【第9戦】ジャンピング屁【うんこファイター☆ユウ】
思い込みや誤解はなるべく少なくしたいものだ。
それらのせいで、正当性の無い攻撃を他者に向けてしまいかねない。
真実に気付いた時、「悪いのは自分だった」と知った瞬間はかなり恥ずかしい。
それが恥ずかしいと感じられない人は、恥というものを識るべきだ。
【匂いフェチ】
ツマは匂いフェチだ。
ユウの腋の下の匂いが大好物だ。
ツマ:「1日1回はクンクンさせろや。」
変態である。
隙を見ては、ユウの腋の下に鼻先を突っ込んでくる。
人語を喋る大型のペットと見做しても、可愛げよりも鬱陶しさが勝る。
腋の下だけでなく、耳の裏付近もイイ匂いがするらしい。
そのうち、尻も嗅ぐとか言い出して、変態も極まってきた感がし始めた。
ユウは対策を考える必要に迫られた。
腋の下を嗅ぐために不意に服と腋の間に指を突っ込まれたりし、その気持ち悪さが尾を引いて、日常的にストレスが溜まってきていた。
分別を知らないツマに対して、丁寧に言葉を並べても理解に至るまで恐ろしく時間がかかる。
物理ダメージを食らわせれば早いのかもしれないが、家庭内暴力に晒されて、加害者への殺意と共に育って来た経験があるユウは、そうした手段は選択肢から除外した。
そこで、ある時期から、ユウはツマに向けて屁をこくようになった。
匂いフェチに対して、悪臭で反撃してやるのだ。
どちらも同じ人間からの匂いだぞ~、状況判断と分別を身に付けなければ、悪臭でカウンターしてやるぞー。
こうした教育方法が正解かどうかは確信が持てなかったが、バカさにはバカさで、変態行為には変態行為で対抗する、それがなんか良さそうな気がしたわけで、ハイ。
【ツマの悪習】
この頃のユウは、かつての体調不良を克服しており、ツマより早く起きるのが常だった。
一方で、ツマは寝起きが悪い。
何か予定がある日には、ツマは起きるためにアラームをセットする。
そして小刻みなスヌーズも同時に設定する。
これの被害をユウは一方的に受ける。
ツマは眠ったままで、反応すらしない。
その日はツマが病院に行く予定で、医師と詳しい話をするために、ユウも同行する事となっていた。
そして、例によってユウはアラーム被害に遭う。
アラームなんかかけなくても、ユウが自動的に起きてツマを起こすのだから、この行為はユウにとっては嫌がらせ以外の何者でもない。
案の定、ツマはアラームに気付く事もなく、予定時間が迫ったところでユウが起こすしかなかった。
それでいて、ユウに甘え、腋をクンクンさせろだのなんだの要求した挙句...
ツマ:「寿司食べたい。」
と言い出した。
うん、寿司は良いんだよ、寿司は。
元々その予定だったしね。
病院までは、歩いて片道30分程度の距離だ。
バスで行けば早いが、健康のために歩くようにしていた。
その病院までの道程の途中に、回転寿司の店がある。
ツマはこの店のサーモンがお気に入りだった。
あれやこれやで遅くなったが、いちいち小言をするともっと時間が遅れるので、ユウは我慢して黙っていた。
黙って...そう、口では黙っていたが、今回は尻穴でモノを言う事にした。
ジャンピング屁!!!!
【ジャンピング屁】
説明しよう。
‘ジャンピング屁’とは、ユウが開発した屁技である。
対象者と横並びに歩いている状況で、唐突に上方向へジャンプしながら、腰を半回転させつつ、対象の顔に自分の尻穴が最も近付いた瞬間に、全力で屁を放つのだ。
ドバブゥウウウウ!!!
