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【交流分析で考えるモヤモヤシーンのコミュニケーション③】~となりのおばあちゃんから五千円~

この記事は当院のクライアントの体験談をもとにしたコミュニケーションの練習問題です。トピックの提供は、当院でエゴクラム分析と気功メニュー「愛05」「固着した悪意の解体」を受けていただいた方に限らせていただいてます。
当記事のトピック提供者は50代男性・C田さんです。

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(個人が特定されないよう、設定などは変えてあります。そのうえで、提供してくれた方の許可を得て掲載しています。)

となりに住んでいる一人暮らしのおばあちゃんにお使いを頼まれました。たいしたことではないのですぐにしてあげたのですが、そのお礼にと五千円もくれました。「そんなのいいから!」と断っても「いや、私があんたにあげたいんだ」といってお金を渡されます。そのことをうちに帰って奥さんに話すと、その月はお小遣いをくれなくなります。
時々おばあちゃんは僕に頼みごとをしてはこんなふうにお礼をくれますが、もらっても扱いに困ってしまいます。半年に一回くらいの頻度なので、そのことで「常に悩む」というほどではありませんが。頼みごとの内容は、家の前の草刈りやお米の精米、買い物などです。
おばあちゃんは以前、息子さんと二人で暮らしていました。数年前に息子さんが急病で亡くなり、それ以来となりに住む僕たち一家がおばあちゃんを見守り助けてきました。僕以外の他の家族もおばあちゃんからお使いを頼まれることがありますが、お礼にお金を渡されているのは僕だけのようです。

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問い
となりのおばあちゃんの気持ちを考えて、もらったお金の扱い方を次の①~⑤の中から選びなさい。その際に5つの自我状態(※1)と3種のやりとり(※2)のどれを使うのがふさわしいか考慮すること。

①「こんなのたいしたことではないから、五千円ももらないよ」と言って、その場で返す。

②もらったことを奥さんに正直に話し、「これとは別に今月のお小遣いもちゃんとほしい」と言う。

③奥さんには内緒で自分のお小遣いにする。

④おばあちゃんからの「感謝の気持ち」として受け取り、C田家の家計に入れる。

⑤となりのおばあちゃんが困った時に使えるように「おばあちゃん基金」として取っておく。

(※1)「5つの自我状態」は交流分析の理論です。簡単に説明した表を以下に載せます。

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詳しくは以下のマガジン記事をご覧ください。

(※2)「3種のやりとり」は交流分析の理論で、以下の3種類の交流を指します。

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詳しくは以下のマガジン記事をご覧ください。

≪解説≫

おばあちゃんの行為には、彼女のさまざまな気持ちが込められていそうですね。たとえば、
〇「ちょっとしたことも一人ではできなくて情けないので、人に頼ることに罪悪感がある」(Cの自我状態のエネルギー)
〇「となりの家にいつも世話になるばかりではいけないので、自分ができる形のお礼をしたい」(Aの自我状態のエネルギー)
〇「C田さんを自分の亡くなった息子であるかのように考えている」(Pの自我状態のエネルギー)
などです。図に表すと、こんな感じです。

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おばあちゃん自身も、心の中にあるそうした気持ち一つ一つにすべて気づいているわけではないかもしれないし、また区別もついていないかもしれませんね。そうした複雑な気持ちをひとかたまりにしてお金に込めてC田さんに渡しているようにも見えます。
そんな五千円をまともに受け取ると、C田さんがモヤモヤしてしまうのは無理もないことかもしれません。C田さんがスッキリするためには、「おばあちゃんのどの気持ちに反応したいか」をよく考えて応ずることが大切です。C田さんが応えたいのは、おばあちゃんのどんな気持ちでしょうか?この点を明確にした上で主体的に関わることができれば、スッキリ感のあるコミュニケーションになると思います。

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①「こんなのたいしたことではないから、五千円ももらえないよ」と言ってその場で返す。

Aの自我状態のみで返すとこのようになります。この反応は、おばあちゃんの気持ちに応じたものにはなり得ないでしょう。お金のやりとりについてはその場でスッキリするかもしれませんが、気持ちの面では少しモヤモヤしてしまうかもしれませんね。

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②もらったことを奥さんに正直に話し、「これとは別にお小遣いもちゃんとほしい」と言う。

おばあちゃんが「人に頼ることに罪悪感がある」という思いを持っているとしたら、②はその罪悪感をもろに受け取ってしまったような反応になります。
②の選択肢には「正直に」という言葉が入っています。奥さんに「正直に」話すということは、内緒でもらっては「罪悪感がある」と感じているということです。
なぜこのようなことになるのでしょうか?心理の面から説明してみましょう。
おばあちゃんが「ちょっとしたことも一人ではできなくて情けないので、人に頼ることに罪悪感がある」と思っているとしたら、それはおばあちゃんのAC(順応した子ども)の自我状態から来る気持ちです。
「C田さんが私の頼みを聞くのに大変な思いをしているから、五千円で埋め合わせてチャラにしてほしい」…表面上だけで解釈すると、そういう感覚と言えるかもしれません。交流の矢印で表すと下の図のようになります。

