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ゴミを小さくするワケ

いやぁ、しばらく忙しかったよ。デッパちゃんの仕事、このところ行事が立て込んで毎日疲労困ぱい。家に帰ってご飯作って(ここはエラいところ)、風呂に入ってバタンキューの生活が続いていた。ぼくも駐車場でデッパちゃんの帰りを待ちくたびれたよ。

気温もグングン上がって、そろそろマスクが辛い季節になってきた。暑い中マスクでしゃべっていると、知らないうちに熱中症のような症状になり、頭がガンガン痛くなってくるんだ。帰宅する車内でマスクを外すと、そこには赤い顔をしたデッパちゃんが。ケチらないでエアコン使おうよ。

ところで、外したマスク、どうやって捨ててる?表面にウイルスが付いてる可能性があるから、耳のゴムを持ってそっと外し、ポリ袋に入れてゴミ箱へ…というのが世の中推奨されてるらしいけど、デッパちゃんは小さく折りたたんで捨てている。マスクだけじゃなく、紙ゴミなんかも小さく折ってから捨てる。タマゴのパックなどのプラゴミも、ハサミで切ってコンパクトにしてからゴミ箱へ。これだけみると、マメというか几帳面というか、そういう性格なのかと思うけど、これにはデッパちゃんの切ない思い出があるからなんだ。

デッパちゃんが大学生のとき、片思いの先輩がいた。その先輩は、一人暮らししていたデッパちゃんのアパートに、バイトの帰りによく遊びにきていた。お菓子を食べて、たわいもないおしゃべりをして帰っていく先輩。これは期待しないわけがない。デッパちゃんはお菓子を買ってコーヒーを準備して、先輩が来るのを心待ちにしていた。

ある日、小腹がすいた先輩にカップラーメンを作ったときだった。食べ終わったカップをバキバキと折り畳んで小さくしていく先輩。「山ではゴミは小さくするのがマナーなんだ」。先輩は登山が趣味だった。デッパちゃんの気持ちは何故かときめいた。「そっかぁ、かっこいいなぁ…先輩」。

恋は盲目だな。あの頃のデッパちゃんは若かった。先輩のやることは全て輝いて見えた。そして、その日からデッパちゃんも先輩を真似て、ゴミは小さくしてから捨てるようになった。

そしてその恋は、次の年のバレンタインデーであえなく撃沈した。先輩にはちゃんと彼女がいたんだって。彼女がいるのにデッパちゃんのところに入り浸るなんて、今思えば都合よく使われていたんだね。デッパちゃんのほろ苦い青春の思い出だ。

あれからもう何十年も経つけど、相変わらずデッパちゃんはゴミを小さくして捨てている。先輩、元気かな。ぼくは会ったことないけどね。

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