑を起こした要因だったと思う。「日体大」という特定の団体をイジッていたが、スキャンダル的な悪い部分をイジッていた訳ではなく、単純に「運動神経が良い人達が通う」という例えで使っていた。確かに一般的に「日体大」と聞けば、どんな人達なのかはラグなくスッと頭に浮かぶし伝わりやすい。

このネタを境に、今後M-1はトップバッターだからウケは取れないだろうという言い訳は効かなくなったというほどウケていたし、審査点数も高かった。

2組目 シシガシラ「コンプラをすり抜けるハゲ」

敗者復活ネタとは打って変わったしゃべくり漫才。「看護婦」や「スチュワーデス」など、今は差別用語になるので改正されているから、言っちゃダメだと浜中さんが脇田さんに言うが、その度に「ハゲ」を連発して、「ハゲはいいの??」と脇田さんが抗議し続けるネタ。

ハゲは本当にコンプラに引っかかってないのだろうか? 確かに、ハゲ芸人さんって多いし、それをネタにしているコンビも多い。ただ、松本さんの言う通り、ハゲ以外のネタも用意するべきかもしれないが、敗者復活戦で跳ねた新しいハゲネタもあるから、ハゲを突き詰めるのもいいのか、難しい所である。

でも、この決勝ネタを敗者復活戦でやったら上がって来れなかったと思うし、逆に絶賛されていた敗者復活ネタを決勝でやったらどうなっていたか?というのは、興味はある。

3組目 さや香「ブラジルからホームステイに来るエンゾ君を代わりに受け入れてくれ」

エンゾ君とのホームステイの約束を勝手に飛ばそうとしている石井さんに対して、新山さんがエンゾ君に同情して、最後には俺が受け入れるというが、実はエンゾ君が53のオッサンだと分かって、(オッサンは嫌なので)2人で飛ぼうというネタ。

新山さんのツッコミの熱量が激しい。2人の紹介の時に「ほぼケンカ」と書かれていたがその通りだった。ライト兄弟の例えを序盤に出して、最後のオチに「俺たちが浪速のライト兄弟や」と伏線(?)を回収するなど、技術は凄いけれど、とにかく声が大きくて叫び系なので、それを良い勢いととるか、騒がしいととるかは、好き嫌いは分かれるとは思う。

さや香は、今大会の優勝候補の筆頭だったと思う。観客も審査員もそういう期待の目で見ていたので、ファーストステージはネタの出来以上にウケていたし、点数も高かったという印象だった(もちろん面白かったが)そんな中で、松本さんだけは基準点であるトップバッターの令和ロマンと比べて少し劣っていたので、1人だけ80点台である89点を出した。周りの雰囲気に飲まれずに冷静に漫才の出来だけで審査出来るのはさすがだと思った。

4組目 カベポスター「願いが叶うおまじない」

小学校で、夜に写真を撮って写真の裏に願い事を書くと叶うという言い伝えがある。永見さんが夜に学校に行ってみると、駐車場に一台だけ車が停まっていて、その中は校長と音楽の先生がいた。永見さんは2人でいる所の写真と撮って後ろに願い事を書いて校長の机に置く。不倫の証拠をネタに強請って願い事を叶えていくというネタ。

淡々とした語り口の中にワードセンスが散りばめられていたし、展開も面白かった。個人的には、ファーストラウンドの中では2番目に好きなネタだったが、松本さんからは「4分ネタ(M-1用ネタ)ではない」との意見があった。

あと、最後にツッコミの浜田さんが噛んだという事で終わった後にざわついていたが、私は最初聴いた時は全然気が付かなかった(後で何回も聞いたら、ドロドロという単語で噛んでいた?)審査員では噛んでいたのをプラスとしている人もいて、漫才って本当に個人の主観で面白い、ダメが決まるから難しいなって思った。

