見出し画像

格差と分断による絶望という世界共通の病魔を強靭な映像で綴った傑作「象は静かに座っている」

 234分にわたって緊張感を維持し続け、観る者を引き付ける傑作です。

 格差社会による苦しみと、分断による孤立は、世界共通の課題となりました。
 出口のない閉塞感に押し潰されそうになりながらなんとか生きる人たちは、希望を見出せない状況を誰かのせいにしようとします。強烈に責任転嫁をするその姿は、他者には極めてこっけいに映ります。しかし、それを嘲笑する人も他方からはとても哀れな姿に見られ、そこには断絶しかありません。

 これは、SNSを見れば一瞬で理解できることでしょう。例えば我が国においてはネトウヨとパヨク、ツイフェミとアンチフェミニスト、緊縮派とリフレ派など、あらゆる界隈で展開される争いは、絶望感からくるやり場のない怒りが動機となって、ただただお互いを激しく攻撃し合いますが、決して交わる点を見出そうとはしません。

 そして、そのような世界を、若干29才の若さで234分の作品として切り取ったフー・ボー監督は、この作品を完成させた直後に自ら命を絶ちます。

 フー・ボー監督の死は、これからの世界に希望は見出せないという諦めなのでしょうか。最後のシーンで聞こえる象の鳴き声は、世界の終わりを告げる断末魔のように聞こえます。
 一方で、深夜バスに乗り合った見知らぬ人たちが羽蹴りをする光景と象の鳴き声が重なることで、新しい世界の扉を開くファンファーレにも聞こえなくもありません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?