【第3戦 ~激闘~ 】60cm級との闘い【うんこファイター☆ユウ】
書かなければ、誰にも話さなければ、当人の脳内にしか存在せず、眠り続けた物語だっただろう。
自らのうんことの闘いなんて、それで良かったはずである。
そこで使われた技術、巡らされた思考、それらにどんな価値があるかはわからないけれど、うんこと共に埋もれてしまって構わない、とされるのが普通ではないだろうか。
けれども、70億を超える人々のうんこの、それぞれ1つ1つに物語があるはずである。
この闘いは、その中の1つに過ぎないけれど、光を当てるに十分な何かが「詰まって」いる。
【犯罪行為】
自分が居る個室の前で、オッサンの足音が止まった。
小便の際に、何かを落としたのだろうか?
それともここを覗こうとしている...?
オッサンの動向が気になったユウは、ドアの横の5mmほどの隙間からそーっと、外の様子を覗き見た。
ユウ:。0(あれ?見えねえぞ、真っ暗だ)
トイレに入る際、蛍光灯のスイッチはONにしていた。
ドアの隙間から外が見えるのも確認済みだ。
ユウ:。0(うわ!まさか!)
ユウは、その隙間から離れ、ドア下の隙間の方に目をやった。
オッサンのものらしき靴が、その隙間の向こうに見えた...。
これは、ドアに密着している姿勢じゃないか...。
オッサンは既に、ドア横の隙間からこちらを覗いていたのである。
お互い同時に隙間から見たために、光が通らず真っ暗にしか見えなかったわけだ。
気持ち悪ぃ...。
ここ、男便所だぞ。
そして俺はれっきとした男だ。
なんでこのオッサンは、男の大便所なんか覗いてンだよ...。
この変態野郎、この後どうするつもりだろうか?
無理矢理侵入して来る程に頭がおかしい奴なら、早々にぶん殴ってボコボコにし、動けないほど痛めつけてやる。
っていうか、俺の60cm級のうんこ、見られたかな?
いやあ、さすがに和式便器の中までは、あの角度から見えないでしょ。
それよりもなんで、ここに人が入ってる事がわかったんだろう?
そして、覗こうとまで思ったんだろうか?
気配を殺してすげー静かにしてたはずなんだけどなあ...。
あ...。
そういや俺、女物のサンダル履いてるわ。
特大のうんこウェーブに突如襲われ、いちいち靴を履いている余裕なんて無かった。
玄関に並べられた履物の中で、1アクションで素早く履ける物は、母親のサンダルしかなく、瞬時にそれを選んだのだった。
足のサイズが合ってなくてキツいんだけど、そんな事はちっとも気にならないぐらいに切迫していたから、今の今まで忘れていたのであった。
ドア下の隙間は、小便器のある辺りから見ると、ちょうど中の人の足首から下が見える。
オッサンは何気なくそれが目に入り、「なんでこんな深夜の男便所の個室に女が居るんだ?」と、訝しく思ったのであろう。
それはわかるが...わかるが...だからといって、中を覗くのは犯罪行為だよねえ...。
さっきから動きが無いが、しつこいようならこっちからドアを開けて先制攻撃してやろうか。
殴るのは犯罪だけど、向こうも犯罪やらかしてるんだからある程度はOKだろ...そうだろ...いややっぱ殴る方が罪重いよな...俺中学生だけど少年法の適用でどうのこうの...法といえばうんこは製造物責任法に当てはまらないよねきっとそうだよね、うんそうだそうだうんこ...。
っていうか本当にあれから動きが無いな、このオッサン。
もう一度見てみるか...。
再びドア横の隙間から外を見る。
今度は光と共に、小便器のあるトイレの風景が目に飛び込んだ。
オッサンは...
居ない。
あれ?足音しなかったよな...。
気付かないうちに、オッサンは消えていた。
まさか、どこかに隠れたりしてないよな?
上か?下か!?それとも掃除道具入れの中か!?