打ち上げで、噛んだ最後のオチはギリギリで変えたと言っていた。そういうのも漫才の出来に左右するから怖いと思った。

5組目 マユリカ「夫婦の倦怠期」

倦怠期を迎えてギスギスしている夫婦の会話。結局、旦那側が不倫をしていたのだが、最後に嫁が不倫のキッカケになった「不倫相手が頭痛で、彼女に薬をあげてからいい感じになった」という場面を再現しようとしていたが(心配してくれるかなと期待した、もしくは不倫相手に負けたくない)最後、旦那にスルーされるというネタ。

実際の倦怠期は、「おかえり」や「ただいま」すら言わないとの意見もネットで見かけたが、ネタを見る限りだと、嫁側には若干愛情が残っているように思えたので、あんな感じになったのではないだろうか。そもそも完全に冷めていたら、不倫相手に嫉妬もしない(ただ悔しいだけもあるとは思うが)

面白かったけれど、終わり方が中途半端で嫁が(嘘の)頭痛で叫んだ後に旦那がもうひとボケあってからオチた方が良かったかなと感じた。

6組目 ヤ-レンズ「引っ越しの挨拶」

引っ越しする時に、もし変な人が大家さんだったらちゃんと挨拶出来る?ってネタ。

とにかく、大家さん役の楢原さんのキャラが良い感じに濃すぎたのと、出井さんのノリツッコミ(?)が心地良い感じ。審査員の方達も言っていた通り、とにかく終始ニヤニヤしてしまうほどボケの数が多い。私は、2人で同時に首を傾げて「全力おてんばおばさん?」という所で大爆笑した。ボケをツッコミと一緒にハモリながら言うのは流行なんだろうか。他のコンビでも見かけたような気がする。

楢原さんがとにかく平場でもお喋りで落ち着きがなくて、逆に出井さんが落ち着いている感じでコンビとしてバランスがいいなと思った。私は、ファーストラウンドでこのネタが一番面白いと思った。

7組目 真空ジェシカ「Z画館」

世の中には、映画館(A画館)だけではなくZ画館まで種類があるという川北さん。映画館(A画館)しか知らないガクさんが、底辺のZ画館を体験してみようというネタ。

とにかくワードセンスのボケが多い。でも、ブラック過ぎて玄人ウケのコンビなのかなと思った(初めて真空ジェシカのネタを見た)そういえば、いかにも玄人ネタ好みって感じなカズレーザーさんが推していた。川北さんのスカしたような独特なキャラは唯一無二で凄いなと思った。

どちらかというと、Z世代以降の若者向けのネタのような気がする。ハマる人にはハマるけれどという典型だと思った。私はオバサンなのであまりハマらなかったが、「映画泥棒が勝った!」というくだりは面白かった。

8組目 ダンビラムーチョ「副業でカラオケボックスをやりたい」

大原さんが、副業でカラオケボックスをやりたいというところから始まる。カラオケボックスで働きたいではなく、「カラオケボックスをやりたい」とはどういう事かというと、カラオケの伴奏部分を大原さん自身が歌ってあげるというネタ。

典型的な歌ネタ。息がピッタリあっていて、相当練習しているんだろうなと感じた。ただ、歌ネタは演芸場とかではウケるけれど、M-1向きではないという塙さんの意見と、歌ネタ以外を見たかったという中川家の礼二さん。あと、松本さんにも感触が良くなかった。

これで、歌ネタはM-1向きのネタではないとハッキリ方向性が示されたような気がする。ダンビラムーチョがちょっと可哀想になったが、それもM-1という特殊な賞レースなのだろう。

9組目 くらげ「名前が思い出せない」

杉さんが名前を思い出せないという色んなブランドの商品名を、渡辺さんがどんどん羅列していくというネタ。

これは松本さんも言っていたが、ミルクボーイの十八番をどうしても思い出してしまうネタだと思う。しかも、フォーマットとしてはミルクボーイの方が格段に優れていて、比較されてしまうのは仕方ないと思った。ミルクボーイが内海さんの例えのワードセンスや広げ方が秀逸なのに対して、こちらはただ思い浮かんだ商品名を羅列していただけでひねりが全くなかった(商品名をあれだけ覚えていて、噛まなかったのは凄いと思ったけれど)

