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だいたいほんとの話

わたしがあの子のところに来たのは、20年くらい前のことでした。

あの子の妹さんがね、
プレゼントにわたしを選んで、病院に連れていったの。

あの子の15の誕生日に。

あの子はわたしで涙をふいて、たぶん鼻水もふいていたわ。
 
あの子は枕のわきにいつも、わたしを置いた。
頭に敷かれ、
首を支え、
肩に押し付けられても、
なにも言わずに耐えてきたの。

おかげでこんなにつぶれてしまったわ。
優しいって損ね。

入院するたび、
引っ越しするたび、
わたしを連れて歩くから、
すっかりくたびれて、
このざまよ。

わたしの苦労と根性、
褒めてもらいたいものだわ。


ふわふわの自慢の毛並みも
今では、見て、ごわごわ。

このかわいい足を、
洗濯ばさみで、はさんで干すのよ。
「ごめんね」で済むなら警察はいらないわ。もうっ。


左手に付いているワッペン、
これ、やけどの跡よ。
布団の上で、お灸するからだわ。
危ないったらありゃしない。
でもね、
あの子にはないしょだけど、気に入っているの。
桜の花だもの。
どう? 似合ってるでしょ?


わたしを一度も投げないとこは、あの子のただひとつの救いね。
次にどこかに行くときも、
あの子はわたしを連れていく。

わたしは毎日あの子のことを、布団の上から見てきたの。


わたしは、ぶたのぬいぐるみ。

気高く、優しいぶたなのです。

2024.4.1

左手(←ご本人)にかすかに見えるのが、縫い付けたワッペン。
名付けて、桜の絆創膏。


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