いやいや、掃除道具入れ鍵かかってましたやん。
うんこから離れるのは気が引けたが、恐る恐る、ドアを開けて周囲を確認した。
何も無い。
念のため、トイレの外まで確認した。
やはり何も無い。
知らぬ間に、オッサンは音も無く消え去っていた。
【突破】
オッサンの姿は見えなくなった。
しかしまだ、気持ち悪さが残っていた。
とても嫌な気分だけれど、見付からないオッサンをどうにかする事はできない。
オッサンの動向については諦め、ユウは再び、自らが生み落とした60cm級のそれと向き合った。
さっき思い付いた、アレをやってみよう。
トイレットペーパーを長めに切り取り、ぐしゃぐしゃに潰しながら外側を巻く。
短いながらも、トイレットペーパーの槍が完成した。
よし、これでうんこを突き、水溜りの中へ押し出せばいい。
ふにゃっ
槍、敗北。
水流波でビクともしなかった大うんこさんだ、このようなショボい槍の突きになど、屈するはずがなかった。
明らかに強度が足りない。
ならば...トイレットペーパーのロール、芯を抜いてそのままの形で使えばイケるんじゃないか?
結構強く巻き付けてあるし、強度的に勝負になるんじゃないか?
あー、でも、そんな使い方をするなんて、貴重な森林資源様に申し訳ないではないか。
うーん、1ロール予備があるし、半ロールの方ぐらい消費してもいいんじゃない?
というわけでやってみた。
形を崩さないように芯を抜く、これは容易かった。
ロールの穴に指を入れ、力を込めて、便器の後方からうんこを突き押した...。
うんこの感触が、トイレットペーパーロールを通じて伝わってきた。
柔らかくも、硬さを内に秘めた重厚なそれは、地面に貼りついたかのように動かない。
けれど、角度を変えて力を上手く伝えれば、動きそうな手応えがあった。
ふにゃっ
あ...。
その手応えを感じた後すぐ、トイレットペーパーロールは、力を失ってしまった。
角度を変えて真横から押そうとした結果、便器内に残った水分を吸ってしまい、そこから軟弱になってしまったのであった。
あ~~~~~~!!
もう少しで動きそうだったのに!
残っている1ロールの方が、厚みも強さもあるし、芯を抜いてもう一度トライしてみようか?
森林資源様には非常に申し訳ないが、状況が状況なので勘弁願いたい。
これでダメなら、もはやマイ★ハンドで直接攻撃するしかなかろう...。
ん?
芯、そうそう、芯よ。
抜いた芯の方を使えば良くない?
あれなら、水そんな吸わないし硬くない?
早速やってみる。
ロールよりも硬く、手応えがある。
が、押す面積が狭い。
...こうなりゃ二刀流、いや、二芯流だ!!
芯が無くてもロールは使えるからいいだろう、と、予備の1ロールの方の芯も抜き、両手に芯を持ってうんこを突き押す。
動いたァ!!
僅かに、うんこが前へズレた。
けれど、その後は、うんこが意思を持って踏ん張っているかのような重量感が伝わるのみで、それ以上は動かせず止まってしまった。
そうこうしているうちに、トイレットペーパーの芯が水を吸い、弱体化しそうな雰囲気を醸し出してきた。
こいつが折れたら負け確定レベルに苦しくなる。
合わせ技だッ!!
希望は見えてきた。
今まで試した全ての技と力を合わせて、この強大な敵に挑めば、人類の平和な世界を掴める...きっとそうだ!
芯二刀流では、押す面積が狭い。
そこで、芯の先にトイレットペーパーを折り畳んで巻き付け、当たる面積を増やす。
それに加えて、水流波で援護する。
押す事でできた隙間に水が入れば、巨岩の如き踏ん張りを見せるこのうんこも、さすがに滑りやすくなるであろう。
もうやるしかない。
水流波ァ!!
勢い良く、和式便器から放たれる水。
やはりというかなんというか、それだけではビクともしない。
水流波が尽きる前に、ペーパーで補強した芯の槍を用いて、二刀流の突き押しを炸裂させる!
行けぇえええええええ!!!
ドゥゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
芯二刀流で押し出したその隙間に、水流波が入り込む。
60cm級のうんこは、一瞬少し前にズレた後...
蛇のようにうねり、和式便器の水溜り部分へ落ち込んでいった。
...続く...
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