くらげの予選ネタは凄い面白かったので、何で決勝でこのネタ持ってきたのかなと思ってしまった。

10組目 モグライダー「スター錦野はめんどくさい女と付き合っている」

錦野旦さんの「空に太陽があるかぎり」という曲で、めんどくさい女を歌っているが、その都度彼女を不安にさせない為に、ちゃんとフォローしてあげれば幸せになれるという歌ネタ。

ともしげさんの喋りの出来を相方である芝さんと観客が見守りながら進行していく特殊なスタイルだと思う。ちなみに、今回はあまりミスをしていなかった(らしい)でも、芝さんはともしげさんがミスしたらミスをイジって、ミスしなかったら代わりのツッコミを用意している(ように見えた)芝さんは、物凄いテクニカルなツッコミをしていると感じた。

演技が終わった後、ともしげさんが「緊張」を「カンチョー」と言い間違えた(わざとだとは思うが)その時に、審査員も「それだよ!」って口を揃えて言っていたので、やっぱりモグライダーの軸はともしげさんの言い間違いボケなんだなって思った。

ファイナルラウンド

1組目 令和ロマン「町工場」

普段クッキーを作っているブラック町工場が車を作ってみようとするドキュメンタリードラマを紹介するというネタ。

一番のウケポイントは、吉本興業の社員の真似だった (本当かどうかは置いといて) 1本目の時も思ったけれど、日体大にしろ、トヨタにしろ、吉本興業にしろ、個人名は出すけれど、貶して落としているのは身内だけで、あとは貶していないから、そこら辺は計算しているんだろうなと思った (1本目の低脳も自分達の事だったし)

動きもあるし、設定も意外に分かりやすくて、テンポも早過ぎず遅過ぎず聞きやすかった。

2組目 ヤーレンズ「元駐車場のラーメン屋」

店主が1人でやっているラーメン屋に行ったら、食券を先に取って後で会計をしたり、色々店のシステムが駐車場と被ると思ったら、実は元駐車場だったというネタ。

1本目と変わらずにボケの多さが秀逸だったが、どうしても1本目のネタで出てきた大家の方がキャラのインパクトが強くて、2本目はちょっと見劣りしてしまった。これ、1本目と2本目を逆にしたら、もしかしたらヤーレンズ優勝だったかも?と思った。

2本目を先にやってファイナルラウンドに行けたかどうかは、やってみないと分からないけれど……。

3組目 さや香「見せ算」

仮想通貨などが浸透してきた今、日本には数学力を養う必要がある。そこで、新山さんが数字を見せ合う「見せ算」という方法を編み出したというネタ。

完全に観客、審査員、視聴者を完全に置いてけぼりにした挙句、相方にすらツッコませない新山さんの独壇場だった。

きっと、どうしてもやりたかったネタなんだろう。でも、少なくともM-1のファイナルラウンドでやるネタでは無いのは、私みたいな素人目でも分かった。

本人達(特に新山さん?)がそれで良ければ仕方ないが、せっかく1本目が面白くて1位通過だったのに、今年もチャンスを逃してもったいないと思った。

最後に

私は初めてリアルタイムで決勝を追ってみたけれど、出場者と審査員の緊張感とか、逆に芸人のお約束でボケ倒したり、緩急があって楽しかった。

そもそも、M-1決勝まで上がってくるコンビは普段から劇場などでバリバリ活躍しているコンビばかりなので、実力はそんなに差はないと思う。

勝敗の差は、M-1でウケやすいネタ選びとか本番の調子とか、更には運も大きいのだろう。

また来年、どんなコンビが上がってくるか予選から注目したいと思う。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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