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足立実の『ひと言』第22回 「責任転嫁を許すな 国鉄分割・民営化」 1985年10月10日

 『盗っ人だけだけしい』という言葉がある。泥棒が被害者に謝罪するどころか逆に被害者を脅かすという恥知らずな有様を言ったものだが、中曽根自民党の姿はまさにこの一語につきる。
 国鉄が赤字だというなら、まず国鉄を経営した者の不始末である。国鉄総裁以下理事、それを任命監督した運輸大臣、総理大臣、この連中が予算、人事、企画、路線、借金などいっさいの決定権をにぎり、選挙目あての赤字路線、安い貨物運賃、各種工事、国有財産の払下げ、企業競争で国鉄の足をひっぱるなどして自民党と財界に奉仕してきたのであり、現場で日夜働く国鉄職員には何の責任もない。
 土下座して国民と国鉄労働者に謝るべき大臣官僚が、逆に国鉄労組に責任を転嫁している。何とあくどい話ではないか。
 臨教審も、教員の採用を厳しくする。一年間は条件付採用、適格審査会で審査などの案を公表しているが、日教組を排除して自民党の言うなりになる教員にしようというねらいは露骨である。
 教育の『荒廃』というが、子供は社会情況を反映するのであって、総理大臣が五億円横領したり、戦犯を祭っている靖国神社に参拝したり、政財界が政権を利用して私利私欲を貪っている世相のもとで、まともな教育は成立つわけがない。
 戦後四十年政権を牛耳ってきた自民党が国民に土下座して謝るべきなのに、逆に右翼と共同戦線で日教組を攻撃している。
 私たちは国鉄労働者、教員の闘いを断固支持し中曽根自民党を追及しよう。(実)

(画像は「盗っ人たけだけしさ」で右に出るものはいない中曽根元首相の死去を報じる東京新聞の2019年11月30日の夕刊記事。「国鉄改革 労組を標的」の見出しが付けられた)

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注釈

・国鉄
現在のJRの前身である日本国有鉄道。
1987年、分割・民営化(国鉄分割民営化)され、北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の6旅客鉄道株式会社と日本貨物鉄道株式会社、新幹線鉄道保有機構の8社となった。
国鉄分割民営化は、第3次中曽根内閣が実施した行政改革であるが、真の狙いは国有財産である国鉄を資本家の食い物にし、また戦後の戦闘的労働運動を牽引してきた国鉄労働組合(国労)を解体することにあった。

・臨教審
臨時教育審議会。通称「教育臨調」
足立実の『ひと言』第12回 「学校へ行こう」 参照https://note.com/minoru732/n/n2fe57f8802c4

・「総理大臣が五億円横領したり」
ロッキード事件を指す。
1976年に発覚したアメリカのロッキード社の航空機売り込みに絡む戦後最大の汚職事件。
疑惑の中心は、時の総理大臣田中角栄が5億円を収賄したというもので田中は逮捕され、懲役4年の実刑判決が言い渡された。 
この事件は自民党の長期政権の結果生じた政界・官界・財界が癒着した構造汚職であり、田中角栄に象徴される自民党政治の金権体質を表すものであった。
足立実の『ひと言』第5回 「誰がバクロするか ロッキード事件」参照https://note.com/minoru732/n/n3c471d99a554

・「戦犯を祭っている靖国神社に参拝したり」
中曽根康弘の靖国神社公式参拝を指す。三木武夫など歴代首相は私人として靖国神社を参拝していたが、中曽根内閣は内閣官房長官の私的諮問機関「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」の報告書をうけ、1985年の敗戦記念日に初めて首相と閣僚の公式参拝を行なった。
しかし、中国などの強い反発をうけた中曽根康弘首相は翌1986年から公式参拝を中止。その後は1996年に橋本龍太郎首相が、2001~06年に小泉純一郎首相が、2013年に安倍晋三首相が公私の別を明言せず靖国神社に参拝している。

・「戦後四十年政権を牛耳ってきた自民党」
厳密には自由民主党(自民党)は1955年11月吉田茂・緒方竹虎の自由党と鳩山一郎の日本民主党とが合同して結成されたが、それ以前の戦後の政治も自民党の前身であるそれらの保守政党が担ってきたことを表している。

・日教組
日本教職員組合。1947年6月に結成された都道府県単位の教職員組合の連合体。「教職員の経済的・社会的地位の確立」「教育の民主化と自由の獲得」「平和と自由を愛する民主国家の建設のための団結」の3点を綱領的方針としてかかげ、6・3制の完全実施、生活賃金制の確立などへの取組みから出発した。そして、朝鮮戦争下「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンをかかげ、1951年サンフランシスコ講和条約が締結される時点で平和四原則を支持し、同時に自主的・民主的教育研究活動を学校や地域、県、全国の各レベルで組織した。

・「右翼と共同戦線で日教組を攻撃している」
例えば・・・
〈1982年6月18日朝、日教組にとってショッキングな出来事が起きた。日本教育会館6階にある日教組本部に右翼団体の男が侵入して拳銃を発射し、弾が若い書記に当たって怪我をしたのだ。その朝、私は出勤前に人に会っていて9時半ごろ教育会館に入ろうとすると、入口で書記が待っていて「いま書記局に拳銃を持った右翼の男が『槙枝を出せ』とわめいています。早く逃げたほうがいいですよ」と言った。私は「これは危ない」と思い、引き返して九段下の喫茶店に行き、時間をつぶした。〉
『労働・教育運動に生きて80年』槙枝元文自伝より
槙枝元文は元日教組委員長・総評議長

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前回に続き「責任」をキーワードにしたコラム。

今回は敵権力の「責任転嫁」を問題にしている。

中曽根の「行政改革」と称した労働者・市民に対する国鉄分割・民営化攻撃や臨教審攻撃を厳しく批判した内容である。

このコラムの2年後、国鉄は分割民営化され、1047名が国鉄を解雇され長い解雇撤回闘争が闘われることになる。

「私たちは国鉄労働者、教員の闘いを断固支持し中曽根自民党を追及しよう」というのは筆者のこれからの闘いに対する戦闘開始宣言でもある。

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