【第6戦】辞めちまえよ【うんこファイター☆ユウ】
仕事に対する考え方は、人それぞれ異なるものがあると思う。
中でも責任感は、関わる人全てと仕事のクオリティにも大きく影響がある要素だ。
基本的には責任感は強い方が良いけれど、強過ぎると悪い結果に繋がる場合もある。
責任感の強い人は、それによって自分を圧迫しがちだ。
自分自身のそれに耐えきれず、心身を壊すまでに至る人も存在する。
逃げずに完遂する事は社会的にとても大切だと思う。
しかし、あまりにもクソな環境や状況で、無理をして自分を壊したり、死に至りそうならば、思い切って「逃げ」という選択をしてみても良いのではないか?
それが最善の判断というのも実はありえるのだから。
とはいえ、逃げ癖が付いた奴は本当に使えねえんだわ。
仕事で関わりたくねンだわ。
【体調不良】
その日は朝から体調が悪かった。
その日?いや、実は毎日だ。
学校を卒業する少し前から、ユウは心身の状態が優れない日が多くなっていた。
肉体的な検査では特に異常が出ず、精神・神経方面から来る不調の疑いが大きかった。
ところが、症状としては鬱や自律神経失調症が当てはまるものの、医師の診断ではそうした「病気」という括りの中には入らなかった。
「未病」と言われる状態だろうか?
会社に就職してからも、その不調は続いていた。
毎日、起きるのがとても辛い。
頭が重く、目を開ける事すらもダルい。
気分も、頭も、ずーんとした重い疲労感が抜けないまま、仕方なく起きて、仕方なく毎日を消化していた。
そんなコンディションが続く中でも、ユウは真面目に現場に向かった。
その仕事はちょっと特殊な会社と契約形態で、内容としては現場作業も含むルート営業、と言うべきものだった。
広いエリアを任されたユウにとって、車は大切なパートナーだ。
会社に就職するに当たって、ユウの母親は、自分の乗っていた車を、保険の対象年齢を切り替えた上でユウに譲ってくれていた。
その車を快調に飛ばして、ユウは現場の駐車場に到着した。
所属会社に、始業連絡を入れる。
いつもに加えて、腹の具合もなんだか良くない。
現場入りする前に、どこかでトイレをお借りすべきか...。
【一瞬の奇襲】
車を下りようと、運転席のドアを開けて尻を浮かした瞬間だった。
ブリュッ!ブバァアアアア!!!
ユウの肛門投手は、虚を突かれた一撃を食らい、セーブ失敗したのだった。
一連の攻撃を、パンツ捕手も受け止めきれず、今季絶望レベルの重傷を負った。
ユウ:「マジか...」
原因不明の脳の疲労が酷いせいか、独り言が増えたし、溜息も多くなってるなあ。
まあでもこの状況なら、そうでなくとも声が漏れてしまうわ...。
声じゃない何かが肛門から漏れたからね!!
こうなってしまっては、今すぐの現場入りは絶望的だ。
スーツにネクタイでビシッと決めて、「おはようございます!」と元気な声を発した人物から、糞便の臭いが全方位に解き放たれてしまったのならば、もはや商談や作業どころではない大迷惑であろう。
一度、事務所兼自宅に引き返す事にした。
運転席のシートには、母がかつて使っていたタオルケットが、座布団代わりに敷かれていた。
運良く...いや、ウンは悪かったのだけれど、そのタオルケットのおかげで被害が車にまで及ばなかったのは、不幸中の幸いと言えた。
【その後】
事務所兼自宅に帰ったユウは、急いで着替えた。
肛門から放たれたブツは、ほぼ液体であり、うんことは到底言えないゲリだった。
それはパンツを貫通し、スーツのズボンを汚染していた。
ユウはそれらを手洗いし、体調が落ち着くのを待った。
あまりにも恥ずかしい話ではあるが、予定時間に現場に入れていないのだから、所属会社に報告を入れなければならない。
心の底から湧き上がる嫌ーーーな気持ちを抑えて、ユウは会社に連絡した。
すると、意外にも、ゲリで現場に入れなかった事自体は責められはしなかった。
しかし...
「そのような事態を想定していないのが問題。」
「何が起きても仕事を遂行できて、評価を下げない事前準備が不足している。」
「『結果』を残せるなら現場にすら行かなくても良い。そういう環境作りをすべきだった。」
などという叱責を受けた。
なるほど、そういうものか。
それが「プロ」というものなんだな、うんうん。
ある程度納得はできた。
しかしながら、土日の休み無し、現場終了後に全く別の業務の事務処理までやり、実拘束時間は1日あたり18時間~20時間。
「国が決めた労働基準法は関係無い。社長の判断が全て。」などと言い切る超絶ブラック会社ぶり。
それで「1日4時間も寝れたら十分だろ(笑)」などとほざかれる始末である。
この日ユウの尻の穴から出て来たブツと同じぐらい悪臭のするこの会社。
にも関わらずユウは、慢性的な体調不良を抱えつつ、ここから更に3年も頑張り続けて円満退社した。
ちなみに、正社員クラスの人間が3ヶ月で半数入れ替わるような環境で、その「居なくなった人達」は、円満退社なんてありえず、無理矢理クビを切られるか、現場に行ったフリして自ら消えるかのどちらかしかなかった。
「円満退社」と言える状況まで行ったのは、ユウが初めてだったようだ。
こうした悲惨な何かが起きたのをキッカケに逃げてしまった方が、ユウの貴重な人生の時間は無駄にならなかったのではないか?という見方もできる。
心身をすり減らして円満な形を作ったその努力は、何かで報われてほしいものだけれど...そんな話は聞こえて来ない。
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