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【第7戦】在野の盗塁王【うんこファイター☆ユウ】
大人と呼ばれる年齢になってから、全力で走る機会はどれぐらいあるだろう?
何らかのスポーツをしていればその機会に恵まれるけれど、そういう時間すら持てないような社会人は、どんな時に全力疾走するだろうか?
人や車が行き交う都市部では、それらを上手く避けつつ走らなければならない。
瞬時の状況判断の連続だ。
かつ、走る方も全力となると、何にも当たらずに目的を成し遂げるのは難易度が高い。
野球の盗塁も、レベルの高い環境では、単に走るのが速いだけの人の成功率は大して良くなかったりする。
そういえば、学校でパシリをさせられていた主人公が、アメフトにおいては最強のランナーの素質を持っていた、という漫画作品がありましたね。
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【オフ会】
インターネットは素晴らしい。
長引く体調不良によりひきこもりがちになっていたユウにとって、多くの人との繋がりを持たせてくれるなど、人生を歩む上で貴重というか、もはや必要不可欠な要素だった。
ショウは、昔から吃音があり、コンプレックスを抱えていた。
鬱症状に苦しむ様や、自分の弱さを隠さずSNSで発信していたユウを見付け、共感する部分が多くあったようで、すぐに親しくなった。
ユウが会社を辞めて自由の日々を過ごしていたある日、ショウはユウをオフ会に誘った。
凄まじい時間拘束によって、情報や人間関係にかなりの制限を受けていたユウにとっては、久し振りに気軽に新しい出会いを求められるチャンスだった。
この誘いを二つ返事で承諾し、ショウの地元で行われたオフ会に参加した。
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【渋滞】
ユウは、このオフ会に、主旨も何も知らないまま参加していた。
なおかつ、インターネット上でやり取りを1度でもした事がある相手は、ショウしか居なかった。
それでありながら、平然とその輪の中に入り、同性・異性合わせて数名と連絡先を交換し、それなりに親しくなった。
これは元々持っていた天性のキャラクターに加え、あの超絶ブラック会社等の社会経験で身に付けたスキルでもあった。
オフ会からの帰りは、ショウの運転する車に同乗させてもらった。
車の中で、オフ会に参加している女性の1人をショウが狙っていると知り、その話でしばらく盛り上がった。
車が都市の中心部に差し掛かると、渋滞が激しくなってきた。
ユウ:「ショウさん、実はさっきからうんこしたいんですけど、どっかトイレ使える所入れます?」
ショ:「あー、コンビニかなあ。車線変えないといけんけぇ、もうちょっと我慢してな。」
その「もうちょっと」、15分を経過してもなお事態は好転しなかった。
ショウは巧みに車をねじ込み、車線変更には成功したのであったが、悪化する渋滞により、この15分で進んだのは数メートル程度だった。
ユウ:「車が数センチ進むのと、私のうんこが数センチ顔を出すの、どっちが早いかってレベルになってきました。」
ショ:「そ、それはヤバいね。ちゅ、中央分離帯またいだ、またいだ反対側になるけど、こっ、こっ、この先に、こっ、コンビニがあるから。」
ユウ:「そこまでどれぐらいかかります?」
ショ:「渋滞じゃなければ2分~3分のもんだけど、もしよ、もし、もしほんまにヤバいようなら、お、降りて走った方が、は、早いと思うわ。」
この時はまだそんなやり取りができる程度には余裕があった。
しかし、この渋滞の状況下では、さらに15分を要しても、通常2~3分の距離を進む事はできなかった。
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【走る】
一般的に、便意を催してから、人間はどれぐらい我慢できるものなのだろうか?
その平均時間を知りたいわー...などと考えていられるうちはまだ良かった。
渋滞に巻き込まれてから約45分、鍛え抜かれたユウの肛門様も、とうとう限界を迎えて昇天寸前であった。
ユウ:「あーーっ、もうヤバイです。」
ショ:「もうそこ見えとるけん、走って!!中央分離帯の向こう!気を付けて!!」
ユウ:「うぁいっ!!」
助手席のドアが開くと、素早く左右の状況と、自分が進むべき方向を確認する。
そしてコンビニの位置を認識するや否や、ユウは肛門を締めつつ全力で走り始めた。
実家から深夜の駅に向かったあの時の、奇妙な競歩的進行術とは違い、膝下を素早く動かして、地面を舐めるような新しい走りをユウは繰り出した。
車の間を抜け、歩行者をサイドステップで躱し、車の中から見えたLAWSONに辿り着いた。
そしてトイレを発見する。
ドアノブに手をかけようとしたその時、赤いラインが目に入った。
ーー使用中ーー
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【再び走る】
たまらずドアをノックする。
すぐさまノックが返って来た。
しかし、そこから人が動く気配が無い。
水流波の音もしない。
このトイレで闘っているファイターは、長期戦になっているのかもしれない。
その闘いが終わるのを待つ余裕は無かった。
ユウは、別のトイレを探す決断をした。
LAWSONを出て、左右を素早く見る。
視界の端に、ファミリーマートの看板が入った。
その刹那、ユウは体をそちら側に捻り、先ほどのダッシュを始めた。
人と人との隙間をかいくぐり、肩や肘をぶつける事無く、といって減速もせず、一気にファミリーマート内まで駆け抜けた。
ここのトイレは2つあった。
1つは女性専用だが、この緊急事態だ、入っても許されるだろうっていうか許してくださいもう余裕ありません。
ーー使用中ーー
2カ所ともに使用中かつ、出て来る気配0。
これもう詰みだろ...と常人なら諦めてもおかしくないが、ユウは違った。
すぐさまファミリーマートを飛び出すと、さらなる目標を探す。
やや遠いが、少し先の十字路を、斜めに渡った先に、サークルKサンクスが見えた。
この距離は...もう...本当に本当の...ギリギリだ...。
一瞬も迷ってはいけない。
車と車の間を通り抜け、なおかつ、交差点での車の動きを邪魔しないよう、歩行者にも、車にも影響を最小限しか与えないルートを見出し、そこを全力で駆け抜けた。
サークルKサンクスに辿り着いた時、うんこは肛門の守備を突破する寸前だった。
頭が出そうだと感じた時、トイレに辿り着いた。
ーー青いラインーー
それは、空室を示していた。
すぐさま飛び込むと、急いでズボンを下ろした。
セーーーーフ!!!!
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【スカウト現る】
うんこを出し終えてコンビニを出ると、1台の車がユウの目の前に停まった。
ショ:「ほい、乗って乗って。」
ショウは、ユウの動きを車内から見ていたらしい。
サークルKサンクスに入ったのを知り、そこに車を向かわせてくれたのだ。
ショ:「いやー、凄い走りだったわ。人って、あんなに速く走れるもんなんだね。」
なんか、妙に感心されてしまった。
ショ:「よく車に触れんかったね。人とぶつかりそうなのに一瞬で避けとったよね。すげーわ。」
ショ:「あ、あのさあ、ユウくんさあ、ひ、広島カープの入団テスト受けてみん?盗塁王...盗塁王なれるで、ジブン。」
生粋の広島ファン、うんこファイターをスカウトしてしまう。
ええんかそれで...。
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