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週末歌仙*葉ノ肆

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 81歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

第一首

(想像してみてください…)

4月から始まった新たな環境。
やっと少し慣れてきたかなと思っていたのに、今日は嫌なことがあって心が折れそう。
巣に戻るカラスの鳴き声を聞きながら、とぼとぼと辿る家路。
その時、耳もとを通り風が吹き抜けた。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

足重く
帰る日暮れに (今日は今日)
(新たな明日を)と風がささやく
<2023年 夕暮れに詠む>

<解説>
期待を胸に新たな環境へ飛び込んでから1か月。疲れが出てきたり、理想との違いに気づかされたり、落ち込むことも多いのが5月ですよね。
本当に心が疲れていると、家族や友人からの慰めも素直に聞けなくなったりします。そんな時は、自然の声に耳を傾けてみてください。
古事記にこんな記述があります。
『葦原中國は、磐根・木株・草葉も、能く言語ふ』
草に覆われた太古の日本では、岩や草木の声がよく聞こえたそうです。こう書くと、木や花が陽気に歌うディズニーアニメなどを思い浮かべるかたもいるかもしれませんが、自然の発する声は聞き逃してしまうほど控えめなものなのではないかとわたしは考えます。そもそも耳で聞くわけではなく、テレパシーのようなものなのではないでしょうか。
風の声もしかりなので、この歌でも「 」ではなく( )を使用しています。(※「葉ノ参」を参照)
ちなみに今回の風は癒し系ですが、これが背中を叩くような叱咤鼓舞系の風であれば、歌の構成は大きく変わります。
今、あなたはどんな言葉を聞きたいですか?
それを主軸にして、いろいろ試してみてください。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
1)落ち込んだ時にあなたを支えたもの
2)風

・・・・・・・・・・

第二首

(想像してみてください…)

久しぶりに訪れた動物園。
快晴の空が抜けるように青い。
檻の中の動物たちは、銘々のんびりと餌を食んだり寝そべったりして寛いでいる。
鳥舎の鳥たちも、みんな止まり木でうとうとしている。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

籠の鳥
飛ぶのを忘れ 何思う
こんなに広い空があるのに
<1999年 動物園にて>

<解説>
1首めが癒し系なら、こちらは激励系。
まず冒頭に「籠の鳥」を持ってくることで、閉塞感を想起させています。対比となるのが「広い空」という言葉ですが、あえて体言止めを使わず、「あるのに(……)」と文章を未完のままにすることで、より「広い」が活きてきます。最初に感じた閉塞、そこからの解放を強調できるわけです。
籠の中は安全で、飢えることも敵に襲われる心配もありません。でも、世界は広い。そこで新たな経験をし、底力のある生き方をするために飛び出してみる、という選択肢もあるのではないでしょうか。
せっかくの翼も、使わなければ飛び方を忘れてしまいます。今は籠に守られていても、いつかその日が来た時に、自分の翼で大空へと飛び立てるよう心づもりはしておこう、そんなメッセージを込めた歌です。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
1)鳥
2)挑戦


短歌:楓 美生
編集:妹尾みのり

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