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ACは「自分を抑え周囲に順応する」という側面を持っています。それは社会で生きていく上で必要な性質です。しかしACのエネルギーが強くなり、あまりに自分を抑えすぎると「抑圧した自分の気持ちを誰かに代わりに体験させてしまう」ということが起る場合があります。
この場面で言うと、「おばあちゃんが抱いている罪悪感をC田さんが代わりに体験してしまう」ということです。五千円は、ちょっとしたお使いのお礼にしては少し大きい額かもしれませんね。奥さんに内緒でもらってしまっては罪悪感をおぼえる金額かもしれません。このようなことをおばあちゃんが明確に意図したわけではなくても、結果的にそうなってしまうことがあります。おばあちゃん自身も気づかないような心の深いところで、ACのエネルギーが引き起こす事態だといえるかもしれません。

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②の選択肢のような反応をすれば、C田さんはおばあちゃんの罪悪感を代わりに体験することになってしまい、モヤモヤした気持ちがあとに残るのは無理もありません。
でも、たぶんおばあちゃんの五千円に込められた複雑な気持ちの中には「罪悪感」以外にも「感謝」や「愛情」といった良い感情も入っているのでしょう。②の選択肢のような反応は、その中でわざわざ「罪悪感」だけをクローズアップしてしまうような結果になります。それでは、おばあちゃんにとってもあまり良くないかもしれませんね。

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③奥さんには内緒で自分のお小遣いにする。

おばあちゃんの中に「C田さんを自分の亡くなった息子であるかのように考えている」という所があるとすれば、③はその気持ちに応ずることになり得ます。おばあちゃんは自分より先に息子さんが亡くなって、さみしい思いをしているのかもしれません。だから、自分の息子にお小遣いをあげるような気持ちでC田さんにお小遣いをくれるのかもしれません。その場合、おばあちゃんのPの自我状態からC田さんのCの自我状態へ交流の矢印が向いていることになります。

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それならば、息子さんの代わりにC田さんがそのお小遣いを使ってあげるとおばあちゃんは喜ぶかもしれません。おばあちゃんのPの自我状態から来た矢印と、平行になる反応を返すのです。

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奥さんにその点を理解してもらうことが難しそうなら、内緒でお小遣いにしたとしても大丈夫です。息子さんの代わりに気持ちよくお小遣いを使ってあげましょう。

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④おばあちゃんからの「感謝の気持ち」として受け取り、C田家の家計に入れる。

おばあちゃんが「となりの家にいつも世話になるばかりではいけないので、自分ができる形のお礼をしたい」と思っているとしたら、その五千円はC田家として使ってあげるのが良いかもしれません。自分が「してもらう」ばかりでは申し訳ないので「自分にできることくらいはしよう」と考えて、お金をくれるのかもしれません。五千円の中には、その時C田さんが頼みをきいてくれたことだけでなく、他のさまざまな関わりへのお礼の気持ちも含まれているのかもしれませんね。そう解釈すると、おばあちゃんはAの自我状態でC田さんと交流しようとしていると考えることもできます。ギブ・アンド・テイクで周囲と対等に関わろうとする態度は、Aの自我状態から来る振る舞いです。
そういう振る舞いに対して「相補的交流」で応じる方法は、こちらもAの自我状態を使い、おばあちゃんと対等になれるような反応をすること(その五千円をC田さん一人のものにするのではなく「C田家として受け取る」ということ)です。

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おばあちゃんの気持ちを考えずに五千円をただ受け取るのではなく、C田さんが主体的にそう解釈するのであれば、奥さんにも理解してもらえるのではないでしょうか。ただし今後このようなおばあちゃんの「お礼」の頻度や金額が増してエスカレートするようであれば、また別の方法を考えたほうが良いでしょう。

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⑤となりのおばあちゃんが困った時に使えるよう「おばあちゃん基金」として取っておく。

⑤は、上に書いたようなおばあちゃんのさまざまな気持ちを受け取りつつも、おばあちゃんの将来のことを考えた反応です。C田家はおばあちゃんを半分家族の一員のように見守り助けていますが、本当の家族とは違い、お金のことまで管理してあげているわけではありません。おばあちゃんがどれくらいお金を持っているか、分かりませんよね。もしかしたら、何かしてもらうごとに少ない生活費の中からお金をくれるのかもしれません。
その額が「お礼にしてはちょっと多めだな」と思うのであれば、おばあちゃんが困った時のためにそのお金をプールしておくのが良いかもしれませんね。そうすれば、毎回おばあちゃんからお金をもらうたびにモヤモヤするということはなくなるでしょう。
おばあちゃんの気持ちを受け取り受容するのは、NP的な反応です。お金のことを考え、将来に備えるのはA的な発想です。

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NPのエネルギーを中心として、そこへAのエネルギーを加えていくような態度と言えます。NPが優位なエゴグラムは、日本の文化の中では適応の良いタイプだと考えられています。

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参考資料
チーム医療『わかりやすい交流分析』(Transactional Analysis SERIES 1)『交流分析とエゴグラム』(Transactional Analysis SERIES 3)

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