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週末歌仙*葉ノ捌

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 81歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

第一首

(想像してみてください…)

夏の日差しも厳しい日中。
仕事の移動で、水路沿いの遊歩道を歩く。
鬱蒼と繁った並木のつくる日陰が、なんともありがたい。
じわりと汗ばんだ肌を、水面を渡ってきた風がひんやりと冷ましてくれる。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

汗ばめる
肌に風の 心地よく

せせらぎ耳に夏木立ゆく
<1999年 水辺にて詠む>

注)「夏木立(なつこだち)」は、青々と葉を生い茂らせた木々の様子を表す夏の季語。1本の木を表現したい時には「夏木」を用いる。

はがき絵・ともこ作

<解説>
毎日暑い日が続いていますね。
こんな中、外回りをしなければならない皆さんは本当に大変だと思います。
かく言うわたしも、営業の仕事でお客さまの家々を訪ねて歩いていた時期があります。炎天下の移動は本当にツラかった! そんな時、普段は気にも留めない街路樹の存在が、なんとありがたかったことか。

さて、この「夏木立」。皆さんはどんな景色を思い浮かべましたか?
緑の生い茂る「夏」と「木立」が合わさっているので、青々とした木々の様子を想像する方が多いのではないでしょうか。と同時に、梢から洩れる夏の強い日差しが、どこか生命力のようなものを感じさせるかもしれません。
「夏木立」を使った和歌に、こんなものがあります。

わくらばに訪ふ人もなき我が宿は 夏木立のみ生ひしげりつつ

良寛和尚の詠んだ歌です。
めったにひとも来ない家の周りに、夏の木々だけが鬱蒼と繁っている、というような意味なのですが、訪れるひとのない寂しさと自然の泰然として力強い様子がうまく対比されていますね。そして、決して孤独を厭うわけではなく、あるものをあるがまま受け入れている。そんなふうに感じさせるのも、やはり「夏」「木立」そのものの持つパワーなのかもしれません。
200年以上も前に詠まれた歌に使われていた言葉が、現代でも同じイメージのまま使用できるって、ちょっとすごいと思いませんか? 今回のわたしの歌も、その恩恵を充分に活用できたかと思います。
また、冒頭に「汗ばめる」、後半の初めに「夏」という字を配していますが、それほど蒸し~っとした印象で終わらずに済んでいるのは、「心地よい風」と「せせらぎ」のおかげ。このふたつも、時代や世代に関わらず「爽やかさ」を想起させる使い勝手のいい言葉ですよ。

夏の木立が涼を分けてくれるように、この短歌が皆さんにほんの少しでも涼しさを届けられれば、と願います。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
夏木立

・・・・・・・・・・

第二首

(想像してみてください…)

夏の風物詩、花火大会。
コロナ禍で絶えていたけど、今年は3年ぶりの開催だ。
遠くに住む子供たちとも待ち合わせをして、夜空に咲く大輪の花を観覧する。
そういえば、夫が生きていた頃は毎年ふたりで観にきたっけな。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

夏の夜を
亡夫(つま)と 花火に興じし日
思い起こして子らと楽しむ
 
<2023年、夏に詠む>

注)短歌では「夫」を「つま」と読ませる。

<解説>
日本の夏と言えば、「花火」「蚊取り線香」「うちわ」や「浴衣」、最近は「缶ビール」なんかもパッとイメージが浮かぶでしょうか。
さて、この「花火」ですが、実は使い方にちょっと注意の必要なアイテムなんです。花火には不特定多数で楽しむ打ち上げ花火と、線香花火など手持ちで楽しむもの2種類ありますよね。そのどちらを思い浮かべるかで、歌の情景や設定が変わってきます。
今回は最初に花火大会であることを説明してしまったので、ひとが集まる場所に、成人しているかそこそこ年齢の行った子供たちと出かけて、楽しんでいる場面を想像した方がほとんどだと思います。
ではこの花火が手持ち花火だったらどうでしょう? 若くして亡くなった夫を想いながら小さな子供たちと庭で花火をしている――そんな情景を想像することもできませんか?
敢えて曖昧さを残すことで、読者は自分本位にその歌を解釈できる。それもまた、短歌の魅力のひとつかもしれません。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
1)夏の夜
2)花火

・・・・・・・・・・

『作歌のこころみ』新設!

『週末歌仙』では、老若男女問わず気軽に作歌を楽しみたい方を募集中です。
「うまくつくれない」
「それ、おもしろいの?」(おもしろいです!)
そんな皆さんは、まず肩の力を抜いて、自分の心と向き合いましょう。
なにかを美しいと感じたり、楽しいと思ったり……。心を動かされたら歌の詠み時です(笑)

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※掲載をご許可くださったかたの短歌は『週末歌仙』でご紹介することがあります。
(すべての作品の掲載をお約束するわけではありません。)
※ご応募いただいたかたにこちらからご連絡差し上げることはありません。
 また、応募作品の著作権は応募者に帰属しています。『週末歌仙』でご紹介する以外に使用することはありません。

ちょっとやってみようかな、と思ったかた、ぜひご応募お待ちしています!


短歌:楓 美生
はがき絵:ともこ
編集:妹尾みのり

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