勢い良く屁は放たれた。
ツマ:「ああーッし!!」
ツマ:「なんですかあ!!」
ユウの奇襲を受けたツマのリアクションはこれである。
うむ、イタズラを仕掛けられた小学生の女の子みたいだね。
【寿司屋にて】
ともかく、寿司屋に辿り着いた。
金銭的に裕福ではない...いや、正直、どちらかというと貧乏と評すべき経済状態の2人にとって、この寿司屋は庶民的な値段であり、提供される寿司の質とその金額のバランスが良く、こうした機会に行くのに最適な店だと言えた。
少食気味の2人は、好きなネタを厳選して注文する。
あれもこれもと頼めるほどには、胃袋は広くない。
なんだかんだで気持ち良く寿司を食べたところで、ちょうどいい時間になり、2人は席を立った。
その瞬間、ユウは異変に気が付いた。
ユウ:「なんか臭くね?」
異臭は、ユウの座席付近から漂ってきていた。
どこかで嗅いだような臭いだ。
ユウ:「老婆の尿みたいだ...」
亡くなる前のひいばあちゃんの部屋からした臭いとそっくりだ...。
これってもしかして、この席に座った1つ前のお客さんが老婆で、ここで漏らしてしまったのんじゃないのか?
そういえばこの店、寿司の皿は片付けるけど、座席を拭いたりはしないもんな...。
ユウ:「病院から帰ったら、店に電話してみるわ。」
これは酷い。
老婆の尿が残った椅子に座らされるとは。
さすがにこれは1本電話をして、注意喚起すべきだ。
【異臭の正体】
寿司屋を後にした2人は、病院へと向かった。
老婆の尿の臭いは、どこかのアルコールを使って何とかしたい。
何ともならないようなら、自分だけいったん家に帰るしかないな、などとユウは考えていた。
ユウ:「あれ?ケツが濡れとるわ。」
思っていたより被害は酷かった。
いや、これ、外から染みた感じじゃないぞ...。
その臭いは、ズボンの内側のパンツの、さらに内側から生み出されていた。
ツマ:「ユウしゃんそれ...」
ユウ:「寿司屋のせいじゃなくて、私が下痢をしていたんだね...」
危うく寿司屋に不当なクレーム電話を入れるところだった。
まあそれは回避できたしいいとして、問題は下痢である。
これでは病院に入れない。
ツマ:「ユウしゃん、これを腰に巻いてください。」
ツマはそう言って、自分の服をユウに渡した。
ユウ:「この服って、病院の中がエアコンで寒い時に着るやつじゃん。」
ツマ:「いいんでしゅ。寒いのは我慢できましゅ。病院には1人で行きましゅから、それを腰に巻いて、帰って早く着替えてくだしゃい。」
つ、ツマよ...(感)。
「病院の待ち時間は暇過ぎるから付いて来い」「1人だと寂しいから飯食いに付いて来い」「うるせえいいから付いて来い」などと、普段はとにかく1人で行動したがらない甘ったれのツマが、この状況で気遣いをし、なおかつ自立の精神を見せ付けている...。
ユウ:「ありがとう...。じゃあ、帰るわ。」
ユウ:「病院では、医師から聞きたい事を自分でしっかり質問してね。」
ツマ:「わかりましぃた。ユウしゃんも、気をちゅけて帰ってくだしゃい。」
ユウは、ツマに感謝しつつ、踵を返して家の方向に歩き出した。
片道20分。
普段のユウにとっては大した距離ではないけれど、この日の尻の状態では、なかなか嫌なものがあった。
不幸中の幸いで、信号待ちで歩行者に後ろに立たれるとか、近距離ですれ違うとか、そうした状況は無かった。
高速で疾走中の自転車に追い抜かれたりすれ違ったりしたぐらいだ。
ただ...歩けば歩くほど、尻の状態は悪化した。
最初はなんだか濡れて気持ち悪い、ぐらいの感覚だったのだけれど、そのうちチクチクし始め、家に帰り着く頃には尻全体がヒリヒリしていた。
おむつの時期の赤ちゃんの尻がかぶれる現象を思い出した...。
赤ちゃん時代ならともかく、もうすぐ40の大台が見えているというのに、このザマはなんだ...。
人としての何かが、ユウの脳に悲哀の成分を醸し出した。
それが脳内全域に行き渡る中、ユウは自分のパンツとズボンを、丁寧に手洗いし、洗濯機に入れて回した。
...ところで、何故こんな事になったのだろうか?
ユウは朝食を欠かさないタイプだ。
朝はツマは絶対に起きて来ないので、1人で何かを食べるようにしている。
面倒な時は、ゼリーを飲んで済ませる。
この日はゼリーだった。
そういえば、ゼリーを飲んだ日は、お腹が緩くなりやすいな...。
緩くなっていたのに気が付かなかったんだな...。
あと...
ジャンピング屁...あれがアカンかったんや...。
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