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インドネシアの首都移転

 インドネシアは、2022年1月に首都をジャワ島のジャカルタからカリマンタン島の東部にあるヌサンタラに移転することを発表しました。インドネシア語で「群島」を意味し、ジャカルタから約1200キロ離れた森林地帯で、神奈川県の面積とほぼ同じ約25万ヘクタールの土地を開発して建設されます。まさにジャングルを開発中で、人口の6割がジャカルタに集中しているので政権は地方を開発して人口集中を緩和させたい考えのようです。
 人口が1000万人を超える「メガ・シティー」と呼ばれる巨大都市圏は世界に33あります。そのうちのひとつが、ジャカルタです。2018年時点で、人口1位は日本の首都圏ですが、このままいくと2030年には日本の首都圏の人口を超えて世界1位となる予測もあります。ジャカルタは、人口集中による交通渋滞、環境の悪化、一部では毎年数十センチの地盤沈下が進行しています。これまで3人の歴代大統領が計画を具体化できませんでしたが、2019年に当時のジョコ大統領が首都移転を提案、2022年1月に議会で首都移転のための法案が可決、3月に新首都開発を進める政府機関が立ち上がりました。
 2024年2月、世界最大の2億人が直接投票するインドネシア大統領選挙で現職の国防相のプラボウォ氏が当選しました(現職の3選は禁止)。ジョコ大統領の長男のギブラン氏を副大統領候補にすえ、新首都移転など、ジョコ大統領の政策継続を訴えていましたので現在の路線は継続されるとの見方がなされています。鉱物資源の加工をはじめ、経済開発を強力に推し進め、2045年にはGDPで世界5位以内に入ることを目標に掲げています(現在は16位)。
 ジャカルタがあるジャワ島はインドネシア国土のおよそ6%に過ぎないのに、全人口の6割にあたる、およそ1億5000万人が集中しています。ジャカルタ首都圏では、およそ3000万人が暮らしており、交通渋滞や大気汚染が深刻な問題となっており、世界最悪レベルと言われています。経済格差もジャワ島と他の地域との所得格差が大きくなっており、これまで以上の経済成長を遂げるには、ジャワ島以外の開発が必要となっています。
 ジャカルタでは災害のリスクも高まっています。そのひとつが地盤沈下による洪水のリスクです。専門家によると、もともと地盤が軟弱な地域あるうえに、住民が地下水をくみ上げすぎたことで海抜0メートル以下の土地はジャカルタのおよそ20%に達しています。このまま地盤沈下が進めば、2050年にはジャカルタの総面積の40%が海面下になると予想され、堤防がなければ、その地域は水没してしまいます。
 さらにジャワ島は、巨大地震を引き起こすと言われる大きな断層帯の近くにあります。インドネシアの気象当局は、移転先の地震と津波のリスクを分析し、地震を検知する装置も増強しました。移転先のヌマンタラは、地震と津波のリスクはジャカルタと比べると比較的低いと考えられているようです。ジョコ大統領は2024年8月17日のインドネシアの独立記念日の式典を新しい首都の大統領府で行いたいと宣言していますので、7月から11月にかけて3000人の公務員をジャカルタから転勤させる予定です。2040年には新首都の人口を200万人にしたいと考えています。
 課題は移転にかかる巨額の費用をどのようにして調達するかです。およそ4兆円といわれる必要費用を海外、国内を問わず、民間企業からの投資が必要とされています。ジョコ大統領は日本、フランス、中国の首脳に打診しておりますが、想定通り、資金が集まるかどうかが不透明です。民間企業は、リスクにあったリターンには投資しますので、ホテルや病院の建設は進んでいるようです。
 民間の調査では「費用の無駄遣い」などとして、およそ6割が首都移転に反対し、反対の署名活動も起きています。さらに森林の伐採は希少なオランウータンなどの動物の生息地を脅かすのではないかとの心配の声も挙がっています。政府が描く新首都の青写真は、森に囲まれて100%再生可能エネルギーを利用するなど、環境に配慮して。ICT(情報通信技術)を活用した新未来都市をイメージしていますが、オランウータンやその生息地を保護する具体的な方法は示されていません。
 専門家はインドネシアが首都移転を決めた理由のひとつである「災害リスクの軽減」に注目しています。かつて、日本では、国会や中央省庁などの「首都機能」を移転させる議論が巻き起こりました。その理由のひとつが、東京で大規模災害が起きた時に政府が機能不全に陥る懸念があったからです。2011年の東日本大震災直後にも、首都機能の分散が必要だとの声が再び高まりました。災害多発国の日本は常に首都直下地震のリスクを抱えています。インドネシア政府が今後、新しい首都やジャカルタでどのように防災対策を展開していくのか、注目です。同様の問題を共有する日本企業がインドネシアに協力する機会もあるかもしれません。

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