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再生を諦めなかった人たちが引き出した、古きものに宿る力――茨城県大子町の古民家カフェ『daigo cafe(ダイゴカフェ)』の魅力

古民家が持つ独特の趣に、どうしようもなく惹かれる。太い梁、木枠の窓、打ちっぱなしの土間。日本家屋ならではの重厚感は、幼年期にたびたび訪れた祖父母の家を想起させる。

近年、歴史ある建造物を温存しようと、古民家再生を町おこしのプロジェクトに加える地域が増えてきた。私が現在住居を構える茨城県も、古民家をリノベーションして、ゲストハウスやカフェなどに蘇らせた事例が県内各地で見られる。

昨日、そんな事例のひとつである古民家カフェに足を運んだ。以前から気になっていた念願のお店――茨城県大子町に位置する『daigo cafe(ダイゴカフェ)で過ごした日曜の昼下がりは、まさに至福のひと時であった。

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大子駅からほど近い商店街の一角に、レトロな外観のお店が静かに佇んでいる。

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手入れの行き届いた寄せ植えと手書きのメニューが、玄関前を彩る。また、紙細工の飾りも、お店の雰囲気作りに一役買っている。
昔、これと同じ飾りのパーツを祖母と競って折った。どうがんばっても祖母のスピードには勝てず、へそを曲げてしまった私に、祖母はこう言った。

「何回もやるしかないんだ。何回もやっているうちに、必ずうまくなるから」

新しいことにチャレンジするたび、何度も挫折を味わってきた。でも、そのたびに祖母のこの言葉が脳裏をよぎる。私はもう、紙細工の折り方を忘れてしまった。でも、祖母の言葉だけは覚えている。

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店内は明るすぎず、暗すぎず、落ち着いた雰囲気だった。古民家の持ち味を生かしたディスプレイが、空間にしっくりと馴染んでいる。

ダイゴカフェは築100年を超す建造物で、国の登録文化財に認定されている。カフェを開店する前、この建物は30年近く空き家だったらしく、改装にはおよそ1年もの歳月を費やしたそうだ。たくさんの時間と人の手が、愛情を込めてかけられた結果、こんなにも素敵な空間へと生まれ変わった。その工程には、きっと数えきれないほどの苦労があっただろう。数えきれない喜びも、また。

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私は「奥久慈しゃも卵のデミオムライス」を、共に訪れたパートナーは「奥久慈しゃもカレー」を注文した。
奥久慈しゃもは、全国特種鶏(地鶏)味の品評会で第1位に選ばれるほどの美味しさを誇る、奥久慈自慢のブランド地鶏である。肉は歯ごたえがあり、ヘルシーでありながら濃厚な旨味があるとして人気が高い。

オムライスの卵はとろとろの半熟で、見ているだけで幸せな気持ちになった。口に入れると、コクのある甘さとデミソースとが絶妙に絡み合う。これぞ、王道のオムライス。
パートナーの好意に甘え、奥久慈しゃもカレーも一口頬張る。こちらも甲乙つけがたく、スパイスに負けない奥久慈しゃもの濃厚な風味が、あとを引く旨さであった。

食事メニューは、以下の4種類。
・奥久慈しゃも卵のデミオムライス
・煮込みハンバーグ
・奥久慈しゃもカレー
・奥久慈生わさび丼
【各1,000円】

そのほか、ドリンクメニューや奥久慈りんごを使用したアップルパイなど、カフェメニューも豊富に取り揃えてある。
(※メニュー内容や価格は、状況により変更される可能性があります)

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店内の入り口付近には、大子町のお土産やクラフト作家さんの作品がずらりと陳列されている。奥久慈りんごのジュースやシールド、地元の養蜂家が端正込めて作った蜂蜜、ガラス細工のキャンドルホルダーなど、思わず目移りしてしまう商品ばかり。

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食後は、ひんやり冷たいアイスコーヒーでホッとひと息。程よいコクと苦味はありつつ、余分な雑味はない。スッと鼻から抜けるコーヒーの香りが、日頃の疲れをさらさらと流してくれる。
くるりと反り返った手作りコースターも、ほのかな笑みを誘う。

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昭和レトロなレジスターに、花柄のランプ。古きよきものを眺めていると、心が凪いでいくのはどうしてだろう。タイムトリップしたかのような、特別でありながらも静けさが満ちる時。

窓の外から流れてくるのは、長月ならではの心地良い風。秋の気配をはらみつつも、夏の名残りをかすかに感じる。アイスコーヒーを片手に、雑誌をぱらぱらとめくる。私もパートナーも、口数は少なかった。でもそれは、この上ない満足の証。

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お腹も心もすっかり満たされ、私たちはお店を後にした。名残惜しくて振り返ると、そこには1匹の猫が。カメラを構えても、微動だにしない。大子町商店街の看板猫なのだろうか。

「また来るね」

そう声をかけると、かすかに顔を上げた気がした。気のせい、かもしれない。

次回は「りんご屋さんのアップルパイ」を食べようと、すでに心に決めている。訪れたばかりなのに、早くも期待に胸が膨らむ。
定期的に通いたいお店が、またひとつ増えた。幸福の種は、案外あちらこちらに転がっている。それを拾い集めては、丁寧に水を与える。すべてがきれいに咲くわけじゃない。それでも、どれかはきっと咲く。

30年間、誰にも見向きもされなかった建物に、丁寧に水を与え続けた人たちがいた。だから私は、昨日、この上なく幸せな時間を過ごせた。古きものに宿る力、再生を諦めなかった人の力、さまざまな力が相互に働き、『daigo cafe(ダイゴカフェ)』は今日も明日も、多くの人に種をまくのだろう。小さな小さな、幸せの種を。

◇◇◇

『daigo cafe(ダイゴカフェ)』
〒319-3526 茨城県久慈郡大子町大子688
【電話番号】0295-76-8755 

※駐車場は、徒歩2分程度の近隣にある「大子町文化福祉会館まいん」を利用とのこと。車利用で初めて訪れる方は、事前に「まいん」の場所をチェックしておくと安心です。


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